毎月40時間程度の残業が続いている場合は、日本全体の平均値と比べても労働時間が長いと言えます。
36協定の締結状況や、残業時間の管理状況などによっては、月40時間の残業が労働基準法違反に当たる可能性もあります。残業が長すぎる、つらいと感じている場合は、早い段階で弁護士に相談しましょう。
本記事では、月40時間の残業に関する法律上の問題点や、違法残業が疑われる場合の対応・相談先などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
月40時間の残業は、労働者(従業員)の心身に大きな負担がかかります。
恒常的に月40時間の残業が続くと、メンタル不調や過労死などのリスクが高まるので注意が必要です。
労働基準法との関係でも、月40時間の残業は違法となるケースがあります。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、令和6年度の規模5人以上の事業所における平均所定外労働時間は月10.0時間でした。
フルタイムの一般労働者に絞ると、平均所定外労働時間は月13.4時間となっています(※)。
このデータと比較すると、月40時間の残業はかなり長い部類であることが分かります。
出典:「毎月勤労統計調査 令和6年度分結果確報」(厚生労働省)
労働日に行われる残業は、「法定内残業」と「時間外労働」の2つに分類されます。
使用者による残業の指示は、労働契約や就業規則にその根拠となる定めがあることが必要です。
法定内残業を超えて、使用者が労働者に時間外労働を指示するためには、更に労働組合または労働者の過半数代表者との間で「36協定」(サブロク協定)を締結していなければなりません。
36協定は、時間外労働や休日労働に関するルールを定めるもので、協定で定めた範囲内で、使用者は労働基準法上の法定労働時間及び法定休日の違反を免れる効力が認められます。
36協定が締結されていないのに残業させたらどうなる?
36協定が締結されていない場合、使用者は労働者に時間外労働を指示することができません。
36協定が未締結の状態で月40時間もの残業をしている場合は、労働基準法違反の可能性が極めて高いといえます。
36協定がある場合でも、使用者は労働者に対して36協定の上限を超える時間外労働を指示することはできません。
36協定で定めることができる時間外労働の限度時間は、原則として1か月当たり45時間、1年当たり360時間までです。
例外的に、特別条項を定めていれば、年に6か月までは、上記の限度時間を超える時間外労働を指示できることがあります。
ただし、
通常予見できない業務量の大幅な増加に伴い臨時的に限度時間を超えた時間外労働の必要性ある場合
といった厳しい条件を満たさなければならず、かつ、その場合の時間外労働の上限は年720時間、1か月100時間未満(休日労働時間を含む)等とされています。
会社(企業)によっては、時間外労働の上限を「月20時間まで」「月30時間まで」などと定めているケースもあります。
このような場合には、月40時間の時間外労働はその会社の規定の上限を超えるため、指示することができません。
残業をした労働者に対して、使用者は残業代を支払う必要があります。
40時間残業をした場合に発生する残業代の計算方法を解説します。
残業代の額の計算式は、以下のとおりです。
ここで問題になるのが、1時間当たりの賃金(基礎賃金)ですが、その出し方は、以下の通りです。
そして、月平均の所定労働時間は、以下の計算式で出します。
労働の種類に応じて、以下の割増率が適用されます。
| 労働の種類 | 割増率 |
|---|---|
| 法定内残業(所定外労働) | 割り増しなし(通常の賃金) |
| 時間外労働 | 通常の賃金+25%以上 ※月60時間を超える部分については+50%以上 |
| 休日労働 ※法定休日(=労働基準法によって付与が義務付けられた休日)における労働 |
通常の賃金+35%以上 |
| 深夜労働 ※午後10時から午前5時までに行われる労働 |
通常の賃金+25%以上 |
たとえば、9時から18時(休憩1時間)で働く労働契約を結んでいる社員が、勤務日(※休日でない)に午前2時まで働いた場合には、
・9時~18時=割増率無し
・18時~22時=時間外労働で割増率25%以上
・22時~2時=時間外労働かつ深夜労働で割増率50%以上
で残業代を計算します。
たとえば、1時間当たりの基礎賃金が3000円である場合、残業40時間に対する残業代の額は以下のようになります。
たとえば次に紹介するケースでは、月40時間の残業指示が労働基準法違反に当たる可能性があります。
