課長やマネジャーなどの役職を与えられている方の中には「管理職」という理由で残業代が支払われていない方もいるかもしれません。100時間の残業に耐えていらっしゃる方もいるかもしれません。
しかし「管理職」だからといって常に残業代の支払いが不要になるわけではありませんし、長時間残業が認められているわけではありません。労働基準法では、経営者と一体的な立場にある労働者を「管理監督者」と呼び、残業代(深夜手当を除く)の支払義務がありませんし、労働時間・休憩・休日の規制も適用が除外されていますが、「管理監督者=管理職」ではありません。
管理職だからという理由で100時間を超えるような長時間残業を強いられている方は、会社に対して高額な残業代を請求できる可能性がありますので、適切な行動をとることが大切です。今回は、毎月の残業が100時間を超えるなど長時間残業に悩む管理職ができる対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
管理職であれば100時間を超える残業をしても残業代は出ない、違法ではないから耐えないといけないと考えている方もいますが、実はそうではありません。
100時間を超える残業が違法になるかを考えるにあたっては、管理職と管理監督者との違いを押さえておかなければなりません。
部長、課長、マネジャーなどの肩書を与えられている人のことを一般的に管理職と呼ぶことが多いでしょう。
しかし、管理職の定義や範囲については、法律上明確に定められているわけではありませんので、企業によって管理職の扱いが異なることもあります。
管理監督者になると労働基準法の労働時間や休憩、休日に関する規制が適用されなくなります。
管理監督者に該当するかどうかは、後述の「名ばかり管理職の4つの判断基準」で詳しく説明しますが、肩書で判断するのではなく、あくまでも働いている実態に即して判断します。
一般の労働者の場合
一般の労働者であれば労働基準法により
・1日8時間、1週40時間(法定労働時間)
・月45時間、年360時間という残業時間の上限(※)
がありますので、月100時間を超えるような残業は、原則として違法です。
※臨時的な特別の事情がある場合には特別条項付きの労使協定を締結することで、残業時間の上限を超えて働かせることができますが、無制限に働かせることはできません。
管理監督者の場合
管理監督者に該当すると、労働基準法の労働時間に関する規制が適用されなくなるため、残業時間の上限規制も適用されません。
残業時間の上限規制が適用されないため、月100時間を超える残業をしても法律上直ちに問題になることはないということになります。
管理監督者に対して適用が除外されるのは、
・労働基準法の労働時間
・休憩
・休日に関する規制
です。
それ以外の労働基準法の規制は、一般の労働者と同様に適用されます。
つまり管理監督者でも
・深夜時間帯(午後10時から翌午前5時まで)に働けば深夜手当を請求できる
・6か月以上継続して勤務をして全労働日の8割以上出勤していれば、有給休暇を取得できる
ということには、変わりありません。
管理監督者には残業時間の上限規制はありませんが、労働者の健康リスクを軽減するために、企業には労働時間の把握が義務付けられています。
具体的には、労働者の労働日ごとの始業時刻および終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。
管理監督者だからといって労働時間の把握が不要になるわけではない点に注意が必要です。
管理監督者であれば100時間超の残業をしても残業代を請求することができません。
しかし、「名ばかり管理職」に該当する場合には、100時間超の未払い残業代の請求が可能です。
たとえば、
・部長、部長代理
・課長、課長代理
・主任
・マネージャー
など、の役職・肩書きであっても、実態として後述の「名ばかり管理職の4つの判断基準」に該当していなければ、法律上は一般的な労働者ですので、会社に対して残業代を請求することができます。
しかし、会社側は管理監督者の定義を拡大解釈し、残業代や割増賃金の支払いを逃れる目的で名ばかり管理職を悪用しているケースがあります。
・管理職だから残業代を支払わない!
・部長だから、管理監督者にあたる!
