政府が掲げる重要政策のひとつである「働き方改革」に関する情報は、ニュースや新聞、雑誌やインターネットにいたるまで、さまざまな場所で見聞きします。
しかし、いくつもの制度を理解する必要があり、実際に自分が働く環境にはどのような影響があるのかまでは分かりにくいものです。
そもそも働き方改革とは何を指しているのか、中小企業に勤めている場合でも関係があるのか、全体像がよく見えない方もいらっしゃるでしょう。特に、時間外労働が減るのか、有給休暇が取得しやすくなるのかなどは、多くの労働者にとって大きな関心事かもしれません。
そこで今回は働き方改革とは何か、具体的にどこが変わるのかについて、重要なポイントを中心に解説します。
働き方改革とは、政府が「一億総活躍社会実現のための最大のチャレンジ」と掲げた、労働環境を大きく見直すための取り組みをいいます。
日本の労働現場は現在、
……など、さまざまな問題を抱えています。
長時間労働をしているにもかかわらず、日本の労働生産性は先進諸国と比較しても低く、日本経済再生のためには労働生産性向上が急務であるともいえます。
こうした問題に対し、労働者のニーズにあわせて働き方の多様化を進め、働きやすい環境にすることで、生産性の高い社会に変えていこうという取り組みが働き方改革なのです。
働き方改革が実現すると、国にとっては、労働者が増えることで税収がアップし、企業にとっては生産性向上、人材確保や離職防止につながるというメリットがあります。
労働者としても、これまでは介護や育児など家庭の事情で働けなかった人が働きやすくなることで、収入を得る機会が増えます。また、長時間労働が是正されて、これまで家庭にいる時間が短かった主たる働き手の心身の健康やワークライフバランスが保てるようになるなど、さまざまなメリットが期待できます。
政府は、働き方改革を推進するため「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)を平成30年6月29日に可決・成立させ、平成31年4月から順次施行させています。そして、改革の主な柱を次のように示しています。
長時間労働の是正として、次のような制度の導入や見直しが行われました。
……など
また、多様で柔軟な働き方の実現として、たとえば厚生労働省ではテレワーク(在宅、サテライトオフィス勤務など、時間や空間の制約を受けずに働く方法)や副業・兼業の推進、ダイバーシティ(多様性)の推進などの取り組みが行われています。
これにより、従来の勤務形態では働くことができなかった人も柔軟に働けるようになります。企業は優秀な人材を確保し、生産性や労働者の自己管理能力の向上にも期待できます。
さらに女性だけでなく、外国人労働者や高齢者、障害のある人、あるいは病気治療中の人や就労経験の少ない若者など、幅広い人に働く機会が与えられることで社会全体が活性化されます。
契約社員や派遣社員などのいわゆる非正規労働者に関しては、能力があっても正社員同等の賃金を得られない、不安定な雇用状態が続くなどの不合理な処遇が問題視されていました。
そこで働き方改革では、同一労働同一賃金を目指し、不合理な処遇をなくすための規定の整備や明確化、待遇に関する説明義務の強化などが行われます(旧「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」、改正後「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」、俗称「パートタイム・有期雇用労働法」8条~9条、14条)。
非正規から正社員への転換や処遇改善の取り組みを行った企業には、一人あたり50~70万円ほどのキャリアアップ助成金が支給されるなど、企業を後押しする仕組みも整備されています(同19条)。
労働者にとって働き方改革とは、特に長時間労働是正への期待が高まるものでしょう。
これまで、企業が労働者を時間外労働させるために必要な労使協定(36協定)には、月45時間、年360時間までという上限規制があったものの、特別条項付36協定を結べば実質的には際限なく時間外労働をさせることが可能でした。
これらの問題点に関し、働き方改革では、時間外労働時間の上限規制である月45時間、年360時間が法律で明文化され(労働基準法36条4項)、場合によっては、違反した企業や労務担当者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(労働基準法119条)。
特別条項付36協定についても、
……という制限が加わり、たとえ労使の合意があっても上限規制を超えて時間外労働させることができなくなりました(労働基準法36条6項)。
法律で上限規制と罰則が制定されたことよって、長時間労働は減っていくと期待されています。
長時間労働が減ることで、労働者は仕事以外の時間が増えることになります。
家庭生活との両立や自己研鑚によるスキルアップ、副業・兼業による収入アップなど、さまざまなメリットが期待できるでしょう。
一方、時間外労働が減ることで割増賃金も削減されますので、割増賃金を生活費のあてにしていた人は生活が苦しくなることも予想されます。
たとえば割増賃金を得ることを前提に住宅ローンを設定していた人は、割増賃金以外で収入を増やす手段を考えなくてはなりません。
また、企業が働き方改革を名目に労働時間を削減させるが仕事量は減らさない場合には、いわゆる「朝残業」や「持ち帰り残業」などの新たな問題が発生する懸念もあります。
日本における有給休暇取得率はおよそ51%(厚生労働省:平成30年 就労条件総合調査(PDF:333KB))と、いまだに低い水準であることが問題視されています。
この点、働き方改革では、有給休暇を取得しやすい職場環境を目指し、労働基準法の改正を行いました。
具体的には、法定の有給休暇が10日以上ある労働者に対し、企業が毎年5日の有給休暇を付与することが義務化されています(労働基準法39条7項、8項)。
平成31年4月から施行されており、大企業や中小企業の区別なく、また管理監督者も含むすべての労働者が対象です。1人でも5日を取得できない労働者がいれば違反になり、企業側は、労働者一人につき30万円以下の罰金を科されるおそれがあります(労働基準法112条)。
付与方法は次の3つです。
働き方改革はすべての労働者に関して労働環境の改善を目指すものですので、大企業のみならず中小企業も対象です。
ただし、中には企業規模によって適用される時期が異なるものがありますので押さえておきましょう。
今回は働き改革とは何かをテーマに、時間外労働時間の上限規制や有給休暇付与の義務化など、特に重要な点を中心にお伝えしました。
働き方改革は順次施行されていますが、制度をよく理解しない企業や、理解しても抜け道を探す企業は多くあるでしょう。
ブラック企業と呼ばれる企業の一掃までの道のりは遠く、現場ではいまだに労働紛争が起きています。紛争に巻き込まれないためには、働き方改革を含めた法律知識をご自身も得ることが求められますが、それだけでは対抗できないことも多々あります。
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