毎日サービス残業をしていると、次第に「これは当たり前のことなのか?」「疑問に感じる自分がおかしいのか?」などと、感覚が麻痺してくることがあるでしょう。
周囲に聞いても「自分も同じだよ」などといわれてしまい、皆がそうなのだから我慢するしかないと感じるかもしれません。
しかし、サービス残業は本当に当たり前のことなのでしょうか。サービス残業をさせている企業に違法性はないのでしょうか。
今回は、サービス残業を強いられている労働者の方に向けて、サービス残業の法律的な取り扱いや対処法について解説します。
そもそもサービス残業とは、時間外労働をしているにもかかわらず、その分の賃金が支払われない残業のことをいいます。
いわゆる「タダ働き」をさせられている状況を理不尽に感じつつも、「企業とはそういうものだ」と諦めている方も多いのではないでしょうか。新卒で入った企業でサービス残業が横行していると、特にそのように感じやすいかもしれません。
では、なぜサービス残業を当たり前に感じてしまうのでしょうか。その理由を知るため、厚生労働省が公表している「監督指導による賃金不払い残業の是正結果(平成29年度)」が参考になります。
「監督指導による賃金不払い残業の是正結果(平成29年度)」では、全国の労働基準監督署が監督指導を行った結果として、1年間の不払い賃金に対する遡及(そきゅう)支払額が、1社あたり合計100万円以上となった事案をまとめています。
平成29年度では、是正企業数が1870社にのぼり、対象となった労働者数は20万5235人、是正支払額はなんと446億4195万円にものぼっています。
いずれも過去10年間でもっとも高い数値であり、1社あたりの支払額平均は2387万円となります。特に運輸交通業、製造業では支払額が高額になりました。
いまだに労働基準監督署の調査が入らず、賃金の不払いを続けている企業があるでしょうし、実際には調査結果よりも多くの労働者がサービス残業を強いられている可能性があることが推察されます。
このようにサービス残業は広く横行しているため、労働者は当たり前だと感じてしまうわけです。
しかし、広く行われていることをもって正当化することはできません。サービス残業はれっきとした違法行為です。
次に、なぜサービス残業が違法行為にあたるのか、法律の面から確認しましょう。
労働基準法32条では「休憩時間を除き、1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて労働させてはならない」と、労働時間の大原則を定めています。
対して同法36条では、労使協定の締結と行政官庁への届け出を条件とし、労働時間の延長を認めています。いわゆる36(サブロク)協定と呼ばれるものです。
つまり36協定がなければ、そもそも企業は時間外に労働をさせることができません。
さらに、36協定も無制限な労働時間の延長を認めるものではなく、限度基準が定められています。たとえば一般の労働者であれば、原則として1週間に15時間、1ヶ月に45時間を超える延長を定めた36協定を結ぶことはできません。
特別の事情がある場合に限り「特別条項つき36協定」を結ぶことができますが、条件や回数に厳しいルールがあります。
36協定がない場合や36協定の上限を超えた残業を命令された場合は、違法な残業命令です。労働者には断る権利があります。
断ったことを理由に解雇されれば、不当解雇と認定される可能性があります。
適切な残業だった場合でも、残業代が支払われなければ違法です。
根拠は労働基準法37条に定めのある割増賃金の支払い義務です。
違反すれば「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
残業代のみ分割払いだった場合や、給料日に間に合わない場合には、同法24条の賃金全額払いの義務にも違反し「30万円以下の罰金」となり得ます。
罰則の対象として、企業そのものと経営者はもちろん、業務命令や指揮監督を行う立場の者も含まれることがあります。
適正に支払われなかった残業代は後からでも請求できますが、請求の時効は2年です。早めに動き出すことが肝心です。
懲役刑もあり得る罰則規定が設けられているにもかかわらず、なぜ企業はサービス残業をさせるのでしょうか。
まずは、人件費を抑制する目的が挙げられます。残業代を正しく支払えば1人あたりの給与額が上がります。サービス残業をさせることで、企業は負担なく労働力を確保し、自社の利益にできるわけです。
根本的な問題として、人手不足も挙げられるでしょうが、だからといって今いる労働者に残業代を支払わなくてよいことにはなりません。
次に、経営者や管理職、人事部などの認識不足が挙げられます。労働法の知識が不足しているだけでなく、どこかで聞いた情報の表面だけをなぞり、企業に有利になるよう勝手に解釈することがあります。確かに法律の理解は難しい面がありますが、それを理由に労働者を不当に拘束することは許されるものではありません。
労働者側の理由もあります。長時間労働を美徳とする考え方は根強く残っていますし、職場の人に遠慮して帰れない、仕事が残っているのだから残業して当然だと感じることもあるでしょう。
企業との力関係から、我慢していることもあるはずです。正当な請求であるはずの不払い賃金の請求をする場合であっても、企業から「厄介者」のレッテルを貼られ、仕事に影響が及ぶこともあるかもしれません。自身の生活基盤を守るために消極的になってしまうことも無理はありません。
会社のなかで長年続いてきたサービス残業の慣習を是正し、未払い残業代を請求したいと思っても、相手は企業ですからひとりで解決していくことは困難です。
正当な主張をしようにも、労働関連の法律に精通していなければ聞く耳をもってもらえないことも多いでしょう。
しかし、解決方法は複数あります。
社内の人事部は身近な場所にあり、気軽に相談しやすい点がメリットです。
特定の部署のみでサービス残業が横行しているケースでは状況改善にも期待できるでしょう。
問題としては、過去の残業代を請求するとなると早期の対応が難しい点や人事部が機能していない場合には対応してもらえない点が挙げられます。
労働基準法に違反してサービス残業を命じられていること、不払いの残業代があることなどを相談することができます。前述した統計データには、労働者からの告発がきっかけとなり是正されたケースが含まれていますので、相談する価値は十分にあります。
ただし、サービス残業をした証拠がなければ難しく、証拠収集もご自身で行うことになります。
労働問題については弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、サービス残業による未払い賃金を請求していけるほか、労働問題全般の解決が期待できます。
残業代請求に有効な証拠のアドバイスを受けることもできたり、企業との交渉も弁護士が代理人となって行ってくれたりします。
もちろん交渉が決裂してしまい労働審判や裁判へ発展した場合にも対応できます。
労働問題の専門家といえば、社会保険労務士も挙げられますが、社会保険労務士は裁判の代理人とはなれません。
弁護士にはこうした制限がなく、企業との交渉におけるいくつもの選択肢の中で、状況に適した解決方法を見つけ出し、サービス残業の解決を目指していくことができます。
今回は、サービス残業の違法性や相談先について解説しました。
残念なことに、サービス残業はいまだに多くの企業で行われており、泣き寝入りしている労働者は少なくありません。世間のこうした現状や、ご自身および周囲の状況などを踏まえると、どうしても「当たり前だから我慢するしかない」と感じてしまうことがあるでしょう。
しかし、サービス残業はれっきとした違法行為です。労働者は不当な労働を強要されるべきではなく、正当な賃金を請求する権利を有しています。
サービス残業は決して当たり前なことではありませんので、まずはしかるべき場所へ相談し対処するようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所では違法なサービス残業でお悩みの方からの相談をお受けしております。サービス残業を強いられている場合には、ぜひ一度ご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を