会社との間でトラブルが生じた場合には、「斡旋(あっせん)」という制度を利用することで解決できる可能性があります。あっせんとは、公平中立な立場の第三者機関が労働者と使用者との間に入って、話し合いによる紛争の解決を援助する制度です。
あっせんには、無料かつ非公開で行われるなどのメリットもありますが、参加を強制できないなどのデメリットもあります。労働問題を解決する方法には、あっせん以外にもさまざまな方法がありますので、それらのメリット・デメリットを踏まえて最適な手続きを選択することが大切です。
今回は、あっせん制度の概要や労働問題であっせんを利用するメリット・デメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働問題を解決する手段のひとつである、「斡旋(あっせん)」とはどのような制度なのでしょうか。
あっせんとは、労働者と使用者との間のトラブルについて、学識経験を有する第三者(あっせん委員)が当事者の間に入り、話し合いを促進することで紛争の解決を援助する制度です。
あっせんは、基本的には労働者と使用者との話し合いの手続きになりますが、弁護士、大学教授、社労士などの専門家があっせん委員となりますので、当事者だけで話し合いをするよりも適切な解決が見込めます。
あっせんによる合意に至った場合には、民法上の和解契約となりますので、当事者は、合意内容に従って債務を履行する法的義務が生じます。
あっせんを利用する場合には、労働基準監督署の総合労働相談コーナー、または都道府県労働局環境・均等部(室)に、あっせん申請書を提出して申し込みを行います。
申し込みが受理されると、当事者双方にあっせん開始通知が送付され、あっせんへの参加・不参加の意思確認が行われます。
当事者があっせんへの参加の意思を表明した場合には、あっせん期日が決定され、都道府県労働局内などのあっせん場所が指定されます。
当事者は、指定された日時に指定場所に出向いてあっせんを実施します。
なお、あっせんは、裁判とは異なり非公開の手続きです。
あっせんは、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づき、国が運用する制度ですので、無料であっせん制度を利用することができます。
また、あっせんが受理されてから結論が出るまでの期間は、平均で2か月程度、回数は原則として1回ですので、迅速な解決が期待できる手続きといえます。
裁判よりも簡単に紛争を解決できる可能性がある、あっせんですが、対象になるケースとならないケースがあります。
まず、あっせんの対象になるのは、以下のケースです。
会社が労働者を解雇するには、厳格な要件を満たさなければならず、客観的合理的な理由がなく社会通念上相当といえない場合には、解雇は無効となります。
また、雇用期間満了を理由に雇用契約を終了させる場合(雇止め)、一定の要件を満たさなければ、無効になることがあります。
このような労働条件に関する紛争については、あっせんの対象となります。
会社には、職場環境配慮義務がありますので、上司の部下に対するパワハラや男女間・同性間でのセクハラなどの防止や問題が生じた場合の対応などが求められます。
このような職場環境に関する紛争について、会社が適切に対応してくれない場合には、あっせんを利用して解決を図ることができます。
営業車を運転中に事故を起こしてしまった場合には、会社から営業車の修理費用の請求を受けることがあります。また、退職にあたって過去の研修費用の返還などを求められることもあります。
危険責任の原則や報償責任の原則から、会社から労働者への損害賠償請求は制限されています。また、過去の研修費用の返還を求めることが労働基準法の賠償予定の禁止規定に違反する場合があります。
そのため、金額などに納得いかない場合には、あっせんを利用して解決を図ることができます。
退職にあたって、会社から一定期間同業他社への就職を禁止する誓約書にサインを求められることがあります。退職後は職業選択の自由がありますので、同業他社への競業禁止の定めは、一定の制約を受けることになります。
このようなトラブルが生じ会社との話し合いでは解決できない場合には、あっせんを利用して解決を図ることができます。
一方、以下のようなケースについては、あっせんの対象にはなりません。
あっせんは、労働者と使用者との間に生じた労働問題を解決するための手続きです。
あっせんの当事者は、労働者と使用者になりますので、労働組合と会社との間の紛争や労働者と労働者との間の紛争については、あっせんで取り扱うことはできません。
他の紛争解決制度で取り扱われている紛争については、当該制度を利用して解決すべきですので、あっせんで取り扱うことはできません。
他の紛争解決制度で取り扱われている紛争の例としては、以下ものが挙げられます。
労働者の募集、採用に関する紛争については、都道府県労働局長の助言・指導の対象ですが、あっせんでの解決はできません。
あっせんを利用すると以下のようなメリットがあります。
労働問題を裁判で争った場合には、解決まで1年以上の期間がかかることもあります。
これに対して、あっせん手続きは、原則として1回の期日で終了し、平均処理期間も約2か月と非常に短くなっています。そのため、あっせんは、裁判に比べて迅速な解決が期待できる手続きです。
裁判は、公開の法廷で審理が行われますので、労働者のプライバシーを守ることはできません。
これに対して、あっせん手続きは、非公開とされていますので、第三者に紛争の有無や内容を知られる心配はありません。
あっせん手続きは、法律に基づき国が運用する制度ですので、誰でも無料で手続きを利用することができます。金銭的負担が生じませんので、気軽に利用できるという点もメリットとして挙げられます。
あっせんによる労働者と使用者との間で合意が成立した場合、民法上の和解契約となります。そのため、合意内容には法的拘束力が生じますので、あっせん終了後に義務の履行が期待できます。
