医師が病院を辞めたいと考えた場合、どうすればスムーズに退職できるのでしょうか。
特に、医局に所属している場合、強硬な引き止めや周りとの関係性悪化を懸念し、退局を申し出ることをためらう医師も少なくありません。そのような場合、利用を検討したいのが弁護士を介した「退局(退職)代行」です。
今回は、医局を辞めるメリット・デメリット、代行を利用するべき3つのケースなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
退職代行というと民間企業で利用されているイメージがあるかもしれませんが、医師が医局を退局する際にも利用することができます。
以下では、医師の勤務時間の実態と医師が退職代行を利用するメリットについて説明します。
医師の残業時間は、原則として以下の通り制限されています。
しかし、実際の現場では依然として長時間労働が常態化しているケースが少なくありません。
医師の過酷な勤務実態
厚生労働省の調査(※)によると、年間960時間の上限を超えて働いている医師の割合は約20%で、5人に1人の医師が上限規制を超えた残業をしていることがわかります。
特に、大学病院や関連病院に勤務する医局所属の医師は、夜間や休日の呼び出し、複数施設での兼務など拘束時間が長くなりやすい傾向があります。
こうした労働環境では「退職したい」と感じても、時間的・精神的余裕がなく、退職の意思を伝えるタイミングすらつかめないケースも珍しくありません。
参考:「医師の勤務実態について」(厚生労働省)
退職代行というと一般企業の会社員が利用するサービスというイメージが強いですが、医師でも利用可能です。
医師だからといって退職手続きに特別な制限があるわけではなく、民法に基づき2週間の予告期間をもって退職の意思を示せば、雇用契約を終了することができます。
特に、医局に所属している場合、上下関係や独特の慣習が影響し、「辞めたい」と口に出すだけで精神的な負担を強いられることがあります。
そのようなときは退職代行を利用することで、自分に代わって退職の意思を伝えてもらうことが可能になります。
医師が退職代行を利用する主なメリットは、以下が挙げられます。
医師は患者対応や業務の多忙さから、プライベートな交渉のために時間を割くことが困難です。退職代行に依頼すれば、退職の意思表示やその後の連絡業務を専門家に一任できるため、スムーズな退職が実現しやすくなります。
また、医療業界では人材不足であることから、簡単には辞めさせてもらえず退職を申し出ても強く引き止められてしまうケースも少なくありません。
しかし、退職代行で第三者が間に入ることにより、感情的な摩擦を避けながら退職の意向を伝えやすくなります。
ただし、医師という専門職である以上、円滑な退職には法的な配慮も必要です。
非弁業者(弁護士でない退職代行業者)に依頼すると、法的トラブルが発生するリスクもあります。
そのため、医師が退職代行を利用する場合には、後述するように弁護士への依頼を選択すると安心といえます。
医局を辞めることで「医局という後ろ盾がなくなる」などの不安があるため、なかなか医局を辞める決断ができない方もいるのではないでしょうか。
医局を辞めるメリットとデメリットを比較し、医局で働き続けるかどうか事前によく考えてみましょう。
医局を辞める際、一般に、以下のような不安を抱えている方が多いと考えられます。
たしかに慣れた環境を辞めて新しい環境へと移る際には、そのような不安を抱くのも当然といえます。
しかし、現状に不満を抱いているのであれば、医局を辞めることで不満を解消できる可能性もあります。
次の章以降で説明する、メリット・デメリットを比較して、検討すると良いでしょう。
医師が医局を辞めると、以下のようなメリットを得られる可能性があります。
医局所属のままでは給与や勤務時間に対する交渉がしづらく、待遇に不満を持つ医師も少なくありません。
退局して、自分の希望に合った医療機関へ転職することで、年収アップや、当直回数を減らせる可能性が高まります。
特に、民間病院では、実績やスキルに応じた報酬体系を導入していることが多く、条件交渉の余地も広がるでしょう。
大学病院や関連病院では、日々の診療に加えて、研究・学会活動・教育業務なども求められるため、激務になりがちです。
医局を離れることで、そうした付帯業務から解放され、集中して臨床業務に取り組めることが期待できます。
医局によっては縦社会が色濃く残っており、上司や同僚との人間関係に強いストレスを感じるケースもあります。
