フレックスタイム制は、勤務時間において柔軟な働き方ができるため労働者にとって魅力的な制度のひとつでしょう。
一方で、労働時間の考え方や残業時間の算出方法など、通常の労働時間制と異なるルールがあります。そのため、労働時間のルールが正しく理解されず、本来は受け取れるはずの残業代が未払いであったり、法律上の上限を超えて残業をしていたりするケースも少なくありません。
このコラムでは、フレックスタイム制における時間外労働の考え方や残業時間の算出方法、労働基準法違反となるケースなどについて、弁護士が解説します。
最初に、時間外労働と残業(法外・法内)とは何かについて解説します。
① 法外残業
時間外労働とは、労働基準法32条で定められた法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えた労働のことをいいます。
「法外残業」と呼ぶ場合もあり、法律上で規定されている割増賃金が支払われます。
ただし、労働基準法は、労働者に法外残業をさせることを原則として禁止しています。
② 法内残業
これに対して、会社の就業規則などに定められた労働時間である所定労働時間を超えるが、法定労働時間を超えない残業は「法内残業」といい、通常の賃金が支払われます。
たとえば、会社の所定労働時間が9時から17時の7時間(休憩時間を除く)であった場合、30分残業しても、法定労働時間である8時間を超えません。
この場合は、法内残業となり、通常の労働時間に照らし合わせた賃金が算出されます。
まずはこの考え方を理解したうえで、フレックスタイム制の仕組みを見ていきましょう。
フレックスタイム制とは、労働基準法32条の3で定められた、一定期間について定められた総労働時間内で、労働者が自らの裁量で始業と終業の時間を決めて働くことができる制度です。
労働者自身が日々の出退勤時刻や労働時間を決めることができるため、業務の繁閑や子どもの長期休暇など、仕事や生活のスケジュールに合わせながら、柔軟で多様な働き方を選択できます。
そのため、近年、生産性向上を目的とする「働き改革」の実現が求められている中で注目を集めています。
フレックスタイム制は、就業規則に定められた内容に基づき、労働者と会社との間で労使協定を締結する必要があります。
労使協定では、対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、標準となる1日の労働時間などを定めます。
① 清算期間とは
清算期間とは、フレックスタイム制において、労働すべき時間を定めた期間のことです。
従来は1か月以内と定められていましたが、平成31年4月から最長3か月までに変更されました。これにより、今まで以上に柔軟な働き方ができるようになっています。
② 総労働時間とは
総労働時間とは、労働者が清算期間において労働すべき時間(所定労働時間)を指します。フレックスタイム制では、総労働時間を超えて働くと時間外労働、すなわち残業とみなされます。
1章の(1)に記載の通り、労働基準法において時間外労働は原則として認められていません。
しかし、労働者と会社が協定を締結し、労働基準監督署に届け出をして就業規則等にも記載すれば、時間外労働をすることができます。これを36協定といいます。
フレックスタイム制においても、36協定が締結されれば時間外労働が認められます。
ただし、総労働時間の枠内で弾力的に働くことから、1日8時間・1週40時間を超えても、ただちに時間外労働とはならないこともあるので、注意が必要です。
フレックスタイム制で時間外労働にあたるのは、「法定労働時間の総枠」を超えた時間です。
法定労働時間の総枠の算出方法は、原則として以下の通りです。
精算期間が1か月の場合の例
たとえば1か月を清算期間とした場合の法定労働時間の総枠は、次の通りです。
精算期間が3か月の場合の例
なお、フレックスタイム制の清算期間を3か月とした場合、以下のケースが法定時間外労働にあたります。
基本的な残業代とフレックスタイム制のルールと計算方法を解説します。
① 計算式
原則として「法定時間外労働(法外残業)」に対する残業代は、次の計算式で求めます。
② 基礎賃金
1時間あたりの“基礎賃金(基本給)”は、次の計算式で求めます。
基礎賃金とは、給与の総額から以下のような手当や賃金を除いた金額です。
労働とは直接的な関係が薄く、個人的な事情により支給されていることから除かれます。
なお前述の通り、法定労働時間を超えない所定労働時間内の残業は「法内残業」といい、労働時間分だけ通常の賃金が支払われます。
フレックスタイム制の残業時間も、総労働時間を超えて働いた時間を、法内残業と法外残業に分ける必要があります。
③ 割増率
法内残業については、特に就業規則などで定めていない限り、割増のない通常の賃金が支払われます。法外残業については、割増のある賃金が支払われます。
割増率は以下の通りです。
① 丸1日、有給休暇を取得した場合
有給休暇を取得した場合には、労使協定で定めた「標準となる1日の労働時間」の時間数分を働いたとみなし、実労働時間に加えます。
半日単位の有給休暇については、労働者が希望し、会社側が同意した場合には、労使協定が締結されていなくても、日単位取得の阻害とならない範囲で取得することができます。
② 半日、有給休暇を取得した場合
半日単位の有給休暇を取得した場合には、「標準となる1日の労働時間」の半分を分単位で切り上げて、実労働時間に加えます。
ただし、残業代の計算においては実際に働いていた時間(実労働時間)が基礎となるため、有給休暇によって発生した労働時間は除外されます。
フレックスタイム制ではどのような残業が違法になるのでしょうか?
働き方改革により、大企業は平成31年4月から、中小企業は令和2年4月から時間外労働の上限が設けられました。
上限は、原則として月45時間以内・年360時間以内です。
臨時的な特別の事情を除き、これを超えることはできません。
臨時的な特別の事情があるために労使が合意した場合であっても、次の条件を順守する必要があります。
フレックスタイム制においても、原則として時間外労働の上限規制は適用されます。
もし違反した場合には、会社や経営者・管理者に対して6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されることがあります。
フレックスタイム制では、清算期間における労働時間が、総労働時間(所定労働時間)に達しなかった場合には、不足した労働時間数を次の清算期間に繰り越すことができます。
しかし、総労働時間を超えて働いた分については、次の清算期間に繰り越すことはできません。
つまり、その分について残業代が支払われていなければ違法です。
労働者は会社に残業代を請求することができます。
フレックスタイム制は、通常の労働時間制とはルールが異なるため、時間外労働の算出方法や残業代の支払いルールをめぐって、トラブルが生じることがあります。
法定労働時間の総枠を超えて働いているのに割増賃金がない、時間外労働の上限規制を超えて働いているなど、会社の違法行為が認められる場合には、未払い残業代の支払いや労働時間管理の是正を求めることができます。
ただし、未払い残業代の請求には時効があり、タイムカードなどの証拠集めが難しいケースもあります。そのため悩みやトラブルを抱えている方は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士なら、法的根拠に基づくアドバイスはもちろん、代理人として会社と直接交渉することや、会社に対して証拠の開示を求めることなどができます。
フレックスタイム制でも、総労働時間を超えて働けば残業代が発生し、法定労働時間の総枠を超えた分については割増分の残業代を請求することができます。
しかし通常の労働時間制とは異なる仕組みであるため、残業代が未払いになっていても気づきにくい面があります。
フレックスタイム制の労働時間管理や残業代の計算方法に少しでも疑問を感じることがあれば、お近くのベリーベスト法律事務所に、お気軽にご相談ください。
労働問題の実績豊富な弁護士が事情を丁寧に聴き取り、トラブルの解決に向けて力を尽くします。
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