厚生労働省ホームページに掲載されている、『毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報』によると、令和5年、所定外労働時間は前年より0.9%減少しました。
残業をしている方の中には、残業時間に対して明らかに少ない手当しか支払われていない、深夜に働いても残業代が増えない、休日に働いても残業代が増えないなど、勤務先の違法性を疑っている方もいらっしゃるでしょう。
ご自身の残業代が適切に支払われているのかを知るためには、残業の定義や残業代の基本的な計算方法を理解しておくことが役立ちます。そのうえで、未払いの残業代があった場合には請求を検討するべきです。
今回は残業代の基本的な計算方法について、具体例を交えながら解説します。トラブルが多い固定残業代についても、あわせて確認しましょう。
(出典:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/23cp/dl/pdf23cp.pdf)
労働基準法第32条では、休憩時間を除く「1日8時間」「1週40時間」を超えた労働を禁止しています。
休憩時間を除く「1日8時間」「1週40時間」が法定労働時間と呼ばれるものであり、この時間を超えた労働がいわゆる残業です。
ただし、労使協定を結べば法定労働時間外に働くのは可能であり、その対価としていわゆる残業代(時間外手当)が支払われます。労働基準法では「割増賃金」と表現されています。
たとえば、契約上の勤務時間が9時~18時(休憩1時間)の場合、残業代が発生するのは実労働時間が8時間を超える9時前または18時以降の時間帯です。
また、同じ条件で月曜日から金曜日まで働くと、残業がなかった場合の1週間の実労働は合計40時間となります。もし、その週に土曜日も勤務すれば時間外扱いとなり、時間外手当が発生します。
注意が必要なのは、契約上の終業時間(いわゆる定時)を過ぎれば必ず割増賃金が発生するわけではない点です。
たとえば、契約上の勤務時間が10時~18時(休憩1時間)の場合、定時の18時を超えても実労働は7時間のため法定労働時間を超えません。そのため、18時~19時の労働に割増賃金は発生しません。
法定労働時間を超えない残業は「法定内残業」と呼ばれます。
法定内残業に対する残業代は、労働契約や就業規則などによって割増賃金の有無等について定められていることが一般的です。
時間外手当の他、休日や深夜に働いた分についても、それぞれ割増賃金が発生します。
残業した場合に支払われる賃金は、いくらになるのでしょうか。
残業代について、労働基準法では次の計算式が定められています。
ただし、会社の就業規則・給与規則等によって、労働基準法を上回る割増賃金率が定められている場合があり、その場合には当該規則等に基づいた計算を行うことになります。
必ず、自社の規定等を確認するようにしましょう。
計算式
1時間あたりの賃金額×時間外・休日・深夜労働をした時間×割増賃金率
「1時間あたりの賃金額」を算出する計算式は「月の基礎賃金÷1か月の所定労働時間」です(月給制の場合)。月の基礎賃金とは基本給および諸手当です。
なお、月の基礎賃金の考え方については、次の章で詳しく解説します。
次に、実際の勤務状況から「時間外・休日・深夜労働をした時間」を出し、割増賃金率分を乗じます。主な割増賃金率は以下のとおりです。
以上を踏まえ、具体例をもとに計算してみましょう。
※計算の便宜上、1円未満の端数を切り上げます。
まずは、1時間あたりの賃金を計算します。
1時間あたりの賃金
30万円÷160時間=1875円
ある日の労働が9時~21時だった場合、残業にあたるのは18時~21時の3時間です。
したがって、その日の残業代は「1875円×3時間×1.25=7032円」となります。
では、深夜労働の時間まで勤務をした場合は、どのような計算になるのでしょうか。
労働が9時~23時だった場合、残業をしたのは5時間です。ただしこのうち、22時~23時までは深夜労働の時間帯にあたるため、通常の時間外労働とは分けて計算します。
深夜労働の割増分は50%(時間外労働25%+深夜労働25%)です。
この日の残業代は、上記を合算した1万2188円です。
なお、計算が複雑に感じた方は、こちらの無料の残業代チェッカーを使うことをおすすめします。残業代のおおよその額を、簡単に把握することができます。
※残業代チェッカーは、あくまでも簡易的な計算による目安を示すものです。実際に請求できる金額は、勤務先の就業規則、勤務先との契約内容等によって異なります。
前述したように、残業代を計算するには1時間あたりの賃金を算出する必要があります。このとき注意しなければいけないのが、月の基礎賃金に含める手当と除外しなければならない手当があることです(労働基準法第37条5項・労働基準法施行規則第21条)。
除外の対象となるのは、以下の手当です。
各種手当について、残業代の計算に含まれるか・含まれないは、以下のように判断されます。
なお、基礎賃金から除外すると定められている上記手当を支給されていたとしても、必ずしも当該手当が基礎賃金から除外されるわけでなく、当該手当が個人的事情に基づいて支給されていたものかという実態に基づいて、当該手当が基礎賃金から除外されるか否かが判断されます。
たとえば「通勤手当」という名称でも、通勤距離に応じた実費を支給する場合には基礎賃金から除外されますが、通勤距離や費用とは無関係に一律の金額が支給されるような場合は基礎賃金から除外されません。
