慢性的な労働力不足を背景に、製造業では長時間労働やサービス残業の常態化が問題になっています。
長時間の工場勤務が連日続いているにもかかわらず、会社から「残業代はこれ以上出ない」などと言われ、釈然としない思いを抱えている方も少なくないでしょう。
また、製造業では管理監督者としての肩書や、固定残業代を導入していることなどを理由に残業代が支払われていないケースもありますが、実際には残業代を請求できることもあります。
本コラムでは、残業代の考え方と、未払いの残業代が発生している場合に残業代を請求する方法について詳しく解説します。
製造業では、なぜ長時間労働やサービス残業が多くなる傾向があるのでしょうか。
考えられる主な理由について解説します。
工場にはそれぞれの生産能力があり、その生産能力を超えた受注がなされれば、しわ寄せは工場労働者にきます。
下請けの中小企業や子会社の立場でタイトな納期設定を受け入れざるを得ないようなケースでは、工場労働者が定時退社できないことも多くなりがちです。
また、工場の生産管理の問題以前に、慢性的な人手不足という業界の問題もあります。
総務省の労働力調査を元に経済産業省が公表したデータによると、国内の製造業就業者数は、平成14年には1202万人だったのが、平成31年(令和元年)には1063万人と、約20年間で11.6%も減少しました。
労働力不足により1人が負う仕事量が多くなっているというのが製造業の現状です。
労働基準法(以下「法」といいます)では、労働時間の上限を「1日8時間、週40時間」までとし、それを超えて労働させた場合は割増賃金を支払わなければならないと定めています(法32条・37条)。
一方、法41条2号では、「監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)」については、深夜手当を除く、残業代や休日手当等の割増賃金の規定が適用されないと規定されています。
製造業の場合、工場長や現場監督者などが管理監督者になり得ますが、実態は名ばかり管理職であるケースも少なくなく、結果的にサービス残業になっていることもあると言えます。
管理監督者については、次章で詳しく解説します。
製造業でありがちな時間外労働の中で、未払い残業代が発生しやすい3つのケースについて解説します。
① 休日には2種類ある
工場では、納期に間に合わせるために休日の出勤を求められることもあるでしょう。
ここで注意したいのが、休日には「法定休日」と「法定外休日」の2種類があるという点です。
② 法定休日の割増率
会社が労働者を法定休日に労働させると、通常賃金の35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。また、法定休日の午後10時から午前5時の深夜時間帯に労働させた場合の割増率は60%以上です。
法定休日の場合は、1日8時間を超えて働いても、時間外労働の割増の規制は重ねてかかることはなく、割増率は35%(60%)以上のままとなります。
③ 法定外休日に労働した場合
法定外休日に労働した場合は、基本的に通常の賃金が支払われますが、労働時間が「週40時間」を超えている時間分については、割増賃金の支払いが必要になります。
この場合の割増率は25%以上です。
④ 法定休日は、会社が自由に決められる
法定休日をいつに設定するのかは会社が自由に決めることができます。
そのため就業規則などで、法定休日がいつなのかを確認しておくようにしましょう。法定休日に勤務していれば、割増賃金を請求することができます。
ただし、恒常的に休日出勤があるケースでは、「休日出勤手当」などの名目で固定給に割増賃金分が含まれていることもあるので、労働契約書などもあわせて確認するようにしてください。
固定残業代とは、あらかじめ想定される時間分の残業代を固定賃金として支払う仕組みです。基本給に含めて支払う方式、または手当として支払う方式が一般的です。
固定残業代の場合、どんなに働いても同じ額の残業代が支払われると考えている人もいるようですが、その認識は正しくありません。
固定残業代制は、あくまでも一定時間分の残業代をあらかじめ支給するだけであり、一定時間を超えて働けば、超えた分の残業代の支払いを求めることができます。
たとえば、月30時間分の残業代を含めた固定賃金を支給されている人が、月40時間労働した場合、会社は超過した10時間分の残業代を支払う義務があるのです。
