研究職の仕事は、勤めている企業によって多少の違いはあるものの、専門の研究、会議への参加、資料や論文の作成などもあり、ほかの産業に比べても労働時間が長くなる傾向があります。
ところが「裁量労働制なので残業代は出ない」などという理由で、長時間労働に見合う給与が支払われていないケースもあるようです。
本コラムでは、研究者に適用される「高度プロフェッショナル制度」や「専門業務型裁量労働制」の仕組みを詳しく説明し、残業代の未払いが違法となるケースについて解説します。
まずは研究職の平均的な労働時間について、国の統計調査を基に見ていきましょう。
厚生労働省が公表している毎月勤労統計調査結果によると、令和3年7月の全産業の平均総実労働時間は140.1時間でした。うち、残業・休日出勤などの「所定外労働時間」の平均は9.8時間です。
これに対し、研究職にあたる「学術研究等」における平均総実労働時間は157.9時間、残業などの所定外労働時間の平均は13.4時間でした。総実労働時間の平均は、全産業に比べ17.8時間も上回る結果になっています。
ほかの産業に比べて労働時間が長くなっているにもかかわらず、研究職で残業が出ないケースがあるのは、なぜなのでしょうか。
カギとなるのは、研究職に適用される可能性がある「専門業務型裁量労働制」と「高度プロフェッショナル制度」です。この2つの制度について、詳しく解説します。
① 制度の概要
裁量労働制とは、業務の進め方や労働時間を労働者の裁量にゆだねる制度です。
「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、研究職には「専門業務型裁量労働制」が適用されるケースが一般的です。
② 対象となる業務
専門業務型裁量労働制は労働基準法第38条の3に基づく制度で、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務が対象となります。
具体的に対象となるのは19業務であり、厚生労働省令で定められています。
研究職以外で専門業務型裁量労働制の対象となるのは、弁護士、公認会計士などのいわゆる士業、新聞・放送などの記者やディレクター、デザインやインテリアコーディネーターなどの業務です。
③ 労働時間の考え方
専門業務型裁量労働制を適用された労働者は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ労使で定めた「みなし労働時間」分の労働があったとされます。
たとえば、みなし労働時間が1日につき「8時間」と定められていた場合、6時間しか働かなくても、11時間働いたとしても、8時間働いたとみなされます。
① 制度の概要
「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」とは、平成31年4月に施行された働き方改革関連法により新設された制度です。
高度な専門知識を有し、高収入を確保している労働者が、自律的で創造的なメリハリのある働き方をできるようにするのが制度新設の趣旨です。
現在は、「新たな技術・商品・役務の研究開発業務」を含む、5つの業務が対象になっています。
しかし、制度の利用はあまり進んでいません。
厚生労働省の発表によると令和3年3月末現在、高プロ制度の導入企業は全国で20社、対象労働者は552人にとどまっています。
② 対象となる労働者
高プロ制度の対象となるのは、次に該当する労働者です。
「一定の年収」とは、労働者の年間平均給与額の3倍を相当程度上回る額とされています。水準としては厚生労働省令で定められる額以上とされており、少なくとも「年収1075万円以上」であることが必要です。
③ 適用された場合の休日や手当の扱い
なお、高プロ制度が適用されると、年間104日間以上かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えるなどの、健康確保処置を講じることが使用者に求められます。
一方で、労働基準法で定められている労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金に関する規定については適用外となります。
したがって、残業代や休日手当、深夜手当などは、原則として発生することはありません。
専門業務型裁量労働制では残業代が発生するケースがあります。
では、どのようなケースにおいて残業代が発生する可能性があるのでしょうか。
専門業務型裁量労働制を導入するには、次にあげる事項を労使協定(または労使委員会若しくは労働時間等設定改善委員会の決議)で定める必要があります。
また、労使協定だけでなく、就業規則によって裁量労働制が適用される旨を規定する必要があります。
労使協定で上記の事項を定めていない場合や、就業規則で裁量労働制が適用される旨を定めていない場合、裁量労働制の適用は認められず、残業代が発生する可能性があります。
残業代発生の有無についてチェックするうえで重要にあるのが、みなし労働時間です。
みなし労働時間の設定によっては、残業代が発生する可能性があります。
労働基準法第32条では、労働時間の上限を「1日8時間、1週間40時間」とし、これを超えて労働させた場合には、割増賃金を支払わなければならないと定めています。
裁量労働制でも、みなし労働時間が上限を超えて設定されている場合は、残業代が発生する可能性があります。
たとえば、みなし労働時間が「10時間」と設定されている場合は、8時間を超える2時間分の残業代が発生すると考えられます。
労働基準法第37条は、深夜時間帯(午後10時から翌午前5時まで)や休日に労働をさせた場合、割増賃金を支払わなければならないと定めています。
裁量労働制も例外ではなく、深夜時間帯や休日の労働には割増賃金の支払いが必要です。
深夜や休日に働いているにもかかわらず割増賃金が支給されていない場合は、支払われていない賃金を請求できる可能性があります。
給与の額が労働時間と見合っていない、未払い残業代があるのではないかと疑問を感じている研究職の方は、労働問題の解決実績が多く、信頼できる弁護士に相談することをおすすめします。
休日出勤や長時間労働が常態化しているにもかかわらず、「専門業務型裁量労働制なので、残業代は支給しない」といわれているような場合も、あきらめる必要はありません。
弁護士に相談することで、実際に裁量労働制の適用条件に合っているのか、使用者側が適切に運用しているかなど状況を整理したうえで、具体的な対応策についてアドバイスを受けることが可能です。
また、未払い残業代がある場合は、未払い残業代の総額がいくらになるのか計算し、残業をした証拠を集めて使用者側に請求することになります。
しかし、正確な未払い残業代を正確に算出し、証拠を集めるのは簡単ではありません。
弁護士であれば、使用者への請求までトータルでサポートすることができます。
なお、残業代の請求権には消滅時効があります。
法改正により、令和2年4月1日以降に支払日が到来した賃金債権については3年となりましたが、それ以前に支払日が到来したものは2年です。
時効が完成すると、請求する権利が失われてしまうため、早めの対応が大切といえます。
残業時間の多さと給与の額が見合わないなど残業代に関する悩みを抱えている研究職の方は、適用されている制度が適切に運用されているか、法律で定められた割増賃金がきちんと支払われているかを確認することが大切です。
少しでも疑問を感じている場合は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へお気軽にご相談ください。
弁護士とスタッフが一丸となり、問題解決に向けて尽力します。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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