残業をしたにもかかわらず、会社から「残業代計算は30分単位だから、30分未満は切り捨てになる」と説明され、納得できなかった経験がある方もいるでしょう。労働基準法では、労働時間は1分単位で計算することが原則とされています。そのため、残業代を30分単位で計算して支給するのは原則として違法です。
1日あたりの切り捨てられた残業代は、わずかな額かもしれませんが、残業代請求権の時効は3年ですので、3年分にもなれば相当な金額になるケースもあります。そのため、残業代の違法な切り捨てをされている場合は、会社に対してしっかりと請求することが重要です。
今回は、残業代を30分単位で計算することの違法性と未払い残業代の請求方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
残業代は、原則として1分単位で計算しなければなりません。
会社によっては残業代を30分単位で計算して、30分未満の残業時間を切り捨てるという扱いをしているところも多いのが実情です。
しかし、30分未満の残業代を切り捨てることは、切り捨てられた時間に相当する残業代が未払いになっていますので、賃金全額払いの原則を定めた労働基準法に違反します(労働基準法24条)。
また、就業規則で定める労働条件が労働基準法の基準を下回るときは、法律上の基準が優先されます。
もしも、会社の就業規則上で
・残業代は30分単位で支給する
・30分未満の時間は切り捨てる
のように、定められていたとしても、そのような規定は無効です。
例外的に端数処理認められるケースもある
なお、詳しくは後述しますが、1か月の残業時間を1分単位で計算した合計時間数の端数については、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げるという処理は、例外的に許容されています。
残業代は、原則として1分単位で計算しなければなりませんが、それだと会社の事務処理は非常に煩雑なものになってしまいます。
そこで、行政通達では事務処理を簡便なものとする目的で、1か月における時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数の合計に、1時間未満の端数がある場合には、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げるという処理を認めています。
たとえば、行政通達を前提にすると以下のような処理が可能です。
ただし、このような例外的な端数処理が可能なのは、1か月あたりの時間外労働・休日労働・深夜労働の合計時間に関する端数処理をする場面に限られます。
1日あたりの時間外労働・休日労働・深夜労働時間に端数が生じたとしても、30分単位で切り捨てるといった端数処理を行うことはできません。
割増賃金の対象ではないのに、30分未満の残業時間を切り捨てられている場合は、適正な残業代が支払われていないことになりますので、会社に対して未払い残業代請求をすることができます。
塵も積もれば、相当な残業代になっている可能性も!
30分未満の残業時間というとわずかな金額であるため残業代請求を諦めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、残業代請求権の時効は3年ですので、端数処理で切り捨てられた残業代が3年分になれば相当な金額になっている可能性もあります。
時効により残業代を請求する権利が消滅してしまう前に、会社に対する残業代請求を検討するようにしましょう。
残業時間の違法な端数処理により未払い残業代が発生している場合、会社に対して残業代請求をすることができます。
会社に対する残業代請求は、以下のような流れで行います。
未払い残業代を請求するためには、残業代が未払いであることを証拠によって立証していかなければなりません。
そのため、まずは未払い残業代の証拠を集めることが必要になります。
労働者が集めるべき未払い残業代の証拠は、具体的な状況によって異なりますが、一般的に必要になる証拠としては以下のようなものがあります。
未払い残業代に関する証拠は、単体では証拠能力が弱いと考えられる資料でも、複数を組み合わせることで有力な証拠になる場合があります。
そのため、できる限り多くの証拠を集めておくことが重要です。
また、会社を退職してからでは未払い残業代請求の証拠を集めるのが困難になりますので、証拠収集は会社に在籍中に行うべきでしょう。
未払い残業代に関する証拠が確保できたら、次は、未払い残業代の金額を計算します。
一般的な月給制の労働者の方であれば、以下のようなステップで未払い残業代の金額を計算することができます。
① 1時間あたりの基礎賃金を計算
1時間あたりの基礎賃金は、以下のような計算式により算出します。
なお、基礎賃金を計算する際の「月給」には、以下の手当は含まれません。
② 割増賃金率をかける
割増賃金率は、労働時間の種類に応じて、以下のように定められています。
区分 | 割増率 |
---|---|
法内残業 | 割増率の適用なし |
法外残業 | 25%以上の割増率 |
深夜労働 | 25%以上の割増率 |
休日労働 | 35%以上の割増率 |
月60時間を超える残業 | 50%以上の割増率 |
③ 残業時間をかけて未払い残業代を算出する
1時間あたりの基礎賃金に残業時間の種類に応じた割増賃金率をかけて、未払い残業代を算出します。
実際の残業代計算は、上記の計算式よりも複雑になることが多いため、正確に残業代を計算するためにも、弁護士に相談した方がよいでしょう。
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未払い残業代の金額が明らかになったら、会社に対して未払い残業代請求を行います。
未払い残業代請求は、まずは内容証明郵便を送るのが一般的な方法です。
内容証明郵便を利用することで、残業代請求をしたという証拠を残すことができるとともに、残業代の時効の完成を阻止することにも役立ちます。
内容証明郵便が届いた後は、会社との交渉を開始して、未払い残業代の支払いを求めていきます。会社との交渉で合意が成立したときは、必ず合意書を作成し、合意内容を書面に残しておくようにしてください。
会社との交渉が決裂し、問題が解決しないときは、裁判所に労働審判の申し立てまたは訴訟提起を検討します。
このような法的手段が必要になると労働者個人では対応が困難ですので、弁護士に任せた方がよいでしょう。
ご相談・解決までの流れについては、こちらで詳しく解説しています。
以下のようなメリットがありますので、残業代に関するトラブルでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
未払い残業代を計算するには、残業代計算に関する知識や経験が不可欠となります。
一般の労働者では、基本的な残業代の計算式がわかってもどのように当てはめればよいかわからず、残業代計算でミスが生じてしまいます。
残業代計算を誤ると本来もらえるはずの残業代よりも少ない金額しか請求できない可能性もあるため、残業代の計算は弁護士に任せた方がよいでしょう。
弁護士に依頼すれば、残業代の計算に必要な証拠収集から残業代計算まですべての手続きを任せられますので、負担を大幅に軽減することができます。
残業代請求をするには、会社との交渉が必要になりますが、労働者個人で請求を行っても、会社が誠実に対応しないケースもあります。
そのような場合は、弁護士を通じて交渉することで、会社側も真摯に対応せざるを得なくなる可能性があります。それにより任意の交渉で早期解決を実現できる可能性が高くなるでしょう。
また、交渉が決裂したときも弁護士に依頼していれば交渉から労働審判・裁判まで任せることができるというメリットがあります。
未払い残業代請求をするには、残業代が未払いであることを裏付ける証拠が必要不可欠です。証拠が不十分な状態では裁判をしても未払い残業代を支払ってもらうのは困難ですので、証拠収集が重要といえます。
ですが、残業代請求に必要になる証拠は事案によってさまざまです。
証拠の判断には、法的な知識も必要になりますので、一般の労働者の方ではどのような証拠が必要になるか判断することはハードルが高いでしょう。
弁護士であれば法的に有効な証拠を判断できますので、適切な証拠を確保することが可能です。
残業代を30分単位で計算し、30分未満を切り捨てる運用は、労働基準法に違反している可能性があります。就業規則にそのような記載があったとしても、法律に反する内容は無効とされます。
未払い残業代を会社に請求したいとお考えの方は、まずは弁護士に相談して、正確な残業代の計算と交渉を進めましょう。
会社に対する残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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