男性による育児休業の取得が進んでいないことなどを背景に育児・介護休業法が令和3年6月に改正され、令和4年4月から段階的に施行されます。改正法のもとでは配偶者の産後8週間以内に男性が分割して育休を取得できる新たな制度が創設されるなど、男性の育休取得を促進する取り組みが始まります。
男性の育休取得をめぐっては、職場で嫌がらせを受ける「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」が社会問題になっており、男性が育休を取得しやすくなる環境整備の必要性が指摘されています。
本コラムでは、法改正による新制度を含め改正育児・介護休業法のポイントを解説するとともに、パタハラを受けたときの相談窓口などに関しても説明します。
実際に、育児休業を取得している男性はどれほどいるのでしょうか。
厚生労働省の令和2年度雇用均等基本調査によると、平成30年10月1日から令和元年9月30日までの間に配偶者が出産した男性のうち、令和2年10月1日までに育休を開始した人(育休の申し出をした男性を含む)の割合は12.65%でした。
制度があるにもかかわらず、8割以上の男性が育休を取得していない現実が浮かび上がっています。
また、厚生労働省が令和2年10月に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去5年間に勤務先の育児に関する制度を利用しようとした男性の中で、26.2%の人が育休の取得を阻害されるなどのハラスメントを経験したといいます。
さらに、同じ調査ではハラスメントを経験したと答えた男性のうち、42.7%の人が育休の利用をあきらめたということです。
こうした育休などを理由とした嫌がらせを「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」といい、育児に関する社会問題として関心が高まっています。
育休は男性・女性にかかわらず法律によって認められた労働者の権利です。
育児・介護休業法(※)第10条では、以下のように規定されています。
育児・介護休業法第10条
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育休を理由とした嫌がらせは同法に抵触する可能性があります。
(※)育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
男性による育児休業の取得が進んでいないことなどを背景に、令和3年6月に成立したのが改正育児・介護休業法です。同法は令和4年4月から段階的に施行されます。
男性の育休の取得促進などを目的とした改正法のポイントを解説します。
これまでも、出産後8週間以内の育休を取得した後、更に、2回目の育休を取得することができましたが、より柔軟な取得が可能となります。
改正後は、出産後の8週間以内については、通常の育休に加えて、合計4週間の出生時育児休業を申請することができるようになります。まとめて申請をする必要がありますが、2回に分割して取得することが可能です。
また、通常の育休も、2回取得することができるようになります。
通常の育休は、一度にまとめて申請する必要はありません。
産後8週間以内の分割取得を認めたことで、男性は配偶者の出産・退院時と里帰りから戻るタイミングにあわせて2回休業するなど、柔軟な対応ができるようになります。
分割取得によって、休業期間と仕事の繁忙期が重なるのを回避しやすくなり、男性の育休取得が進むことが期待されています。
現行制度では育休中の就業は原則、認められていませんが、改正育児・介護休業法は一定の条件を満たせば育休中の就業も可能としています。
休業期間に入り仕事ができなくなることが取得の障壁になっていたとの指摘があったためで、改正法は条件付きでの就業を認めています。
就業が認められる条件とは?
その条件とは、労使協定を締結している場合で、従業員が会社の提示した内容に同意していることです。休業中に就業してもよい従業員は会社に条件を示し、会社はその条件の範囲内で候補日や時間を提案します。
育休中の就業が可能になるのは、会社の提案に従業員が同意した範囲内です。
新制度では出生時育児休業の申請期限も変わります。
現行法では原則休業の1か月前までに申請をしなければなりませんが、出生時育児休業では原則休業の2週間前までに申請をすればよいこととなりました。
これも育休を取得しやすい雇用環境整備の一環で、より多くの取得を促す措置といえます。
通常の育児休業は1か月前のまま変わりありません。
有期雇用契約で働いており、育休を取る場合には、以下2つの条件が必要でした。
ですが、このうち「雇用期間が1年以上」という条件が無くなり、より育休を取るためのハードルが下がります。
さらに、会社が育休について行うべき義務が増加します。
具体的には、以下の3つです。
改正育児・介護休業法の施行を待たずとも、男性の育児休業取得に際し利用できる支援制度もあります。
育休期間中は、一定の要件を満たせば育児休業給付金が雇用保険から支給されます。
支給対象期間
育休開始日から終了日までですが、子どもが1歳に満たない間という条件が付きます。
また、子どもの両親がともに育休を取得する場合は1歳2か月、保育所に入所できないなどの理由がある場合は最長で2歳に満たない間と、条件は状況に応じて変わります。
支給金額
金額については、休業開始時賃金日額(休業開始前6か月間の賃金を180日で割る)に支給日数(原則30日)を掛け、その総額(賃金月額)の67%が支給されます。
ただし、育休中に就業して賃金月額の80%以上を得たときは支給されなくなるなど、状況に応じて金額や支給の可否が変わるため注意が必要です。
そのほか、育休期間中に社会保険料の負担が免除される制度もあります。
健康保険と厚生年金保険については、会社が年金事務所または健康保険組合に申し出を行うことで、被保険者本人負担分と会社負担分が免除されます。
免除期間
免除期間は育休を開始した日が含まれる月から、終了日の翌日が含まれる月の前月までで、子どもが3歳になるまでの間という条件があります。
社会保険料が免除されても健康保険は通常通り給付され、年金に関しても将来の給付額に影響することはありません。
育児休業の取得をめぐり会社で嫌がらせなどを受けたときは、どこに相談すればよいのでしょうか。
社内の人事部は、パタハラに遭った際の相談先候補のひとつです。
従業員がパタハラの被害に遭っていることを知りながら会社が解決に向けた措置を取らない場合、違法とみなされる可能性があります。
全国社会保険労務士会連合会は「職場のトラブル相談ダイヤル」を開設しています。
社会保険労務士は人事労務管理分野の国家資格で、パタハラのほかにも解雇や未払い賃金など労働問題に関する相談に応じてくれます。
また、社会保険労務士は個々の労働者と事業主との間の紛争について、「あっせん」という方法で裁判によらない問題解決を図ることができます。
各都道府県に置かれている労働局で運営されている、「総合労働相談コーナー」でも労働問題に対する相談を受け付けています。
また、厚生労働省が委託事業として実施している無料の電話相談窓口「労働条件相談ほっとライン」でもパタハラに関する相談が可能です。
匿名の相談もでき、パタハラを含む職場での嫌がらせについては、専門の相談窓口を案内してくれます。
育休取得後に降格されるなど会社の対応を不当に感じ、労働審判や裁判など法的手続きで問題の解決を図りたいときは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に育休の取得をめぐる問題の解決を依頼することで、不当な取扱いを撤回できる可能性があります。
会社との交渉も全て弁護士が代わりに対応してくれるため、直接対応をする必要はありません。
子どもが生まれ、仕事と家庭の両立で体力的、精神的にも辛く、家族の時間を優先させたい方は、早めに弁護士に相談をしてみましょう。
令和4年4月から改正育児・介護休業法が段階的に施行されると、最大4回の育休が取れるようになったり、会社との間で合意できれば育休中の就業が可能になったりするなど、男性が育休を取得しやすくなります。
その一方で、男性の育休をめぐっては取得に際して嫌がらせを受けるなどのパタハラが社会問題化しており、男性の育休に対する理解が進んでいない会社も少なくありません。
パタハラに関する相談窓口は法律事務所を含め、多様な機関で用意されています。
パタハラを受けたときはそうした相談窓口を活用し、問題の解決を図るのがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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