などと会社から言われ、残業代が支払われていない方の中には、残業代請求が可能な名ばかり管理職の方も、多く含まれている可能性があります。
名ばかり管理職であれば、一般の労働者と同様に労働基準法が適用されますので、残業時間には上限があり、働かせ放題ではありません。
このように月100時間を超える残業は、企業に対して責任を問えるレベルの残業ですので、名ばかり管理職の方はすぐに適切な行動をとり、自身の健康と残業代を取り戻しましょう。
管理監督者と名ばかり管理職の区別は、以下の4つの基準により判断します。
管理監督者といえるためには、経営者と同様に経営に関する重要な職務を担っている必要があります。
具体的には、以下のような職務を担っていることが管理監督者の要素のひとつです。
他方、経営者からの指示を受けて働いているだけであれば、管理監督者には該当しません。
管理監督者といえるには、経営者から重要な責任と権限を渡されていることが必要です。
具体的には、以下のような責任や権限を与えられていることが、管理監督者の要素のひとつとなります。
他方、課長やマネジャーなどの肩書が与えられていたとしても自分の裁量で行使できる権限がほとんどなく、上司の決裁を仰がなければならないような立場では、管理監督者には該当しません。
管理監督者といえるためには、労働時間について一定の裁量を有していることが必要です。経営者に近い立場だと、自分の判断で行動する必要があり、会社による労働時間管理がなじまないというのが理由です。
具体的には、労働時間に関して以下のような裁量があることが管理監督者の要素のひとつとなります。
管理監督者といえるためには、他の労働者よりも賃金等の待遇が優遇されていることが必要です。
具体的には、以下のような待遇がなされていることが管理監督者の要素のひとつとなります。
管理職に昇進して残業代が支払われなくなった結果、以前よりも給料が減ったというような場合には管理監督者とはいえないでしょう。
100時間を超える残業は過労死のリスクが非常に高いため、長時間労働でお困りの管理職の方は、以下のような対処法を検討しましょう。
1か月100時間以上の残業または2~6か月の平均が80時間以上の残業をしている場合、健康被害のリスクが高くなります。
このような健康被害のリスクが高まる残業時間を「過労死ライン」といいます。
管理監督者であれば残業時間の上限規制がないといっても、このような長時間残業が常態化しているのは好ましい状態ではないため、会社や労働組合に労働環境の改善を求めるべきでしょう。
まともな会社であれば業務量の見直しや人員の穴埋めなどにより長時間残業の改善に向けて動いてくれるでしょう。
管理職という理由で月100時間を超える残業をさせられている場合、過労死ラインに匹敵する残業時間であるため、その状況が続くと健康被害が生じる可能性が非常に高くなります。
会社や労働組合に労働環境の改善を求めても、長時間残業という状況が変わらないのであれば、健康被害が生じる前に退職・転職も検討した方がよいでしょう。
残業代請求をお考えの管理職の方は、以下のような理由から弁護士に相談することをおすすめします。
管理職としての肩書が与えられていたとしても、「名ばかり管理職」に該当する場合には、会社に対して残業代請求をすることができます。
しかし、名ばかり管理職に該当するかどうかは、専門的な知識がなければ正確に判断することができませんので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士であれば具体的な状況を踏まえて、名ばかり管理職に該当するかどうかを判断できます。
名ばかり管理職に該当する場合、まずは会社との交渉で未払いになっている残業代の支払いを求めます。
しかし、労働者個人が交渉しようとしても、会社がまともに取り合ってくれないケースも多いです。
この点、弁護士であれば労働者の代理人として会社と交渉できますので、会社も真剣に対応する可能性が高くなります。
自分の負担を減らしつつ適切な残業代を請求するなら、弁護士への依頼がおすすめです。
会社との交渉で解決できないときは、労働審判や裁判などの法的手段をとらなければなりません。
会社との交渉であれば、頑張れば労働者個人でも対応できますが、労働審判や裁判といった法的手段をとるとなると、専門的な知識や経験が不可欠になりますので、一般の方では対応が難しいでしょう。
弁護士に依頼すれば、労働審判や裁判の対応をすべて任せることができます。
弁護士に依頼するメリットついて、詳しくはこちらで解説しています。
課長やマネジャーなどの肩書が与えられている管理職の方であっても、労働基準法の管理監督者に該当しない「名ばかり管理職」であれば会社に対して残業代請求が可能です、
管理職という理由で月100時間を超える残業をさせられ残業代が支払われていない場合、その残業は違法であり、請求できる残業代も高額になる可能性があります。
会社に対して残業代請求をお考えの管理職の方は、まずは残業代請求が可能な「名ばかり管理職」に該当するかどうかを判断すべきでしょう。
ぜひベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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