これらの場合には、労働者は使用者に対して未払い残業代を請求できるほか、使用者は刑事罰の対象となります(行為者につき6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、会社につき30万円以下の罰金)。
前述のとおり、使用者が労働者に対して時間外労働を指示するためには、あらかじめ36協定を締結しなければなりません。
月40時間も残業をしている場合は、ほぼ確実に時間外労働が含まれています。
そのため、36協定が締結されていない場合は労働基準法違反に当たる可能性が高いです。
コンスタントに月40時間程度の残業をしているケースでは、残業時間が45時間を超える月もしばしば発生していることもあるでしょう。
使用者が労働者に月45時間を超える時間外労働を指示できるのは、36協定に特別条項が定められている場合に限られます。
この場合でも、時間外労働が45時間を超える月は1年間で6回以内としなければなりません。
時間外労働が頻繁に月45時間を超える場合も、労働基準法違反の可能性が高いと考えられます。
記録上の時間外労働は月40時間程度でも、タイムカードを前倒しで打刻させられている場合は、実際の時間外労働は月45時間を超える可能性があるため36協定違反が疑われます。
また、実際の残業時間に応じた適切な残業代が支払われていない場合も、労働基準法違反となります。
何らかの手当に含まれているとの理由で、労働時間にかかわらず一律の残業代を支給する会社がしばしば見られます。
会社が支払う残業代を固定額とすることができるのは、固定残業代制を適切に導入している場合に限られます。
固定残業代制を導入する場合は、以下の事項を労働者に対してはっきりと示さなければいけません。
また上記③のとおり、固定残業時間を超えると追加残業代が発生するため、どんなに働いても残業代の額が同じというわけではありません。
毎月長時間にわたる残業をしているにもかかわらず、残業代の額が全く変わらない場合は、労働基準法違反の可能性が疑われます。
月40時間の残業でお困りの場合には、以下の対応の中から、ご自身に合った方法を検討しましょう。
ご自身の効率化の努力で残業が減らせるのであれば、それに越したことはありません。
ただし、効率化は素晴らしいことですが、それにも限度があります。
残業が多いのは自分のせいだけではないかもしれません。会社や第三者に相談することも視野に入れましょう。
心身がまだ健康なのであれば、健康なうちに転職も視野に入れましょう。
ただし、転職するにしても、正当な残業代を受け取る権利はありますので、残業代を会社に請求する作業も併せて行いましょう。
会社や上司が、話を聞き対策を打ってくれる可能性がある場合は、有効な手段でしょう。
仕事を効率化したらさらなる仕事を課されるとか、話を聞いただけで何も対応してくれないのであれば、社外に相談することを考えましょう。
心身の健康を維持するのが一番大切です。
心身がつらい場合には、早めに医療機関を受診や休職を検討しましょう。
会社から受けている残業指示が違法ではないかと感じているが会社には取り合ってもらえないという場合には、以下に挙げる窓口へ相談することをおすすめします。
労働基準監督署は、労働基準法などの順守状況を監督する行政機関です。
労働基準監督署に36協定違反や残業代未払いなどの事実を申告すると、その事実に関する立ち入り調査(臨検)が行われることがあります。
臨検によって違法状態が発覚した場合は、会社に対する是正勧告が行われます。この場合は、速やかに違法な残業指示が停止され、未払い残業代も支払われる可能性が高いです。
事業場に労働組合がある場合は、労働組合に相談することも選択肢のひとつです。
労働組合に相談すれば、団体交渉を通じて不適切な残業指示や残業代の未払いの是正を求めてもらえます。
残業が多すぎる状況の改善や、未払い残業代の回収を目指した対応を迅速に行ってもらいたいなら、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は労働者の代理人として、法的根拠に基づいて会社の違法行為を指摘し、その是正を求めます。会社との交渉に加えて、労働審判や訴訟などの裁判手続きも一任できるので安心です。
残業が多すぎてつらい、残業代が適切に支払われていないなどとお悩みの方は、早い段階で弁護士にご相談ください。
月40時間の残業は36協定によって許容される場合もありますが、会社が不適切な運用をしている場合には違法となります。
「残業が多すぎるのではないか」「適切に残業代が支払われていないかもしれない」などと疑問を持ったら、弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
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