会社に対して「未払い残業代を支払ってほしい」と考えたときは、時効があることに注意しましょう。未払い残業代の時効は3年となっているため、思い至った段階で早めに行動することが大切です。
残業代が未払いになっていることに気付いた時点で、すでに時効成立が迫っていたという場合には、時効の完成猶予や更新といった方法で、時効の完成を阻止することができます。大切な権利が時効により失われる前に、会社に対する残業代請求を行うようにしましょう。
本コラムでは、未払い残業代の時効と請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
初めに、未払い残業代の時効期間や起算点、残業代として請求できる割増賃金について説明します。
未払い残業代を請求する権利には、時効がある点にご留意ください。
一定期間、権利行使をすることなく時間が経過すると、時効により権利が消滅してしまいます。
現状、残業代請求権の時効は3年です。
しかし、これはあくまでも暫定的な措置にすぎません。
残業代の時効期間は再検討される
令和7年以降、残業代の時効期間について再度検討されることになっているため、その時点の状況によっては、時効期間が5年に延長される可能性もあります。
時効の起算点とは?
時効の起算点とは、どの時点から時効期間がスタートするのかという基準時のことで、「権利を行使できるとき」と民法で定められています。
ただし、期間計算の一般原則として初日不算入の原則があるため、時効の起算点を計算する際も、初日ではなく翌日から計算することに注意が必要です。
つまり、残業代請求権は給料日に行使することができますが、初日不算入の原則により、未払い残業代の時効の起算点は給料日の翌日になります。
残業代として請求できる割増賃金には、以下のようなものがあります。
法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて働いた場合
超過時間分については、25%以上の割増率により増額された残業代を請求することが可能です。
月60時間を超える時間外労働をした場合
超過時間分については、50%以上の割増率により増額された残業代を請求できます。
深夜労働をした場合、その時間については25%以上の割増率により増額された深夜手当を請求することが可能です。
深夜労働と時間外労働の割増率は、重複して適用されるため、深夜残業をした場合には、50%(75%)以上の割増率により増額された割増賃金を請求することができます。
休日労働をした場合、その時間については35%以上の割増率により増額された休日手当を請求することが可能です。
休日に深夜労働をした場合
深夜労働と休日労働の割増率は、重複して適用されるため、休日に深夜労働をした場合には、60%以上の割増率により増額された割増賃金を請求することができます。
他方で、時間外労働と休日労働につきましては、休日労働のみ適用され、重複して適用されることはありません。
したがって、休日に1日8時間を超えて働いても、割増率は35%から変わりません。
未払い残業代請求を行う場合、一定の事情がある場合には時効の進行を一時的にストップできます。
時効の進行を一時的に止めることを、「時効の完成猶予」といいます。
時効の完成猶予事由には、以下のものがあります。
催告とは、債権者が債務者に対し、債務の履行を請求する意思表示のことです。
労働者が会社に対して残業代請求をすれば、法律上の「催告」にあたりますので、その時点から6か月間時効の完成が猶予されます。
なお、催告をしたという客観的な証拠を残すためにも、未払い残業代を請求する際は内容証明郵便を利用して行うようにしてください。
時効の完成猶予事由である裁判上の請求には、以下のようなものがあります。
このような事由が生じると、当該事由が終了するまで時効の完成が猶予されます。
なお、確定判決などで権利が確定することなく、上記事由が終了した場合には、当該事由の終了後6か月間時効の完成が猶予されます。
労働者と会社との間で、未払い残業代についての協議を行う旨の合意を書面で行った場合、以下のいずれか早い時期まで時効の完成が猶予されます。
時効の進行をリセットすることを、「時効の更新」といいます。
時効の更新事由が生じた後は、再びゼロから時効期間がスタートします。
時効の更新事由には、以下のものがあります。
会社との話し合いの結果、会社が未払い残業代の存在を認めた場合、法律上の「承認」にあたるため、その時点で時効の更新となります。
また、未払い残業代のうち一部の支払いがあった場合も、承認にあたります。
時効の更新事由としての裁判上の請求には、以下のものが挙げられます。
これらの手続きが途中で終了することなく、権利が確定した場合に時効の更新となります。
時効の完成猶予事由としての強制執行には、以下のものが挙げられます。
これらの手続きが取り下げや取り消しによって終了することなく完了した場合、時効の更新となります。
以下のようなケースに該当する場合は時効が適用されませんので、時効期間経過後であっても会社に対して残業代請求が可能です。
残業代は、時効期間の経過により当然に消滅するわけではなく、債務者である会社が時効の援用を行わなければなりません。
時効の援用とは、時効により利益を享受する旨の意思表示であり、簡単にいえば「時効になったので残業代を支払いません」という意思表示のことです。
会社が時効の援用をしていなければ、時効期間が経過したとしても、会社に対して未払い残業代の請求ができます。
ただし、会社が時効期間の経過に気付いた際は時効の援用をしてくることが通常であるため、時効の援用をせずに支払いに応じてくれるケースは少ないでしょう。
