美容師業界では、業務時間外のカット練習や清掃業務などを原因とするサービス残業が多くなりがちです。
美容師アシスタントはいわば「修行の身」であることから、「修行に賃金が発生しないのは当然だ」という風潮もあります。美容師は個人の技術を商売の道具にしているという点で、職人的な職業といえます。したがって、業務時間外の練習には「修行」という要素があることも否定はできないでしょう。
しかし、現代では、職人的な職業であっても労働基準法の適用が除外されるわけではありません。もし雇用主から「残業代は発生しない」と説明されていても、実際には残業代を請求できる場合があるのです。
本コラムでは、美容師業界でサービス残業になりがちな業務の具体例や、契約形態別の残業代請求権の有無、未払い残業代の請求方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
美容師業界で働いていると、残業代が支給されない業務、いわゆる「サービス残業」が発生することが多々あります。
サービス残業になりがちな業務の例を挙げながら、残業代支給の対象になる場合とならない場合の基準について、解説します。
カット練習は、美容師自身のスキル向上のために行うものであり、「労働」と表現されると違和感があるかもしれません。
しかし、そもそも「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを指します。
つまり、会社や上司の指示で業務を行った時点で、それがスキル向上のための練習であっても「労働時間」となるのです。
カット練習も、会社や上司の指示で行われたのであれば、残業代の支給対象になります。
また、指示が明示的なものでなく、黙示のものであっても、労働時間の対象となります。
たとえば、「新人が業務終了後に居残りしてカット練習することは当たり前だ」という慣習があり、練習を断ることが難しい状況にあれば、カット練習も労働時間とみなされる可能性が高くなります。
特に、必要最低限の技術を身につけるためのカット練習であれば、「上司の指示によって行われた」と認められやすいでしょう。
一方で、十分な技術のある美容師が、上司から「もうカット練習の必要はない」と言われていたのに、さらなるスキルアップのために自主的に行った場合には、残業代は認められないと考えられます。
美容師の労働時間は、必ずしも店の営業時間と同じではありません。
営業時間外であっても、上司の指示で業務を行った場合には、労働時間に含まれるのです。
カット以外にも、清掃や予約の電話受付、商品の発注、備品管理など、美容師の業務は多岐にわたります。たとえ営業時間外であっても、これらの業務を会社の指示で行った場合には、残業代が発生すると考えられます。
同じ時間外労働であっても、勤務の契約形態によって、残業代を請求できるか否かが分かれる場合があります。
① 原則として残業代を請求することはできない
請負契約や業務委託契約は、労働力の提供ではなく、「仕事の成果」を提供する契約です。
勤務時間や業務の進め方などの制約はなく、会社と対等な関係で締結することを原則とした契約となります。
美容室との間に、雇用契約ではなく請負契約や業務委託契約を締結している場合には、原則として残業代を請求することはできません。
② 「実質的な雇用関係にある」場合は、残業代を請求できる可能性もある
しかし、形式的には請負契約や業務委託契約を締結していたとしても、実質的には雇用契約と同様の就労状況があるとみなされる場合には、残業代を請求できる可能性があります。
実質的な雇用関係とは、会社の指揮命令や監督下にある、ということです。
具体的には、次のような事情がある場合には、「実質的な雇用関係にある」と認められやすくなります。
このように、雇用関係の有無は、「契約の形式」ではなく、「労働の実態」によって判断されます。
「固定残業制」とは、あらかじめ一定時間の残業を想定し、その分の残業代を基本給に含めて支給する制度です。
固定残業制度が正しく運用されている場合には、残業しなかった月でも残業代が受け取れるため、従業員側にも一定のメリットがあります。
しかし、実際には、想定した時間よりも多く働いたにもかかわらず、固定の残業代分しか支払われないというケースが散見されるのです。
会社から「固定残業制であるから残業代は支給されない」と説明されていたとしても、それは誤りです。
原則として、想定した残業時間よりも多く働いた場合には、その超過する分について、別途残業代が発生します。
「みなし労働時間制」とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めておいた時間分、労働したものとみなす制度です。
ただし、みなし労働時間制が該当するのは原則として下記の3種類の職業であり、美容師は通常、いずれにも該当しないものといえるでしょう。
したがって、「みなし労働時間制を採用しているから」との理由で、雇用主が残業代の支払いを拒否することはそもそも認められないのです。
よって、みなし労働時間制と標榜している職場であっても、通常どおり残業代を請求できる可能性は高いのです。
面貸し契約とは、美容師個人が美容室の空きスペースを間借りして、売り上げの一部を場所代として美容室に支払う契約です。
この場合、美容師はあくまで個人事業主であり、美容室との間に雇用関係はないため、美容室側に残業代の支払い義務は発生しません。
しかし、形式上は面貸し契約であっても、実質的には美容室の指揮命令下にあると判断できる場合には、残業代が発生する可能性があります。
たとえば、労働時間が決まっていたり、業務内容について店から細かい指示を受けていたりした場合は、指揮命令下にあったと判断されやすくなるのです。
「会社が残業代を支払っていない」と考えられる場合には、まずは証拠を集めましょう。
実際の作業時間や拘束時間が推定できる証拠があれば、残業時間を証明することができます。一般的には、タイムカードや出退勤時刻を記録したメモなどが挙げられます。
また、美容業界特有の証拠として、時間などの記載のある「指名履歴」も有効です。
さらに、終業後のカット練習については、同僚の証言も証拠となりえます。
証拠が集まったら未払い残業代を計算して、会社に請求します。
配達証明付きの内容証明郵便を用いて請求書を会社に送り、任意で交渉することが、一般的な方法となります。
交渉で解決することもありますが、交渉が成立しない場合には、労働審判や裁判にまで発展することもあります。
証拠収集や会社との交渉に不安がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。
複雑な残業代の計算から会社との交渉まで、弁護士に任せることができるためです。
もしも、会社が勝手な言い分で残業代の支払いを拒むようあれば、弁護士が法的な根拠を元に残業代の支払いを求めますので、時間的にも精神的にも、負担が軽くなるでしょう。
労働時間の認識があいまいになりがちな美容師業界においては、残業代が発生する範囲をしっかり理解して、必要に応じて適切に請求していくことが大切です。
業務時間外のカット練習や清掃業務などについても残業代が発生する場合があります。
「未払いの残業代があるかもしれない」「そもそも自分の契約形態で残業代を請求できるかどうかを知りたい」など、残業代についてお困りの方は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にまで、ぜひご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を