時間外や休日の顧客対応、外回りが多く、労働時間の把握が難しい営業職の場合、決まった額の残業代が給与に含まれて支払われ、それ以上の残業代は出ないと思っている人が多いようです。
しかし、固定残業制で想定されている時間以上の残業をした場合などは、追加の残業代を請求できることもあります。
本コラムでは、営業職に適用される給与制度、残業代の支給ルールなどについて詳しく解説していきます。
そもそもどんなケースが「労働時間」として認められるのでしょうか。
これまでの判例にもとづき、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間はこれに当たるとされています。
つまり労働時間とみなされるかどうかは、会社の指示があったかどうかがポイントになるのです。
明確な指示はなくても、顧客対応など実質的にやらざるを得ない業務に当たっている時間は、労働時間として認められる可能性が高いでしょう。
営業職で自宅に仕事を持ち帰った場合も、持ち帰らなければ到底終わらない仕事を割り振られたケースなどであれば、労働時間として扱われることもあります。
次に、受け取るべき残業代の計算方法を説明します。
営業職の場合、固定給や歩合給で給与が支払われているケースが多いので、それぞれのケースについて見ていきましょう。
労働基準法32条は労働時間の上限を「1日8時間、週40時間」までと定めています。
これは「法定労働時間」と呼ばれているものです。
会社が法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合、残業代として割増賃金を支払わなければなりません。自宅での労働時間なども含めた労働時間が、法定労働時間の8時間を超えると、残業代が発生するということです。
固定給の場合、残業代の額の基本的な計算式は、
です。
「1時間当たりの基礎賃金」は、月給制であれば、基本給に役付き手当や職能手当など一部手当加えた額(※)を、1か月の平均所定労働時間数で割って算出します。
(※役付き手当等、基本給以外の手当をどこまで加えるべきかは、ケースバイケースとなります)
歩合給は、給与の一部を売り上げや契約成立件数などに応じて支払う仕組みで、「出来高払制」ともいわれます。
歩合給であっても、法定労働時間を超えた分については残業代の支払いが必要ですが、計算方法は固定給と一部異なります。
具体的な計算は、基本給部分と歩合給部分に分けて行います。
基本給部分
固定給の計算式と同じです。
歩合給部分
以下の計算方法になります。
歩合給部分の「1時間当たりの基礎賃金」は、「歩合給÷総労働時間」で算出します。
ここまで、残業代の計算方法について解説してきましたが、残業代の請求権には時効があることにも注意が必要です。
令和2年3月までに支払日が到来した残業代は支給日から2年、令和2年4月以降に支払日が到来した残業代は(※)当分の間3年で請求する権利が消滅します。
(※将来的に5年となる可能性があります)
残業代請求の時効について、詳しくはこちらのコラムをご覧ください。
営業職の給与には、あらかじめ固定残業代が含まれているケースもありますが、勤務状況によっては、追加の残業代を請求できることもあります。
ここでは、どんなケースで請求できるのか具体例を解説します。
営業職の中には、営業手当の支給を理由に「残業代は支払わない」などと会社から言われている、あるいはそう思い込んでいる人も少なくないようです。
しかし、それは間違っている可能性があります。
まずは、本当に営業手当に残業代が含まれているのか確認しましょう。
「歩合給制」や「みなし労働時間制」でも同様に、残業代の設定についての確認が必要です。
「事業場外みなし労働時間制」は、外回りの営業職すべてに適用できるわけではありません。
会社に一度出社してタイムカードを打刻してから営業に出ている場合や、外回り中も携帯電話などで上司からの指示を受けている場合などは、労働時間の算定が難しいとはいえないため、みなし労働時間制の適用が認めらない可能性があります。
この場合は労働時間に応じた残業代が支払われます。
残業代の計算方法をお伝えしましたが、では実際未払いの残業代を会社に請求するためには何をすればいいのでしょうか。
残業代を請求するためには、まず未払いの残業代がいくらになるのかを正確に把握しなければなりません。正確に把握するためには、実際に残業したことを示す証拠集めが必要です。
証拠となるものには、タイムカードや出勤簿のほか、業務用パソコンのログ履歴、IDカードによる入退室記録などが該当します。
上司や取引先とのメール、通話の履歴などでも労働時間が分かる可能性があります。
また、残業代の支給条件が記載された雇用契約書や就業規則、実際に支払われた額が分かる給与明細も集めておきましょう。
次に会社と話し合いでの解決を目指します。
後に法的措置を取るときの証拠にもなるため、交渉のやり取りはメールやボイスレコーダーで記録しておくことをおすすめします。
請求に当たっては、労働問題の取り扱い経験が豊富な弁護士へ相談することも、選択肢のひとつです。
弁護士に依頼すれば、残業の証拠集めについてアドバイスを受けることが可能ですし、証拠が手元にない場合には会社に任意の開示を求めることもできます。
また、残業代の計算は、実際にはかなり複雑になるケースもあり、弁護士であれば適切な計算をしてくれることでしょう。
この他、弁護士であれば、会社とのやり取りを有利に進められる可能性が高まり、労働審判や訴訟に発展した場合にもそのまま代理人となることが可能です。
みなし残業制(固定残業制)などで元々残業代が給与に含まれている外回りの営業職でも、実働時間が固定残業代に該当する分を上回る場合には、追加の残業代の請求が可能です。
労働の実態に対して支給されている残業代が少なく悩んでいる営業職の方は、少しでも交渉を有利に進めるためにも、弁護士への相談を検討しましょう。
労働問題の解決実績豊富な、ベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
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