会社による時効の援用が権利濫用にあたる場合、時効の援用をすることは認められません。そのため、時効期間経過後であっても未払い残業代を請求することが可能です。
時効の援用が権利濫用に該当するケースとしては、以下のケースがありえます。
ただし、会社側の時効の援用が権利濫用になるのは極めて例外的なケースであるため、注意が必要です。
会社に対して未払い残業代を請求する場合、以下のような方法で行います。
会社に対して未払い残業代を請求するには、残業代が支払われていないことを証拠により立証していかなければなりません。
そのため、まずは証拠を集めることが必要です。
残業代に関する証拠を確保できたら、次は証拠に基づいて未払い残業代の金額を算出しましょう。
残業代の計算は、以下のような計算式に基づいて行います。
なお、1時間あたりの賃金は以下のように計算します。
実際の残業代計算は、個々の労働条件などにより、さらに複雑なものになります。
知識や経験がなければ正確な残業代を算出することは難しいといえますので、残業代計算は弁護士に任せるのがおすすめです。
未払い残業代の金額が明らかになったら、内容証明郵便を利用して残業代の支払いを求める通知書を送付しましょう。
その後は、直接会社との話し合いまたは書面による交渉を行っていきます。
会社が残業代の支払いに応じる意向を示したときは、支払い条件などの詳細を決めた後、合意書を作成します。
会社が未払い残業代の支払いに応じないときは、労働基準監督署への申告も有効な手段です。
労働基準監督署による調査の結果、残業代の未払いが明らかになれば、会社に対して指導や是正勧告が行われるため、未払い残業代の支払いに応じてくれる可能性があります。
会社との交渉で解決できないときは、裁判所に労働審判の申し立てを行います。
裁判の前に必ず利用しなければならない手続きではありませんが、裁判よりも迅速な解決が期待できるため、話し合いによる解決の余地がある際は労働審判の利用を検討してみてもよいでしょう。
会社との交渉や労働審判で解決できないときは、最終的に裁判所に訴訟を提起することが必要です。
訴訟になると、労働者の側で証拠に基づいて未払い残業代の存在とその額を立証していかなければなりません。
専門的な訴訟手続きに対応するには弁護士のサポートが欠かせないため、早めに弁護士に相談・依頼するようにしましょう。
以下のような理由から未払い残業代の問題は、弁護士に相談するのがおすすめです。
残業代請求を成功させるためには、未払い残業代に関する証拠を集めることが重要になります。裁判になった場合、証拠の有無によって結論が大きく左右されますので、十分な証拠を確保できれば勝訴の可能性が高くなります。
弁護士に相談をすれば、具体的な状況に応じて必要な証拠とその収集方法をアドバイスしてもらえるため、証拠収集が容易になるでしょう。
また、自分で対応が難しい場合には、弁護士が代理人として証拠収集を行うことも可能です。
未払い残業代を請求する場合、まずは会社との交渉が必要です。
しかし、労働者個人での交渉は会社側が真剣に取り合わないことも多く、個人での対応には限界があるといえるでしょう。
弁護士は、労働者の代理人として会社と交渉ができるために、会社も真摯に対応してくれる可能性が高くなります。
会社との交渉が決裂して労働審判や訴訟に進展した際も、弁護士に法的対応を任せることが可能です。
残業代を出さない会社はブラックであることが考えられるため、未払い残業代だけでなく、その他の労働問題も発生している可能性があります。
未払い残業代のトラブルを相談する際には、会社に関するその他のトラブルもあわせて相談することで、まとめて解決に向けて動き出すことが可能です。
令和2年の法改正により未払い残業代の消滅時効は3年になりましたが、今後の状況によっては5年になる可能性もあります。
残業代には時効がありますので、時効になる前に未払い残業代に関する証拠を集め、会社と交渉していかなければなりません。
時効が迫っている場合には、時効を止めるために内容証明郵便を送付するなどの対応も必要です。適切な対応をとるためにも、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
会社に対して未払い残業代の請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
労働問題に知見のある弁護士が、迅速な解決のために尽力いたします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を
今すぐには弁護士に依頼しないけれど、その時が来たら依頼を考えているという方には、ベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
何か法律トラブルに巻き込まれた際、弁護士に相談するのが一番良いと知りながら、どうしても費用がネックになり相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。そんな方々をいざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
ベンナビ弁護士保険に加入すると月額2,950円の保険料で、ご自身やご家族に万が一があった場合の弁護士費用補償(着手金)が受けられます。残業代請求・不当解雇などの労働問題に限らず、離婚、相続、自転車事故、子供のいじめ問題などの場合でも利用可能です。(補償対象トラブルの範囲はこちらからご確認ください。)
ご自身、そして家族をトラブルから守るため、まずは資料請求からご検討されてはいかがでしょうか。
提供:株式会社アシロ少額短期保険 KL2022・OD・214