働き方改革が進められるなかで、「労働時間とは」「時間外労働とは」という知識が啓発される機会が増えています。
厚生労働省は、平成31年から令和2年にかけて段階的に施行される時間外労働の上限規制について「時間外労働の上限規制|わかりやすい解説」と題したリーフレットを公表しており、労働時間の限度として「1週40時間」が紹介されています。
1週間につき40時間とは、労働基準法 第32条1項において規定されている労働時間です。定められた労働時間を超えると、時間外労働として残業代の支払い対象となります。ただし、場合によっては残業代が発生しないこともあるので、正しい知識を身につけておきましょう。
本コラムでは「週40時間以上の労働に残業代はでるのか」をテーマに、残業代がでるケースとでないケース、残業代の計算方法、未払い残業代の請求方法などについて弁護士が解説します。
残業には「法定労働時間内残業」と「法定労働時間外残業」があります。
法定労働時間とは、労働基準法第32条によって1日につき8時間、1週間につき40時間と規定されている労働時間のことです。
「法定時間内残業」とは、1日につき8時間、1週間につき40時間を超えない範囲内でおこなわれる残業です。
たとえば、会社の就業規則で1日の所定労働時間が7時間と決められている場合に8時間働いたとき、この1時間の残業は、所定労働時間外の労働ですが、労働基準法の基準内の労働ですので、法定時間内残業となります。
このような法定時間内残業につき、使用者は、就業規則で割増率が定められている場合にはその定めに従い、また定められていない場合には25%の割増のない100%の時間賃金を支払う義務を負います。
「法定労働時間外残業」とは、法定労働時間の範囲を超えておこなわれる残業です。
たとえば、会社の就業規則で1日の労働時間が8時間となっている場合、さらに1時間の残業をすれば、法定労働時間を超えて労働しているため法定労働時間外残業となります。
法定労働時間外残業についての割増率は、労働協約、就業規則で労働基準法の定めを上回る内容が規定されていればそれにより、そのような規定がない場合またはあっても労働基準法の定めを下回る場合は、労働基準法の規定によることになります。
労働基準法で定められた、残業代の計算方法を解説していきます。
まずは、割増賃金を計算するうえで欠かせない、基礎賃金の額を確認しましょう。
一般的に、給与の内訳は、基本給と各種手当から構成されます。
まず、基本給が基礎賃金に含まれることには何ら問題がありません。
もっとも、各種手当はその手当の内容により基礎賃金からの除外の有無が決まります。
① 基礎賃金から除外されない手当
基礎賃金から除外されない手当は、
など、労働との関係性が強いと考えられる手当です。
② 基礎賃金から除外される手当
他方、労働基準法37条5項及びこれを受けた労働基準法規則に定める以下の手当は基礎賃金から除外されます。
これらの手当が除外されるのは、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づき支給されているからです。
また、
も同様に基礎賃金から除外されます。
基礎賃金を確認したら、次に、1時間あたりの賃金を算出します。
この1時間あたりの賃金に割増率と、残業時間を乗じれば、残業代が算出できます。
たとえば、1時間あたりの賃金が1800円で、5時から22時までの間に法定労働時間外残業を3時間行った場合、割増率は25%なので、残業代は以下のような計算になります。
時間外労働や基礎賃金の計算上では残業代が発生していても、以下のように、残業代請求ができないケースがあります。
労働時間の算出が難しい「事業場外労働」や、業務の進め方を労働者に任せる「裁量労働制」が労働形態とされている場合、みなし労働時間制が適用されることがあります。
みなし労働時間制の適用が認められると、実際の労働時間は問題にはならず、みなし時間だけ労働したとみなされます。
たとえば、ある業務にかかる時間が8時間として、会社がみなし時間を決定した場合、6時間で業務が完了しても、9時間で業務が完了しても、8時間労働とみなされます。
つまり、この場合、8時間以上働いても残業代は発生しないことになります。
ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超えた場合は、残業代の支払い対象になる可能性があります。
自分の労働時間に残業代が発生するか悩んだ場合は、まずは、労働問題に詳しい弁護士へ相談するのがおすすめです。
雇用契約を交わす段階で、あらかじめ一定時間の残業を規定したうえで残業代を含んだ給与を支給する「固定残業代」が採用されている場合も、残業代が支払われないことがあります。
