公立学校教員には、どれだけ残業したとしても、残業代が支払われないことになっています。その反面、公立学校教員の労働環境は過酷で、長時間労働を強いられる方も少なくありません。
過酷な労働環境にもかかわらず、なぜ公立学校教員には残業代が支払われないのでしょうか?
今回は、公立学校の教員(教師)の残業代に関する法律上のルールについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
平成28年度に行われた教員勤務実態調査の結果によれば、教員の1日当たりの学内勤務時間は、以下のとおりとなっています。
平日小学校 | 中学校 | |
---|---|---|
校長 | 10時間37分 | 10時間37分 |
副校長・教頭 | 12時間12分 | 12時間6分 |
教諭 | 11時間15分 | 11時間32分 |
小学校 | 中学校 | |
---|---|---|
校長 | 1時間29分 | 1時間59分 |
副校長・教頭 | 1時間49分 | 2時間6分 |
教諭 | 1時間7分 | 3時間22分 |
出典:「教員勤務実態調査(平成28年度)集計【確定値】」(文部科学省)
労働基準法で定められた1日の法定労働時間が8時間であることを考慮すると、教員の労働時間は相当に長いことがわかります。
それに加えて、生徒一人ひとりと向き合い続けることは、教員にかかるストレスは非常に大きいものだと言えるでしょう。
このような過酷な環境で働くことにより、身体や心を壊してしまう教員の方も大勢いらっしゃいます。
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公立学校教員に対して残業代が支払われないのは、「給特法※」によって残業代が支払われないことが決められているためです。
※正式名称:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
給特法第3条第2項により、公立学校の教育職員については、時間外勤務手当および休日勤務手当は不支給とされているため、どんなに残業をしたとしても、残業代が支払われることはありません。
給特法の対象は?
給特法の対象となる「教育職員」とは、義務教育諸学校等※に所属し、以下のいずれかに該当する者を意味します(給特法第2条第2項)。
また、給特法が指す「義務教育諸学校等」とは、公立である以下の学校等のことです(同条第1項)。
この給特法のルールが、公立学校教員に対して残業代が支払われないことの根拠となっています。
給特法に定義される「教育職員」(公立学校教員など)に対しては、残業代(時間外勤務手当や及び休日勤務手当)が支払われません(給特法第3条第2項)。
その代わりに給与月額の4%が「教職調整額」という名のみなし手当として一律に支給されることになっています(給特法第3条第1項)。
このルールは、教員の職務は自発性・創造性に期待する面が大きく、勤務時間の長短によって機械的に評価することは不適切との考え方から定められています。
しかし、教職調整額は給料月額の4%が基準とされており、教員の労働実態に比べると非常に少額です。
教職調整額の基準が給料月額の4%とされているのは、1966年(昭和41年)当時の月平均超過勤務時間を参考にしたためです。これは、当時の月平均超過勤務時間は約8時間で、これを超過勤務手当に換算すると、給料月額の4%だったという経緯があります。
しかし、冒頭でも紹介したとおり、現代において、教員の労働時間は非常に長くなっています。少し古いデータですが、文部科学省の資料によると、平成19年当時における教員の残業時間は、月平均35時間だったとのことです。
出典:「資料2-1 教職調整額の見直しについて(案)」(文部科学省)
昭和41年当時に比べると、平成18年当時の残業時間は4倍以上に増えています。
こうした状況にもかかわらず、教職調整額の基準が給料月額の4%に据え置かれているのは、公立学校教員の待遇が低いことの大きな原因といえるでしょう。
残業代を支給せず、定額の教職調整額を支給するルールの反面、教員に対して超過勤務(残業)を命じることができるのは、以下の4つの場合に限定されています。
給特法第6条1項及び政令上は、超過勤務の4項目に該当した場合でも、「臨時又は緊急のやむを得ない必要があるとき」に限って、教員に対して命じることができます。