特定の指導医や先輩との確執、派閥争いなどで心身をすり減らしているのであれば、退局して自分に合った職場を見つけることで、精神的な負担を軽減することができるでしょう。
医師が医局を辞めるデメリットには、以下のようなものがあります。
医局に所属していれば、指導医の下で計画的に症例を積むことができ、専門医資格や博士号(学位)の取得が比較的有利な環境といえます。
しかし、医局を離れると、これらの目標達成に必要な症例数や研究機会の確保が難しくなり、キャリア形成に支障をきたす可能性があります。
大学病院では、最先端の医療技術や希少疾患に触れる機会が多く、専門性を高める貴重な環境が整っています。
しかし、退局後に一般病院へ転職すると、扱う症例の種類や深度に限りが出てくることがあり、専門性の維持・向上には別途努力が必要になります。
医局内では、同期や先輩・後輩とのつながりを通じて全国の病院と関係を築けるケースが多く、医師としてのネットワーク形成に大きく寄与しています。
しかし、退局すると、そのような横・縦のつながりが持ちづらくなり、転職や研究の情報収集が難しくなる可能性もあります。
医師が退職をしたいと考えても、自分から退職を切り出すのが難しいこともあるでしょう。
そのような場面では、退職代行の利用が有効となりえます。
以下では、医師が退職代行を使うべき代表的な3つのケースを紹介します。
退職の意思を伝えた医師に対して、上司や教授、院長から執拗な引き止めが行われることがあります。中には、退職届を受け取らない、脅しのような言動をされる、辞表提出後に嫌がらせを受けるといったケースもあるようです。
こうした状況では、本人が直接交渉することに強いストレスを感じたり、精神的に疲弊してしまったりするおそれがあります。
退職代行を利用すれば、医局からの強硬な引き止めにも代理人が対応するため精神的な負担を軽減することができるでしょう。
また、弁護士であれば、法に基づいた適切な主張を行うことも可能です。
長時間労働、不規則な当直、過度なプレッシャーなどにより、心身に限界をきたしている医師も少なくありません。
中にはうつ病や適応障害などを発症してしまい、退職意思を伝えるどころか、通常の業務すらままならない状態に追い込まれることもあります。
このような状態では自力での退職交渉は非常に困難でしょう。
弁護士に退職代行を依頼することで、心身を守りながらスムーズな退職が期待できます。
医局人事の特徴として、「本人の希望と関係なく異動を命じられる」という実態があります。急な遠方への出向、家庭事情を無視した配置転換などが行われても、医局員の立場では断ることが難しいこともあるでしょう。
というようなケースでは、退職を選ぶこともひとつの選択肢です。
しかし、自ら異動を拒否し、退職を申し出るのは勇気が必要ですし、精神的な負担も大きいものです。
こうした場合にも、弁護士を介した退職代行を利用すれば、直接の対話を避けながら、法的に正当な退職手続きを進めることができるでしょう。
医局を辞める際は、できる限り円満退職を目指したいところです。
これまでお世話になった医局と円満な関係性を保つことができれば、今後の医師人生への悪影響も最小限に抑えられるでしょう。
以下では、医局を円満に辞める方法と退職の流れを説明します。
医局を円満退職するには、相手に退職理由を納得してもらえるように説明することが大切です。
以下は、比較的円満退職につながりやすい退職理由の例です。
上記はあくまで一例です。ご自身の状況や本音に近い内容を組み合わせ、できるだけ前向きな理由に整理することが、円満退職への近道です。
円満に医局を退職するためにも、以下のような流れで退職の手続きを進めていきましょう。
ただし、医局によっては上記のような対策自体が困難だったり、円満退職が現実的に難しかったりするケースも存在します。
引き止めや人間関係の圧力、嫌がらせなどが見られる場合には、早めに弁護士による退職代行の利用を検討する方が、心身を守りながら適切に退職できる可能性が高いでしょう。
退職代行を利用することで、かえってトラブルに発展するケースもあります。
以下では、退職代行利用時のよくあるトラブルと注意点について説明します。
医局は人脈が密な世界であり、医師の動向が業界内で共有されることも珍しくありません。そのため、退職代行を利用したことが新たな勤務先に伝わり、転職後の人間関係に影響するおそれもあります。