家族手当や住宅手当の場合も同様に、基礎賃金に含めるかどうかは、実態に即して考えます。
ここまで、一般的な残業代について解説しましたが、固定残業代の場合はどうなるのでしょうか。
固定残業代とは、あらかじめ残業を想定し支払われる残業代を指します。
一般的にみなし残業代とも呼ばれます。
たとえば、毎月残業が10時間発生すると想定されている場合、10時間分の残業代を含めた固定給が毎月の給与として支払われます。
固定残業代が導入されている場合、想定していたよりも実際の残業が少なかった月であれば、労働者は働いた分以上の残業代を受け取れるメリットがあります。
つまり、想定よりも残業が少なかった場合、会社が固定残業代を実労働時間に対応する金額まで削ることはできず、あらかじめ設定された金額をそのまま支払うほかありません。
労働者は、実労働時間を超過する分の金額を返還する必要はありません。
逆に、想定よりも残業が多くなった場合は、その超過する分の残業代について、固定残業代とは別途の支給が受けられます。
また想定外の残業が深夜に及んだ場合、通常の時間帯に対する割増(25%以上)と、深夜時間帯に対する割増(25%以上)の残業代の支給を受けられます。法定休日に出勤したのなら35%以上の割増の残業代の支給を受けられます。
もちろん、最初から深夜や休日労働が想定されている場合は、固定残業代を計算する際に、深夜・休日労働分を含めて、固定残業代を設定しておかなければなりません。
固定残業代は一見、複雑な制度にも思えますが、基本的な考え方は固定残業代を用いない場合とほとんど同じです。
実労働時間以上の対価を得られることがある点で労働者が得をすることはあっても、会社側が自由に残業代を節約できる制度ではないのです。
しかし実際は、想定より残業が多くなっても必要な残業代が支払われていないというケースが少なくありません。
会社による固定残業代制度の悪用が後を絶たず、しばしば労使間でトラブルになっているのが実情です。厚生労働省も、募集要項や求人票の記載に関して適切な表示を求めています。
固定残業代制度が適切に設計されている会社は意外と少ないです。
固定残業代部分と基礎給与部分の判別ができない場合が典型的です。
たとえば雇用契約書に「月給30万円、固定残業代を含む」とだけ記載されていた場合、基本給と固定残業代の区別が明確ではなく、何時間分の固定残業代なのか、また計算方法もわからないため、条件の合意そのものが否定される可能性があります。
その場合には、そもそも残業代が何ら支払われていないという結論になる可能性が高く、非常に高額な未払残業代を認定されるかもしれません。
残業した時間に対して、適切な手当が支払われていない場合は、会社へ請求できる可能性があります。その手順を確認しましょう。
① 証拠を集めてみよう
まずは証拠をそろえます。
何が証拠となるのかは状況によって異なりますが、一般的に次のようなものが証拠となり得ます。
② 証拠集めに困ったら、弁護士へ相談を
就業規則の内容を知らない方や、そもそも勤務先の会社に就業規則があることすら知らない労働者も大勢います。
また契約書を、紛失してしまい、お手元にない方もいます。残業代の計算に大きな影響を及ぼす可能性がありますので、これらの資料を手配する必要があります。
どのような証拠を集めればよいかの判断が難しかったり、証拠が手元になく、会社にタイムカード等、労働時間を立証するための資料の開示を求めても拒否された場合には、弁護士へ相談しましょう。
弁護士であれば、有効な証拠となり得るものや集め方に関する適切なアドバイスが可能です。また、会社に対して裁判所から証拠の提出を求める手続き(文書提出命令)の申し立てを行うなど、証拠を集めるためのサポートができます。
次に、未払いの残業代を計算し、会社に支払いを求める通知書を送ります。
「受け取っていない」と会社側に言い逃れされないように、内容証明郵便を利用しましょう。
仮に通知を無視された場合でも、後に労働審判や訴訟となった際の証拠となります。
また内容証明郵便を用いた請求は、残業代請求の消滅時効を一時的に中断させる「催告」にもあたります。
会社が、労働者との交渉で支払に応じない場合には、労働審判、訴訟の提起といった法的手段を検討することになるでしょう。
いずれの場合も弁護士のサポートを受けながら対処すると早期に、かつ、有利な解決が期待できます。
残業代の計算式こそ比較的シンプルな構造ですが、計算方法は会社によって多少の違いもありますし、実際の計算は簡単ではありません。
給与計算のルールが複雑化されていたり、本来は残業代の基礎賃金に含めて計算すべき手当が除外されていたりするケースもあるでしょう。給与計算のルールが複雑な会社ほど、残業代の計算方法も不明瞭で「こういうルールだから」などとあいまいな説明をされるおそれがあります。
知識不足のせいで、本来得られるはずの残業代を失ってしまっている労働者も大勢います。
また、納得いかないまま、会社の主張に言いくるめられ、残業代請求を諦めてしまう方もいます。
未払いの残業代があるのではないかと疑問に感じているのであれば、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
弁護士が正しい知識をもとに残業代の計算・確認を行い、未払い残業代があれば請求するためのサポートをします。まずはお気軽にご連絡ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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