つまり、残業の内容を限定することで、公立学校教員の労働時間が増えすぎないようにしよう、というわけですが、実際には、教員の労働時間が長いことは、再三強調しているとおりで、超過勤務の4項目による限定は機能していない状況といえます。
給特法の規定が適用されるのは「教育職員」、すなわち公立学校教員などに限られます。
これに対して、私立学校の教員は、あくまでも学校側によって雇用されている通常の労働者です。したがって、労働基準法の規定が全面的に適用されるため、会社員などと同様に残業代が支払われます。
もし、私立学校の教員の方で、学校から適切な残業代が支払われていない場合は、学校側に対する未払い残業代請求をご検討ください。
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給特法のルールによって残業代が支払われない中で、公立学校教員が給与を増やすには、以下の方法が考えられます。
各地方公共団体の条例では、教員が行う特殊な勤務について、特殊勤務手当の支給を定めています。
具体的には、以下の業務が特殊勤務手当の対象となります。
公立学校教員は、これらの特殊勤務手当の対象業務を行うことで、受け取る給与を増やすことができますが、その分の労働時間が増える点に注意が必要です。
また、内容によっては、手当の額が最低時給額にも満たない額もあり、「労働の対価」といえる額とはいえない場合もありますため、その点も注意が必要です。
給特法の違憲性や、違法な超過勤務を命じられたことなどを主張して、残業代請求訴訟を提起することも考えられます。
後述する裁判例などに鑑みると、訴訟で給特法の違憲性や違法な超過勤務が認定される可能性は低いと言わざるを得ません。
しかし、あまりにも理不尽な扱いを受けていたり劣悪な労働環境に置かれていたりする場合には、公立学校教員であっても、残業代請求訴訟を提起する道があることは知っておきましょう。
公立学校の待遇に大きな不満がある場合には、基本給が高い傾向にあり、かつ残業代が支払われる私立学校に転職することも一つの手段です。
私立学校のWEBサイトなどを検索して、教員の求人情報が掲載されているところを探してみましょう。
ただし、私立学校の待遇は学校によって異なるため、転職すれば必ず待遇が改善されるとは限りません。
また、私立学校の中にも、労働基準法に従った残業代を支払わないブラックな職場もあるため、転職活動の際には労働条件を十分に確認することが大切です。
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給特法に起因する公立学校教員の低待遇は、労働条件の過酷さとも相まって、大きな社会問題となっています。当事者である公立学校教員の間でも、低待遇についての不満が蓄積しており、実際に残業代の支払いを求める訴訟がたびたび提起されてきました。
直近の東京高裁令和4年8月25日判決の事案では、超過勤務が認められる4項目以外の業務を命じられたことなどを理由に、公立小学校の男性教諭が埼玉県に対して残業代の支払いを求めました。
しかしさいたま地裁は、学期末などの繁忙期には、法定の労働時間を超過しているものの、常態化していたとはいえず、無定量(無制限)の時間外労働を防止する法律の趣旨にも反しないとして、男性教諭の請求を棄却しました。
そして、男性教諭は、控訴しましたが、さいたま地裁とほぼ同趣旨の内容で、東京高裁は男性教諭の控訴を棄却しました。
男性教諭は、最高裁に上告する意向を有していることが報道されています。
上記裁判例のように、給特法に関連する残業代請求訴訟は、総じて教員側にとってプラスではない結果となっています。
しかし、公立学校教員の低待遇が社会問題化する中で、裁判所が今後、違った判断をするケースも出てくる可能性があるかもしれません。
また文部科学省は、平成28年以来6年ぶりに教員勤務実態調査を行っており(調査結果の発表時期は未定)、その結果次第では給特法の見直しの動きが活発化する可能性があります。
いずれにしても、今後の法改正等によって、公立学校教員の待遇・労働環境の改善に期待したいところです。
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給特法によって、公立学校教員は残業代を受け取れないことになっています。
そのため、現時点で公立学校教員が残業代を請求することは困難ですが、教員一人ひとりが意識的に声を挙げることで、給特法の改正による待遇改善が期待されます。
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