厚生労働省ホームページの「毎月勤労統計調査 令和5年分結果速報」によると、令和5年の所定外労働時間は0.9%、前年より減りました。
毎年増減を繰り返している残業時間ですが、その残業代の計算方法として、みなし残業代制(固定残業代制)を導入している会社は数多くあります。
労働者にとってみなし残業手当(固定残業代)は、残業が少ない月にも残業代がもらえるというメリットがありますが、会社が正しい運用を行っていない場合、本来はもらえるべき残業代がもらえないということもあります。
今回は、みなし残業代制であっても、残業代を請求できるケースや請求方法について解説します。
(出典:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/23cp/dl/pdf23cp.pdf)
みなし残業手当とは、実際の労働時間にかかわらず、一定時間分の残業代が固定給のなかにあらかじめ含まれている残業代のことです。企業によって、固定残業代や定額残業代などと呼ぶこともあります。
みなし残業手当は、たとえば、「固定残業代として、法定時間外20時間分の残業代を含む」というように設定されます。この場合、20時間分の残業代が固定給として支払われます。
また、みなし残業手当は、実際の残業時間の有無にかかわらず支払われるため、上記の例で考えると、残業時間が10時間の場合でも20時間分の残業代が支払われます。
なお、みなし残業手当は一定時間分の見込み額が支給される制度ですが、それ以外の残業代が全く支払われなくなるものではなく、あらかじめ設定された残業時間を超えて残業をした場合には、超過分の残業代が別途支払われます。
みなし残業手当を賃金に含める場合、どのような条件であれば適法となるのか見ていきます。
まず、通常の労働時間の賃金にあたる基本給の部分と、時間外の割増賃金にあたる部分が明確に区別されていなければなりません。
これは、固定・定額部分が妥当な金額なのか判断するためです。
たとえば、「月給25万円(みなし残業手当を含む)」だけでは、基本給がいくらで、みなし残業手当がいくらなのかわかりません。基本給と残業代を明確に区別するには「月給25万円(20時間分のみなし残業手当3万円を含む)」などのように明らかにされている必要があります。
みなし残業手当を適用する場合は、口頭で説明するだけでは足りず、就業規則や雇用契約書に明記したうえで、労働者に周知する必要があります。
みなし残業手当をもらっていても、固定の残業時間を超えて働いた時間分は、残業代を請求することができます。
たとえば、みなし残業手当として、「20時間分の残業代を含む」とされている場合、月の残業時間が20時間以内の場合には、残業代を会社に請求することはできません。
反対に、20時間を超えた場合、たとえば、21時間ならば1時間分、35時間であれば15時間分の残業代を別途会社に請求することができます。
「みなし残業手当が支給されているからどれだけ残業しても毎月給料は変わらない」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、設定されたみなし残業時間を超過した場合、企業は超過時間分の残業代を労働者に支払う義務があります。
残業代が正しく支払われていない場合には、未払い分の残業代を会社に請求することが可能です。未払い残業代を請求するには、必要な準備があります。実際に会社に請求するまでにどのようなステップで進むのか、確認しましょう。
未払い残業代を請求する場合には、証拠を集めることが重要です。
どのような証拠を集めたら良いでしょうか。
未払い残業代を会社に請求するには、証拠を集めるということが欠かせません。
証拠の内容によっては、単体では残業を証明する力が弱いこともありますが、他の証拠と組み合わせることで有力になる場合もあるので、できるだけ多くの証拠を集めておきましょう。
証拠が乏しい場合(例えば〇月分のタイムカード等しか証拠を確保できなかった場合)でも、他の月については推測で計算し、請求できる場合もありますので、あきらめずに証拠を集めましょう。
未払い残業代は、以下の計算式で算出することができます。
「月平均所定労働時間数」は下記の算定式で算出します。
残業時間は、所定労働時間を超えた労働時間のことです。残業時間数を計算するにあたり、法定労働時間と所定労働時間を理解しておきましょう。
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限で、原則として「1日8時間、週40時間」とされています。
一方、所定労働時間とは、会社が独自に定めた労働時間のことです。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で設定しなければいけません。一般的に1日8時間と設定している会社が多いですが、7時間や7.5時間などと定めている会社もあります。
ここでは、一般的な勤務体系とされる1日8時間、週40時間を所定労働時間とした場合の残業時間の計算方法を解説します。
の合計が残業時間となります。
なお、ここでいう「労働時間」とは、実際に労働した時間をいいます。たとえば、早退や遅刻などで、労働をしていなかった時間や、有給などによって労働をしなかった時間は「労働時間」には含まれないため注意が必要です。
たとえば、みなし残業手当として20時間分の残業代を含んでいた場合で、かつ1時間あたりの賃金が1500円、残業時間の合計が30時間として、計算をしてみます。
すなわち、1万8750円がみなし残業手当以外に別途残業代を請求できる金額になります。
法定労働時間を超えて労働をした場合、企業は労働者に対して、基礎賃金に一定の割合で増額した賃金(割増賃金)を支払わなければいけないと、労働基準法によって定められています。このとき、増額される割合は、労働の種類によって異なります。
なお、所定労働時間が、法定労働時間である「8時間」未満の場合には、法定内残業が発生する可能性がありますが、法定内残業に対して割増賃金を支払うかは企業の定めによります。
たとえば、所定労働時間が7時間で、1時間残業した場合には、その1時間は法定内残業となります。法定内残業に対する割増賃金の支払いについては、企業の就業規則や雇用契約書の確認が必要です。
労働の種類と割増賃金率
労働の種類 | 賃金割増率 |
---|---|
