昨今、過労死や残業代未払いといった「ブラック企業」の問題が世間で大きな話題となっています。厚生労働省でも、ブラック企業という言葉こそ使っていないものの、「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」として、問題解決に向けたさまざまな取り組みをしています。
令和2年11月に厚生労働省が「過重労働解消キャンペーン」で重点監督を行った9120事業場のうち、違法な時間外労働があり是正勧告書を交付された事業所は、2807事業所でした(参照:厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18389.html)。
このように、国でもブラック企業に対してはさまざまな対応が行われていますが、実際に強制力のある対応が行われるまでには時間がかかります。
それまでの間、ブラック企業に対して労働者個人ができることとしては、労働基準監督署への通報、裁判などを通じて不払いの賃金などを取り戻すこと、不当な取扱いについて損害賠償請求を行うことなどでしょう。
そこで、今回はブラック企業を相手に裁判を起こそうと考えている方に向けて、裁判の際に必要となる証拠や、どのようなお金を請求できるのかについてご説明します。
「ブラック企業」という言葉は法律用語ではなく、明確な定義があるわけではありません。一般に、ブラック企業の特徴として、労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、いわゆるサービス残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、労働者に対し過度の選別を行うなどということが挙げられています。
そこで、どのようなことがあればブラック企業を訴えることができるのかについて確認しておきましょう。
企業を訴えるためには、企業の行いが「違法」といえるか、契約上の義務に違反していなければなりません。
ただ上司が厳しいとか業務命令が気に食わないとかいうだけでは、違法であるとか契約上の義務に違反しているとまではいえず、訴えることはできないのです。
前述のとおり「ブラック企業」に明確な定義があるわけではありませんが、一般的に「ブラック企業」と言われる企業には、いくつかの典型的な特徴があります。
① 長時間労働
第1に、長時間労働です。
労働基準法では、1日当たり、1週当たりの労働時間を定めています(「法定労働時間」などといいます。労働基準法32条)。
36協定(労働基準法36条)なしにこの法定労働時間を超過して働かせた場合、違法となります。
② 残業代の未払い
第2に、残業代の未払いです。
法定労働時間を超えて働かせた場合には、割増賃金(いわゆる「残業代」です。)を支払う義務が生じます(労働基準法37条1項)。
長時間労働をさせておきながら残業代を支払わないのも、やはり違法です。
③ 各種ハラスメント
第3に、各種ハラスメントです。
セクハラ、パワハラ、モラハラ等のハラスメント行為が日常的に行われているような場合、ブラック企業と言えるでしょう。
どの程度のハラスメントが違法となるかを明確に示すことは困難ですが、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような場合には、違法であるとして民法上の不法行為(709条)に該当することとなり、ハラスメントを行った者や企業に損害賠償責任を生じさせます。
④ 不当な解雇や処分
第4に、不当な解雇や処分です。
企業が労働者を解雇したり懲戒したりすることがありますが、それはあくまで契約上の根拠や法律の規定に則ってすることができるに過ぎません。
懲戒や解雇については、労働契約法にその濫用を規制する定めがあります(15条、16条、17条)。
客観的に合理的な理由や、社会通念上の相当性のない解雇や懲戒は違法であり無効となります。
あなたが勤めている企業が、これらの特徴に該当する場合、ブラック企業といえる可能性があります。
発生している問題について、労働問題に詳しい専門家に相談するべきです。
ブラック企業の問題を相談したいと思った時、主に以下のような相談先があります。
それぞれ相談内容や方法、解決のプロセスが異なりますので、それぞれの特徴を紹介します。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)との間違いに、ご注意ください。
労働基準監督署の所在地はこちら
厚生労働省の出先機関である労働基準監督署(労基署)では、長時間労働や残業代の未払いなど、労働基準法違反等の事例についての相談を受け付けています。
違法行為の証拠を用意し、窓口もしくは電話、メール(厚生労働省の労働基準関係情報メール窓口)で相談を行いましょう。
ただし、証拠がなければ労基署が調査に乗り出すことはあまりありません。
労基署が企業を調査して違法行為が見つかれば、まずは是正勧告をします。度重なる勧告にも関わらず企業が是正をしない場合や、重大・悪質な事案については、労働基準法等の違反事件として取調べや捜索・差押え等の捜査が行われ、検察庁に送検されることもあります。
もっとも、労基署は企業が労働基準法等の法律を遵守しているかを監督する機関に過ぎませんので、あなたの代理人として請求などを行ってくれるわけではありません。
労働局も厚生労働省の出先機関であり、労基署の上位組織です。
労基署に相談できる内容に加え、セクハラやパワハラなども相談可能です。
相談すると、企業に対して都道府県労働局長による助言・指導をしてもらえたり、紛争調整委員会による問題解決のあっせんを受けることができたりします。
ただし、それらの措置には強制力がないため、必ずしも問題が解決するとは限らないという点が難点です。