固定残業代は「みなし残業代」とも呼ばれており、たとえば、毎月の残業代が20時間発生すると会社がみなして、20時間分の残業を含めた給与が毎月支払われる、というようなケースが該当します。
ただし、固定残業代の定めがある場合でも、その額が労働基準法上計算される時間外手当に満たず、差額の支払いもされていない場合は、労働者はその差額を請求することができます。
また、固定残業代が想定する時間を超えて残業がなされた場合にも(たとえば、上述の例で21時間の残業を行ったような場合)、労働者は超過分を請求することができます。
みなし残業制(固定残業制)の場合の残業代請求については、詳しくはこの章の最後にリンクされたコラムで解説しています。併せてご覧ください。
会社の管理監督者にあたる者は、労働基準法において、労働時間や残業代に関する一部の規定を適用しない適用除外者と定められています(労働基準法41条2号)。
管理監督者にあたる者は、相応の手当や給与を与えられていることを前提に、残業代の支払いの対象から除外されているのです。
ただし、管理監督者とは、基準としては、労働条件の決定その他労務管理につき経営者と一体的な立場になる者を指すため、中間管理職や雇われオーナーなどは基本的に対象外です。会社が労働者に「管理監督者」ないしそれに準ずる名前の役職をつけて社内で管理監督者として扱っていたとしても、それだけでただちに労働基準法上の管理監督者にあたる訳ではなく、労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかは、上記の基準に照らして厳格に判断されます。
管理職の残業代について、詳しくはこの章の最後にリンクされたコラムで解説しています。併せてご覧ください。
未払いの残業外が存在することが判明したら、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
まずは、未払い残業代が存在する証拠を集めるのが先決です。
などを確保しましょう。
特に業務用のパソコンに記録されている情報は、プリントアウトして自宅で保管しておくとよいでしょう。
なるべく穏便に交渉したいと考えているなら、まずは証拠を提示して、会社に改善を要求することからはじめるのもひとつの方法です。労働組合があれば、改善要求として交渉を検討してみましょう。
未払い残業代が発生している事実を、労働基準監督署に相談することもできます。
ただし、労働基準監督署は会社に指導・勧告を与えることができても、個別の問題への対処は期待できません。つまり、「未払い残業代を支払え」と命令できるわけではないのです。
未払い残業代の回収という成果を期待するのであれば、労働基準監督署の力だけでは解決できないことを理解しておくべきでしょう。
未払い残業代の請求は、個人の力だけでは交渉が難航するケースも少なくありません。未払い残業代の請求を検討しているのであれば、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
従来、未払いの残業代を請求できる権利が消滅するまでの期間は2年したが、令和2年4月から、3年に延長されました。
もっとも、この延長は、令和2年4月以降に支払い期日が到来する賃金が対象であり、それ以前の期間に関しては、依然として2年で時効となります。
よって、長期にわたり未払いが発生している場合には、いち早く、弁護士に相談して、時効を中断させる手続を講じる必要があります。
残業代の時効については、詳しくはこの章の最後にリンクされたコラムで解説しています。併せてご覧ください。
未払い残業代の請求には、労働問題を扱ってきた実績のある弁護士に相談するのがおすすめです。
有効な証拠の見極めや、未払い残業代の金額についてもアドバイスが受けられます。
さらに、弁護士の代理人となれば、内容証明郵便の送付により、残業代を請求する権利の消滅時効を中断させたうえで、会社との交渉を行います。このような形で交渉が進み、裁判に至らずとも、解決できるケースも少なくありません。
未払い残業代を請求するためには、まず証拠を集めて正確な残業代を算出する必要があります。何が有効な証拠かわからない、労働時間が多いが残業代を請求できるのかわからないなど、お悩みの際は、まずは弁護士に相談してみましょう。
労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所なら、残業代の把握に関するアドバイスや、会社との交渉など、未払い残業代を回収するために全力でサポートします。
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