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) | 25%割増 |
時間外労働(1か月60時間を超えた場合) ※代替休暇取得の場合は25%の割増無 |
50%割増 |
深夜労働(午後10時から午前5時までに労働した場合) | 25%割増 |
休日労働(法定休日に労働した場合) | 35%割増 |
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 | 50%割増 |
時間外労働(1か月60時間を超えた場合)+深夜労働 | 75%割増 |
休日労働+深夜労働 | 60%割増 |
法定労働時間の1日8時間、週40時間の労働時間を超えた労働に対しては、基礎賃金に対して25%割増されます。深夜労働においては、午後10時から翌午前5時の残業に対して、25%割増がされますが、深夜労働かつ時間外労働だった場合には、50%割増となります。
同様の考え方で、休日出勤をして深夜時間に労働した場合には、休日労働と深夜労働のそれぞれの割増率を合わせた割増賃金が支払われます。
未払い残業代が算出できたら、会社側と話し合いをします。
交渉はご自身で行うこともでき、その場合は費用もかかりません。
ただし、任意での交渉となるため、会社が応じてくれない可能性も多々あります。そのため、交渉の段階から弁護士に依頼をすることがおすすめです。
弁護士が交渉することで、法的根拠に基づいた話し合いが可能になり、また、ご自身で会社と交渉する負担も避けられます。
交渉は、文書でやり取りをする場合や直接会う場合、電話の場合など方法はさまざまですが、会社との状況などを踏まえて適切な方法で交渉しましょう。
また、交渉前には、内容証明郵便(郵便局が通知した内容を証明してくれる郵便)を会社に送りましょう。内容証明郵便は、いつ・どのような内容で・誰が会社に送り、未払い残業代を請求したのか、証明することができる郵便です。
内容証明郵便には一定のインパクトがあるほか、内容証明郵便を送ることで「時効の進行を止める」という効果が得られます。
労働基準法では、未払い賃金請求の時効は3年(令和2年4月以降に発生した賃金について。それ以前の時効は2年)と定められています。しかし内容証明郵便を利用することで、半年間は一時的に時効を止めることができるのです。
証拠を収集し、未払い残業代を正しく計算したうえで、会社と交渉を進めることになりますが、残業代の計算は複雑な計算となることが多いため、交渉段階から残業代請求の知見がある弁護士に相談することがおすすめです。
ご自身との話し合いには応じない会社も、弁護士から内容証明郵便が届くと、法的にしっかりとした対応をしなければならないと考えるでしょう。
また、弁護士に依頼することで法的な根拠に基づいて、会社と交渉することができるため、残業代を回収できる可能性も高くなります。
会社との任意の交渉で残業代を回収できなかった場合、次の手続きとして労働審判や訴訟(裁判)に移ることになります。
労働審判とは、解雇や給料の不払いなど使用者と労働者の間における労働トラブルの早期解決を目的にした、法的な手続きのことです。労働審判は、裁判官1名と労働審判員2名が間に立ち、双方からの意見を整理して、解決策がまとまれば調停の成立となります。
労働審判は訴訟と同じく裁判所で行う手続きですが、期日は3回までとされているため、訴訟に比べて早期解決を期待できるメリットがあります。
上限は3回ですが、途中で和解が成立するケースも多々あります。また、労働審判は、原則として話し合いによる解決(調停の成立)を試みるものであり、その点でも訴訟とは異なります。
もっとも、労働審判で解決しなかった場合は、訴訟に移行することになります。
労働審判で解決せずに、労働審判に異議申し立てがあると、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行します。
訴訟は、労働審判に比べて、時間と費用がかかります。労働審判の期日は3回ですが、訴訟の場合は、一般的に半年~1年程度かかります。ただし、訴訟には遅延損害金や付加金などの請求ができるというメリットもあります。また、訴訟に勝訴した場合は強制執行も可能です。
そのため、会社に責任を追及したい場合や確実に未払い残業代を取り返したい場合には、訴訟は有効な手段のひとつといえるでしょう。
今回はみなし残業代制(固定残業代制)が導入されていても、未払い残業代が発生するケースについて解説しました。
未払い残業代を請求することは労働者の正当な権利ですが、個人で会社と交渉することは容易ではありません。
そのような場合は、弁護士に相談することが得策です。
弁護士は労働者の方に代わって会社と交渉します。個人が相手では話し合いにすら応じなかった会社も、弁護士が交渉を申し出ることで、法的にしっかりとした対応をしなければならないという心理的効果を与えることができ、交渉が前進することが期待できます。
「未払い残業代を請求したい」「残業代を請求したいが証拠がない」といった悩みをお持ちの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。弁護士が親身になってお話をうかがいます。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を
今すぐには弁護士に依頼しないけれど、その時が来たら依頼を考えているという方には、ベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
何か法律トラブルに巻き込まれた際、弁護士に相談するのが一番良いと知りながら、どうしても費用がネックになり相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。そんな方々をいざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
ベンナビ弁護士保険に加入すると月額2,950円の保険料で、ご自身やご家族に万が一があった場合の弁護士費用補償(着手金)が受けられます。残業代請求・不当解雇などの労働問題に限らず、離婚、相続、自転車事故、子供のいじめ問題などの場合でも利用可能です。(補償対象トラブルの範囲はこちらからご確認ください。)
ご自身、そして家族をトラブルから守るため、まずは資料請求からご検討されてはいかがでしょうか。
提供:株式会社アシロ少額短期保険 KL2022・OD・214