一方、あっせんには、以下のようなデメリットもあります。
あっせんを利用するためには、所定の申請書を作成し、労働基準監督署の総合労働相談コーナーまたは都道府県労働局環境・均等部(室)に提出しなければなりません。また、関係資料などがある場合には、申請書に添付して提出する必要があります。
申請は、基本的には労働者本人が行わなければなりませんので、初めての方だと手間に感じることもあります。
労働者が話し合いによる解決を希望して、あっせんの申し出をしたとしても、会社側があっせんの手続きに参加しないということもあります。
あっせん手続きへの参加は強制ではありませんので、労使間の対立が大きく話し合いによる解決が困難な事案については、会社があっせんに参加してくれず、あっせんでは問題が解決しないことがあります。
あっせんは、労働者と使用者との話し合いによる解決を目指す手続きです。お互いに譲歩し合い、妥協点を探っていくことになりますので、合意ができなければ、あっせんは不成立となってしまいます。
あっせん委員からは、あっせん案が出されることがありますが、あっせん案に応じるかどうかも自由ですので、会社があっせんに参加したとしても合意に至らず、解決できない場合もあります。
あっせんが不成立になると、それで手続きは終了となります。
あっせん不成立後の労働審判や訴訟などのサポートまではしてくれませんので、さらに解決を希望する場合には、労働者自身で動いていく必要があります。
あっせん以外にも、以下のような方法で労働問題を解決することができます。
労働者と会社との間で、何らかのトラブルが生じた場合には、まずは紛争当事者による話し合いで解決するのが基本となります。ただし、労働者と会社では、交渉力に圧倒的な差がありますので、労働者個人での交渉では、納得のいく結論が得られないこともあります。
労働問題が労働基準法に違反するおそれがあるものであれば、労働基準監督署に相談することで解決できる可能性もあります。
労働基準監督署は、労働基準法違反の有無をチェックし、違反がある場合には、当該事業所に対して、指導や是正勧告などを行ってくれます。
ただし、労働基準監督署の指導、是正勧告には強制力はありませんので、会社が任意に応じてくれなければ解決は困難です。
労働組合は、労働者が主体となって組織する団体で、労働条件の維持・改善、経済的地位の向上を目指して会社と交渉を行ってくれます。
職場環境や労働条件でトラブルが生じた場合には、労働組合に相談してみるとよいでしょう。
労働問題は、弁護士に相談することによって、具体的な解決方法をアドバイスしてもらうことができます。
労働者個人で対応することが難しい場合には、弁護士に依頼すれば、弁護士が労働者の代理人となって、会社との交渉や労働審判・裁判などに対応してくれます。
なお、弁護士に相談する具体的なメリット・デメリットについては、以下の章で詳しく説明します。
労働問題を弁護士に相談すると、以下のようなメリットが得られます。
労働問題を扱う弁護士は、労働関係法令や判例などをよく知っていますので、さまざまな労働問題に対して、的確なアドバイスをすることができます。
労働者個人で対応する場合には、誤った対応をしてしまうと、会社とのトラブルがより深刻化してしまうおそれもあります。そのため、まずは、弁護士に相談をして、どのような方法で問題を解決すればよいかアドバイスしてもらうとよいでしょう。
弁護士に労働問題の解決を依頼すれば、弁護士が労働者の代理人となって会社と交渉をしてくれます。労働問題を相談できる機関にはさまざまなところがありますが、労働者に代わって会社と交渉できるのは、弁護士だけです。
ひとりで対応するのが不安である方や会社との交渉にストレスを感じる方は、弁護士に依頼することで精神的負担を大幅に減少することができます。
労働問題の内容によっては、会社との話し合いで解決することができず、交渉から労働審判や裁判に移行するものもあります。
弁護士に依頼をしていれば、交渉から労働審判・裁判になったとしても、引き続き担当してもらうことができますので、途中で専門家を変える必要はありません。スムーズな対応ができるという点も弁護士に依頼するメリットです。
弁護士に相談するデメリットは、「費用負担が生じる」という点です。
法律相談をすれば法律相談料が発生しますし、弁護士に依頼をすれば、着手金、報酬金といった弁護士費用の支払いが必要になります。
費用負担が生じるという点がネックになったり、トータルでどれくらいの費用がかかるのか不安で、弁護士への依頼をためらってしまうこともあるでしょう。
ですが、労働問題を扱う弁護士事務所のなかには、初回の法律相談料を無料にしているところもあります。
べリーベスト事務所では、
で承っております。
相談料以外にかかる費用についても、実際のご相談内容をもとに、弁護士が説明しますのでご安心ください。
詳しい費用はこちらをご覧ください
会社との間で生じた労働問題を解決する方法には、「あっせん」という手続きがあります。あっせんは、迅速な解決が期待できる手続きで、無料で利用することができますので、話し合いの余地がある事案では、積極的に利用してみてもよいかもしれません。
ただし、あっせんは、参加が強制されず、合意に至らなければ問題の解決ができません。
そのような場合には、労働審判や裁判などの法的手続きが必要になることもありますので、個人が抱える労働問題の解決を目指すのであれば、弁護士への相談をおすすめします。
当事務所では、労働問題専門チームが対応しますので、豊富な経験やノウハウに基づき、労働問題を適切に解決に導くことが可能です。
労働問題でお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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