無用なトラブルを避けるためには、退職代行を利用する場合でも、退職理由を丁寧に説明し、退職時の引き継ぎなどを誠実に対応することが大切です。
民間の退職代行業者では、退職の意思を伝えることはできますが対応には限界があります。
(民間の退職代行と弁護士の退職代行の違いについては、こちらで解説しています)
医局とのトラブルや労働条件の交渉などが必要な場合は、弁護士による退職代行を選ぶことでより安全で円滑に手続きを進めることができるでしょう。
医局によっては、「人手が足りなくなる」「患者対応に支障が出る」といった理由から、突然の退職に対して損害賠償請求をする構えを見せることがあります。
もっとも、民法上、正当な退職手続きを踏んでいれば、損害賠償が認められるケースは非常にまれです。
ただし、具体的な状況によっては損害賠償請求が認められるケースもありますので、不安に感じるときは、弁護士に相談して助言を仰ぐとよいでしょう。
退職代行サービスでは、弁護士資格を持たずに業務を行っている業者も多く見受けられます。弁護士資格を持たない業者が交渉行為をした場合、「非弁行為(弁護士法違反)」に該当し、依頼者にも不利益が及ぶおそれがあります。
「医局側とのやりとり」や「退職日・条件に関する交渉」が必要なケースは、法的な代理交渉に該当するため弁護士しか対応できません。
そのため、医師が退職代行を利用する際は、法律に基づいた対応が可能な弁護士に依頼することが安全です。
退職代行サービスは、民間の業者も提供していますが、対応できる範囲が限られていますので、円満退職を目指すなら法的知識や交渉力がある弁護士に任せるのがおすすめです。
以下では、医師が退職代行を弁護士に依頼するメリットを説明します。
弁護士資格がないまま相手方と交渉を行うと「非弁行為(弁護士法違反)」に該当するおそれがあります。
退職代行業者が医局に退職の意思を伝えるだけであれば、非弁行為には該当しませんが、残業代や退職金、有給休暇の消化などの退職条件の交渉を行うと非弁行為になってしまいます。
退職条件の交渉が必要なケースがある場合は、合法的に対応可能な弁護士に退職代行を依頼することをおすすめします。
上下関係が厳しい医局では、退局の意思を伝えるだけでも精神的に大きなストレスがかかることがあります。直属の上司や教授から慰留されたり、引き止めをされたりすれば、退職そのものを断念してしまうおそれもあります。
弁護士に依頼すれば、退職の意思表明や退職条件の交渉をすべて任せることができるため、医局と直接対峙する必要がありません。
特に、長時間労働やパワハラなどに苦しんでいる医師にとっては、弁護士が盾となってくれることが精神的な救いになるでしょう。
退職にあたっては、退職届の提出、雇用契約の終了、健康保険や年金の切り替え、各種書類の受け渡しなど、多くの手続きが発生します。
これらの事務的対応についても、弁護士に一任することでスムーズに進めることができます。
また、医局によっては、退職後に研究データの処理や論文の著作権に関する取り決めなどの問題が発生することもあります。
弁護士は、こうした専門的な内容にも法的な観点から適切に対応できるため、安心して次のステップに進むことができるでしょう。
医局によっては、月100時間を超える残業や、残業代の未払いが常態化していることも珍しくありません。こうしたケースでは、退職を機に、未払い残業代を請求したいと考える方もいるでしょう。
弁護士であれば、退職代行と並行してこれらの法的トラブルに関する相談や請求も対応可能です。労働審判の申立てや訴訟提起など、医師個人では難しい法的手続きを代行してもらえる点も大きなメリットといえます。
労働環境や人間関係のストレス、キャリアの自由度の低さなど、医局を辞めたいと考える要因はさまざまです。
退局の際は、不安に感じることもあるかもしれませんが、自分に合った働き方を見つけるチャンスでもあります。
転職や独立、専門性の追求など、将来を見据えた選択肢を考えることが重要です。
医局との関係や慣習から退職の意思を伝えにくい場合には、退職代行サービスの利用をご検討ください。弁護士による退局代行であれば、法的なトラブルへの対応や手続きも一任することができ、安心して退職を進めることができます。
医局の退局をお考えの医師の方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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