新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済は全国的に落ち込み、企業の業績が悪化しています。働いている会社の経営状態が悪化することは、労働者にも直接的な影響を与えます。
会社から休業を命じられたり、「コロナで売上が減少したので、来月から給料を5万円減額する」などとして、会社から一方的に給料カットを言い渡されている労働者の方もいらっしゃるでしょう。
しかし、会社としては、休業を命じる場合には休業手当を支払わなければならない場合がありますし、給料の減額については、原則として、会社と労働者の間で合意が必要とされます。
コロナを原因とした紛争だけではありませんが、実際に会社側と労働条件の引き下げが原因で、令和3年度に行政に個別労働紛争として相談された件数は、3万524件に上りました。(※出典:厚生労働省ホームページ「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)
本コラムでは、コロナウイルスの影響による休業で「休業手当」が支払われる場合と支払われない場合や、一方的な給料カットに対して労働者がとれる対策について、弁護士が解説します。
※厚生労働省ホームページより:https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000959370.pdf
会社から一方的に給料をカットされた場合の、法的な取り扱いについて解説します。
労働契約法第8条では、
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
とされています。
労働契約の基本ルールとして、「労働契約の締結・変更は、労働者と使用者の合意によらなければならない」とされているのです。
これを、「合意の原則」と呼びます。
「合意の原則」の観点から見れば、新型コロナウイルスによる業績悪化という理由があるとしても、合意なく一方的の給料をカットすることは労働契約法に違反する可能性があります。
労働契約法第9条では、
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
とされています。
もっとも、同条は、「ただし、次条の場合は、この限りでない。」としており、労働契約法第10条が定める以下の条件を満たす場合においては、例外として、就業規則の変更による給料カットなどの労働条件の変更が可能です。
このように、就業規則がきちんと周知され、就業規則の変更が合理的なものである場合には、就業規則を変更することで給料カットを行うことも正当であると認められる可能性があります。
ただし、就業規則の変更の際には、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)からの意見聴取や、労働基準監督署への届出などの手続きが必要とされます(労働基準法第89条、第90条参照)。
外食産業やホテル業をはじめとして、新型コロナウイルスの感染拡大が原因で休業を余儀なくされている企業や事業所も少なくありません。
会社が休業した場合における給料の扱いについて、解説いたします。
労働基準法第26条では、
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
と定められています。
つまり、会社側の責任となる理由で労働者を休ませた場合には、会社は労働者に対して「休業手当」を支払わなければいけません。
なお、休業手当の支給対象は正社員に限らず、パートやアルバイトも対象となります。
会社がこれに違反すると30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法第120条)。
ところで、休業手当と似た言葉で、「休業補償」というものもありますが、これは、多くの場合は、業務や通勤が原因のケガや病気で労働者が休業した場合に支払われる、労働者災害補償保険法に基づく保険給付のことを指します。
休業補償は、休業中に給付基礎日額の100分の60が支給されます(さらに休業特別支給金が給付基礎日額の100分の20支給されます。)。
新型コロナウイルスについても、ウイルスに感染した原因が業務・通勤に起因すると認められた場合には、休業補償が支給される可能性があります。
休業手当が支払われる「使用者の責に帰すべき事由」の具体例としては、以下のようなものがあります。
一方、台風や地震といった自然災害を原因とした休業は「不可抗力」として、休業手当の支払義務は発生しない可能性が高いです。
休業の原因が不可抗力と判断されるためには、次の2つの要件を満たすことが必要とされます。
ただし、台風などによる災害が関係する休業であっても、「通勤による混乱を避けるために、会社の判断により自宅待機や早期帰宅命令を出した」という場合には「不可抗力」に当てはまらず、休業手当が支給される可能性があります。
新型コロナウイルスが関係する休業としては、「都道県知事からの就業制限を受けて、会社が休業した」という事例もあれば、「労働者が感染し、あるいは感染の疑いがあるために、休業した」という事例もあります。
それぞれの場合における休業手当の扱いについて、解説いたします。
都道府県知事は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第18条第1項・第2項に基づいて、新型コロナウイルスに感染した労働者の就業を制限することができます。
労働者が新型コロナウイルスに感染して、都道府県知事による就業制限に基づいて当該労働者が休業させることは、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当せず、休業手当の支給対象にもなりません。
ただし、労働者が被用者保険に加入している場合は、保険者から傷病手当金が支給される可能性があります。
発熱の症状がある労働者が、「コロナウイルスに感染しているかもしれないから、出勤は控えよう」と自主的に判断して休業する場合は、休業手当の支給対象となりません。
ただし、「37℃以上の発熱の場合は出勤停止」など、会社が一定の条件を定めて休業を要請している場合には、休業手当の支給対象となる可能性があります。
労働者が新型コロナウイルスに感染しておらず、感染の疑いもないために就業制限の対象にはならない場合でも、会社側が労働者の安全確保のために休業を判断する場合があります。
このときには、当該休業は一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支給対象となります。
外出自粛による売上減少や取引先の事業停止など、新型コロナウイルスの影響によって経営が悪化して、会社が営業や操業を停止して休業する場合があります。
この場合にも、当該休業は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の対象となる可能性があります。
ただし、在宅ワークなど他の代替手段の可能性・休業を回避するために会社が行った具体的な努力・会社と労働者との協議の状況など、様々な要素が総合的に判断されたうえで、休業手当が支払われるべきかどうかが決定されるため、注意が必要です。
新型コロナウイルスによる業績悪化を理由にして給料カットを言い渡された場合や、一方的に給料カットされてしまった場合の対策について解説いたします。
給料カットは、「労働条件の変更」にあたります。
そもそも、労働契約法においては、労働条件を変更する際には、会社と労働者との間における合意が必要とされています(労働契約法第8条)。
そのため、会社が労働者に対し、給与カットへの合意を強引に要求してくる場合があります。
しかし、合意を強要されても、すぐに同意してはいけません。
給料カットの理由や減額される金額、給与カットが行われる期間などについて、詳しい説明を行うことを会社側に求めるべきです。
合意を保留することで、今後の対応策を冷静に考える時間を確保することもできます。
弁護士に相談すれば、より望ましい対応策が得られるでしょう。
また、会社から説明を受ける際には、ICレコーダーで録音する、書面を残すなどの方法で証拠を確保しておくことをおすすめします。
なぜなら、仮に同意を強要された結果、給料カットに同意してしまった場合でも、強要の事実を示す証拠が存在することで、給与カットを撤回させられる可能性が高まるからです。
すでに述べたとおり、就業規則を労働者の不利益に変更するためには、合理的な理由が必要とされます。また、会社側から労働基準監督署に届出を行うなどの手続きも求められています。
就業規則の変更が合理的だと認められない場合には、給料カットは違法となります。
そのため、カットされた分の給料を、後から請求することが可能になるのです。
カットされた給料を請求するためには、変更前と変更後の就業規則や、会社とのやりとりを記録したICレコーダー、会社との間で作成した書面などの証拠を準備したうえで、弁護士に相談しましょう。
もし手元に証拠がなく、会社側が就業規則などの開示を拒んでいる場合にも、弁護士から開示請求を行うことが可能です。
新型コロナウイルスの影響による経営悪化や自粛要請により休業を余儀なくされる事業所が増加しており、それに伴う労働トラブルも続出しております。
一方的な給料カットなどの不当な労働条件の変更や、休業手当の不払いなどにお悩みの労働者は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
労働トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、全力でサポートいたします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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