固定残業代制で労働時間分の残業代が支払われていないと感じる人は、賃金に含まれている固定残業代が何時間分なのか確認するべきでしょう。
実際の残業時間のほうが長ければ、超過分を未払い残業代として請求できる可能性があります。
前章で説明した「管理監督者」についても、正しく理解をしておく必要があります。
工場長など、会社内で管理職の地位にある労働者全員が、必ずしも労働基準法上の「管理監督者」に当てはまるとは言えません。
管理監督者として認められるのは、以下の要件を満たしている場合です。
会社から、管理監督者ということを理由に残業代の支払いを拒まれた場合は、自身が管理監督者の条件を満たしているかをチェックしてみましょう。
一般の労働者と同じように労務管理されており、賃金にも差がないような場合は、管理監督者として認められず、残業代を請求できる可能性があります。
こちらのページで、管理監督者でも残業代を取り戻せた事例の紹介や、誤解しやすいポイントを解説しています。ぜひご覧ください。
未払い残業代が発生している場合は、会社へ請求することができます。では、未払い残業代請求のために、するべきことを確認していきましょう。
未払い残業代を請求するためには、請求額を確定させなければなりません。
残業代を計算するためには、まず「1日8時間、週40時間」を超えた残業が何時間になるか、法定休日や深夜の時間帯に労働した時間が何時間になるか、出勤簿やタイムカードなどをもとに把握します。また、あわせて雇用契約の内容も確認しておきましょう。
残業代は、基本的には次の計算式に当てはめることで算出できます。
1時間当たりの賃金は、月給制なら「月によって定められた賃金から一部の手当等(※)を除いた額」を「1か月の平均所定労働時間」で割ることで求めます。
割増率は、通常の残業時間は25%、法定休日は35%です。
さらに深夜時間帯だと割増率が25%加算されます。その他、時間外労働が1か月60時間を超えた場合や休日に深夜労働をした場合などにも割増率が定められていますので、労働した条件にあてはまる割増率を確認して、計算する必要があります。
※どのような手当を除くべきかの判断は個別の事例で異なります。詳しくは弁護士に相談した方が良いでしょう。
残業代を請求するには、残業したことを証明する証拠が必要です。
客観的な証拠としてはタイムカードが有効ですが、タイムカードがなくても、業務日誌やメモ、業務用パソコンのログ、仕事関係者とのメールや通話履歴などが証拠になり得ます。その他、残業代の支給方法を示す雇用契約書や給与の内訳が書かれている給与明細なども集めておきましょう。
証拠がそろったら、会社に協議を求めます。その際、内容証明郵便で請求書と証拠を会社に送付しておくと良いでしょう。
注意しなければいけないのは、残業代の請求には「時効」があるということです。
賃金の請求権は2年(令和2年4月以降に発生した賃金の請求権は3年)で消滅し、時効期間は未払い残業代が支払われるべき給与の支給日からスタートします。
未払い残業代の支払いを労働者個人で請求することも可能ですが、残業代の計算は複雑であり、会社との交渉は労働者にとって、精神的にも大きな負担となるでしょう。
そのため、未払い残業代を請求したいとお悩みの場合は、労働問題の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、未払い残業代を正確に算出できるのはもちろんのこと、証拠集めに関してもアドバイスを受けることができます。
思うように証拠が集まらない場合や会社が開示を拒むような場合、弁護士は証拠を確保するための手続きである証拠保全命令の申し立てを行うことも検討します。
また、特に大きなメリットとも言えるのが、会社との交渉を一任できることです。
弁護士が代理人となることで、会社が交渉に応じるケースも少なくありません。
会社との交渉が難航し、労働審判や訴訟になった場合にも、弁護士は引き続き代理人として対応することができるので、問題解決まで非常に心強い存在となるでしょう。
未払い残業代があると分かり、会社に請求しようと決意しても、必要な証拠が何か分からない、会社との協議が難航するなどのケースがあるでしょう。
未払いの残業代問題でお困りであれば、労働問題の解決実績が多く経験豊富なベリーベスト法律事務所へぜひご相談ください。
弁護士、スタッフが一丸となり、未払いの残業代が支払われるように尽力します。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を