労働組合とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を主たる目的として組織する団体又はその連合団体」です(労働組合法2条)。
組合に加入すれば、組合が企業と団体交渉を行ったり、場合によってはストライキなどを行うことによって、問題解決を目指すことができます。
ただし、組合費などの費用がかかったり、他の組合員のための活動にも参加しなければならなかったり、雑務の分担をしなければならなかったりするなどの問題もあります。
ご自身で企業と交渉するのが難しければ、弁護士に依頼する方法が考えられます。
証拠集めについてアドバイスを貰えたり、企業との交渉を任せたりすることができるばかりでなく、弁護士が法的に適切な主張をして交渉をすることによって、より良い事案の解決を図ることが期待できるでしょう。
もちろん、労働審判や訴訟(労働裁判)などの法的手続きも、弁護士に任せることができます。
もっとも、弁護士に依頼すれば費用がかかりますし、裁判ともなれば解決まで半年~1年以上の長期戦となることもあります。
それでも、かかる費用は損害賠償金や取り戻した未払い賃金・解決金等で賄うことができるケースも多いため、得られるメリットは大きいでしょう。
弁護士に相談すると、依頼した場合の見通しや費用について、説明してくれます。
弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットについて、自分が納得いくまで説明を聞き、信頼できると思った弁護士を選ぶことが大切です。
ブラック企業を訴える際に必要な証拠は、企業のどのような行為について訴えるのかによって異なります。
まず、残業代の未払いについては、請求する金額を確定するため、残業時間や雇用契約の内容がわかるものが必要です。
残業があった事実や残業時間を示す証拠としては、タイムカードや業務日報、シフト表などが挙げられます。雇用契約の内容がわかる証拠としては、雇用契約書、就業規則、給与明細などが挙げられるでしょう。
残業時間を明確に示す証拠がなかったとしても、FAX・メールの送信履歴、パソコンのログイン・ログオフの時間、オフィスビルの入退館記録、交通機関の利用履歴などから間接的に残業時間が示せることもあります。
職場環境によってどのようなものが証拠となり得るかは変わりますので、弁護士に相談することも検討してみてください。
次に、パワハラ・セクハラなどのハラスメント行為については、ICレコーダーやスマートフォンでの音声録音、パワハラやセクハラを示すメール本文などが直接的な証拠となります。
録音をすることが難しく、メールのような証拠が残っていない場合は、セクハラやパワハラが発生した状況の詳細なメモを日々作成しておくことで、証拠と認められるケースがあります。
ハラスメントの事実をきちんと証明することができなければ、損害の発生が認められなかったり、認められたとしても非常に低額な慰謝料となることが想定されますので、証拠集めは非常に重要です。
不当解雇については、解雇の理由が記された解雇理由証明書を用意します。
解雇理由証明書は、法律上、従業員から請求を受けた企業は必ず交付しなければならないと定められている書類です(労働基準法22条1項、2項)。したがって、交付されなければそれ自体が違法行為となります。
そのような企業を相手取る場合は、弁護士に相談、委任して解雇理由証明書の交付を求めた上で、解雇の有効性を争うことをおすすめします。
また、不当な降格処分を受けたというケースであれば降格理由の確認をし、できれば書面で残しておくようにしましょう。
ブラック企業を訴え、主張に正当性が認められた場合には、解決手段として金銭が支払われるのが一般的です。どのようなお金を請求できるのかをご説明します。
未払いだった残業代を請求できます。
もっとも、必ずしも請求した金額の全額が認められるとは限らず、裁判所が残業の事実を認定した範囲や裁判所が認定した計算方法の限りで認められることとなります。
証拠不足で残業の事実を十分に立証できなければ、支払われる金額もそれだけ少なくなる可能性があるのです。
また、未払い残業代の請求権は原則として3年で時効により消滅してしまいます。そのため迅速に請求する必要があります。
ハラスメントが民法上の不法行為(709条)に該当すると認められた場合には、精神的苦痛に対する損害賠償である慰謝料を請求できます。
不当解雇の場合、解雇が無効であるから雇用契約が継続しているとして、解雇期間中の賃金を請求できます。
懲戒や降格などの不当処分であれば、処分が無効であるとして、処分がなかった場合に支給されたはずの給与と実際に支給された給与の差額などを受け取れる可能性があります。
ただ、いずれの場合であれ、労働者が個人で企業と交渉しようとしても、素直に応じてもらえないケースが多数を占めるでしょう。
確実に金銭の支払を受けたいのであれば、弁護士に相談の上、どのように請求や交渉を行うのがベストかを検討されることをおすすめします。
今回はブラック企業の問題についての相談先や訴えるための証拠、訴えた場合に得られる金銭などについてご説明しました。
ブラック企業による労働トラブルは数多く発生していますが、ブラックであることを承知の上で企業を経営している使用者もいるため、個人の労働者による話合いの道は険しく、まともに対応してもらえないことも少なくありません。
ブラック企業を訴えたいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
労働問題の取扱経験が豊富な弁護士が、望ましい方法を検討し、全力でサポートを行います。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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