「みなし残業」という言葉を聞いたことがある方はたくさんいらっしゃるでしょう。
しかしその意味をきちんと理解している方は少ないかもしれません。
みなし残業代制だといくら残業しても残業代をもらえないと思っていませんか?あなたは損していませんか?
今回は、①みなし残業とは何か?、②みなし残業代制度が導入されていても残業代をもらえるケース、③具体的に残業代を請求する方法、などについて解説していきます。
みなし残業制が導入されている会社で働いている皆様が損をしないよう、この内容がご参考になれば幸いです。
みなし残業とは、実際に残業をしたか否かに関わらず、一定時間残業をしたものと「みなして」、残業代を払う制度のことです。固定残業代などといったりもします。
勘違いされている方もいらっしゃると思いますが、みなし残業で残業したとみなされている時間を超えて残業をした場合には、会社は当然残業代を支払わなければなりません。次項からみなし残業にひそむ問題点を色々とみていきましょう。
では、会社はなぜみなし残業という制度を採っているのでしょうか。
ひとつには、みなし残業制をとり固定の残業代を払えば何時間残業させたとしても一切残業代支払わなくてもよいと思っている可能性があります(中には追加の残業代の支払いが法律上要求されていることを分かった上で支払っていない会社もあるでしょう)。
そのような会社は、何時間残業をさせたとしてもみなし残業代以上の残業代を支払いませんので、その分残業代をおさえているといえるでしょう。
しかし、これは違法ですので、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合には残業代の請求は可能です。
また、みなし残業制には、固定給をよく見せつつも基本給を低額に抑え残業代計算の際の基礎時給を低くするという効果もあります。
たとえば、求人情報を見たとき、「基本給20万円(別途残業代支給)」と書かれている場合と、「基本給25万円(固定残業代○時間分を含む)」と書かれている場合、いずれが魅力的に見えるでしょうか。後者のほうが残業の有無に関わらず毎月25万円の収入が確保されますので、魅力的に見えるという方が多いのではないでしょうか。
しかし、後者の場合で、仮に固定残業代が6万円だったとすると、基本給は19万円になってしまい、前者の場合に比べて時給が低くなります。
そうすると固定残業代分を超えて残業するような場合には、前者の方がより多くの残業代をもらえることになります。
つまり、よくよく考えると、どちらが魅力的なのかは残業時間によって変わってしまうにも関わらず、後者の方が魅力的に見えてしまうという不思議なことが起きているのです。
求人情報を見て応募する際には、みなし残業代がいくらで、それは残業何時間分なのかをよく確認する必要があります。
その他にも、会社はみなし残業時間内の残業時間であれば、改めて残業代を計算する必要がないため、事務処理が容易になるという理由が挙げられます。
あなたの会社のみなし残業制は適法といえるでしょうか。適法といえるためのポイントをみていきましょう。
みなし残業制は、労働者の賃金に関わる事項であり、雇用契約の重要な要素です。そのため、会社側が一方的にみなし残業制を採ることはできず、みなし残業制を採るということが労働契約の内容になっていなければなりません。
「労働契約の内容になる」ためには、契約書等にきちんと明示してその旨の合意をするか、周知されている就業規則に明記されていなくてはなりません。
ぜひ一度、契約書や就業規則を改めて確認してみてください。
あなたの給与明細を見てみてください。
基本給部分とみなし残業代部分がきちんと区別されているでしょうか。分かれている場合、給与明細、契約書、就業規則等に、みなし残業代が何時間分なのかきちんと記載されているでしょうか。
上記のことが分からないと、会社からきちんと残業代が支給されているのかどうかを確認することもできませんよね。
このように、通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを判別することができるようになっていなければ、それは適法なみなし残業制とはいえません。
あなたの会社では、みなし残業時間を超過して残業した場合、みなし残業代とは別に残業代が支払われていますか?
これがきちんと支払われているのであれば、おそらく適法なみなし残業制でしょう。
後ほど残業代の計算方法についてご説明しますので、それをふまえて、ご自身がきちんと残業代をもらえているのかを確認してみてください。
会社がみなし残業制を採っている(と主張している)場合でも、それが違法であれば、会社はみなし残業制を採ることができないことから、残業時間分の残業代を会社に請求できます。
その場合には、会社がみなし残業代であると主張している賃金についても基本給に加えて残業代算定の基礎とすることができます(時給が大きく変わります)。
他方、会社が採っているみなし残業制が適法である場合でも、みなし残業時間を超えて残業をした場合には、残業代請求が可能です。
たとえば、みなし残業時間が20時間であるところ25時間労働した場合には、5時間分の残業代の請求が可能です。
次項ではその場合の残業代の計算方法についてご説明しましょう。
適法なみなし残業制の場合のおおまかな残業代の計算方法をご説明します。
残業代を計算する最初のステップは、ご自身の時給を算出することです。
計算式は以下のとおりです。
手当には月給から引くべきものと引かなくてよいものがあるので注意してください。
次に、みなし残業制に関わらず本来発生している残業代を計算します。
割増率は、法定内残業(所定労働時間が8時間未満の場合の、所定労働時間を超えて8時間に至るまでの残業)であれば1、1日8時間以上の労働であれば1.25など、状況により異なりますので、適切な数字を入れる必要があります。
もっとも大まかな計算をするためであれば、1.25を入れておけばよいでしょう。
最後に、未払い残業代を計算します。
みなし残業代はすでに支払われているので、本来の残業代からそれを引いた額が、未払い残業代です。
さて、あなたの未払い残業代はいくらでしたか?
弁護士が行う残業代請求の流れについて、簡単に見ていきましょう。
依頼を受けたら、まず、残業代を請求する旨の通知を内容証明郵便で送ることが多いです。
なぜなら、残業代等の未払い賃金の消滅時効期間は2年なので、催告しておかないと未払い残業代を支払ってもらえる可能性のある期間がどんどん少なくなってしまうからです。
同時に、タイムカード等の労働時間が明らかになる証拠や、労働契約書、就業規則等の契約の内容が明らかになる手持ちの証拠が足りない場合は、会社に対して、これを開示するよう求めます。
依頼者がタイムカード等をお持ちの場合は、それをもとに残業代の計算を行います。
もっとも、持っていない場合も多々ありますので、そのような場合には会社から資料が開示されるのを待って、開示された資料に基づいて計算を行います。
計算の結果算出した残業代を請求し、会社と交渉を開始します。
会社と無事交渉がまとまれば、和解をして残業代を支払ってもらいます。
交渉が決裂してしまった場合には、労働審判や訴訟等の法的手続を検討することになるでしょう。
債務整理事件を弁護士に依頼する場合のメリット
労働者にとってのみなし残業制のメリットは、ずばり、残業をしなくても残業代をもらえるということです。
みなし残業制を採っている以上、会社は、労働者が残業をしたかどうかに関わらずみなし残業代を払わなければなりません。労働者にとっては、みなし残業代を含めた固定の給与が毎月保障されているのです。
残業時間を少なくすれば少なくするほど、このメリットは大きくなるでしょう。会社側がみなし残業制を導入する動機にも、業務効率が上がることを期待しているということがあります。
逆に、みなし残業時間を超えるほど残業をしてしまうと、労働者にとってはとくにメリットはありません。そのうえ、超えた分の残業代が支払われていないというのであれば、(もちろんそれは違法ですが)デメリットしかないといってもよいでしょう。
可能であれば、できる限り残業時間を少なくするようにしたいところですね。
本稿では、みなし残業の意味や残業代の請求方法・計算方法について書いてきましたが、参考にしていただき、皆様が損をしないよう適切に残業代を支払ってもらえれば幸いです。
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