みなし残業制とは、あらかじめ残業が想定される場合に、その分の残業代を固定給として支払う制度のことです。本来は、会社の給与事務の効率化などを目的に導入される制度ですが、会社が「いくら働かせても固定の残業代を払えば済む制度」と誤解しているケースが散見されます。
しかし、みなし残業制は、一定時間以上の残業をさせた場合には、その時間を超えた残業時間の残業代を支払わなければならない制度です。また、みなし残業時間があまりにも長時間にわたる場合には、みなし残業制が無効になる可能性もあります。
本コラムでは、みなし残業制をテーマに、残業時間の上限や残業代の計算方法、みなし残業制が無効とされるケースなどについて解説します。
みなし残業制の概要と残業代が発生する条件について解説します。
みなし残業とは、一定時間の残業が想定される場合に、その時間分の残業代をあらかじめ固定給として支払う仕組みをいいます。
一般に「みなし残業制」や「固定残業制」などと呼ばれていますが、法律に定められた制度ではなく、正式名称もありません。当然ながら、労働基準法に違反しないように運用されている必要があります。
混同しやすいのは、労働基準法が定める「みなし労働時間制」です(第38条の2~38条の4)。これは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分を働いたとみなす制度をいい、「事業場外みなし労働時間制」と2種類の「裁量労働制」があります。
いずれもみなし残業制とはまったく異なる制度なので注意しましょう。
みなし残業時間を超えて働いた場合は、超えた分の残業代が別途発生します。
反対に、実際の残業時間がみなし残業時間に満たなかった場合でも、その分が削減されることはなく、みなし残業代が支払われます。
たとえば固定給に20時間分の残業代を含めて支払われる契約で、ある月の残業が30時間だった場合には、20時間を超える10時間分の残業代が別途支払われなければなりません。同じ契約で、ある月の残業時間が10時間だった場合には、20時間分の残業代が支払われます。
残業代とは、勤めている会社の規定で定めている所定労働時間を超えて働いたときに支払われる賃金を指します。
原則として、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えた労働時間については、残業代として、基礎時給(1時間あたりの賃金)に、25%以上の割増率と残業時間をかけた割増賃金が支払われます。
みなし残業制における残業代は、本来支払われるべき残業代よりもみなし残業代が多い場合は、みなし残業代が支払われます。
本来支払われるべき残業代よりもみなし残業代が少ない場合は、以下のように実際の残業時間などを割り出したうえで差額を算出します。実際に支払われていた残業代が本来支払われるべき残業代より少ない場合は、未払い部分を会社に請求できます。
① 1時間あたりの賃金額を算出する(月給制の場合)
※正確に計算する際には、各種手当が基礎賃金に含まれるかどうかの判断が必要です。
② タイムカードなどを参考にして、実際の勤務状況から時間外や休日、深夜労働をした時間は別途割り出しておく
③ みなし残業代を確認する
④ 以下の計算式を用いて残業代を計算する
なお、1日の所定労働時間が8時間未満の事業所や、残業した時間がただの時間外労働だけではなく、深夜、休日など多岐にわたるケースなどにおいては、それぞれの割り増し分を換算する必要があります。
したがって、計算がより複雑になるため、正確な金額を割り出すのであれば、弁護士に相談に相談したほうがよいでしょう。
また、残業代を計算する際に基礎賃金には、ここに含まれる手当と含まれない手当てが存在します。複数の手当てがついている場合、計算が複雑になりがちです。
そのようなケースにおいても、正確な未払い残業代を計算したいときは弁護士に相談することをおすすめします。
みなし残業制度では、みなし残業時間を超える残業をしない限り、残業代は発生しません。では、みなし残業時間に上限時間は存在するのでしょうか?また、みなし残業時間の目安時間は何時間なのでしょうか?
みなし残業時間の上限を直接定めたルールはありませんが、「月45時間以内」に設定するのが一般的です。
というのも、そもそも会社が労働者に残業をさせるためには、労働者代表または労働組合と「36協定」を結んで労働基準監督署へ届け出る必要があり、36協定における時間外労働の上限が月45時間と定められているからです(労働基準法第36条第4項)。
「特別条項付き36協定」を締結することで月45時間を超えた残業が可能となりますが、これは、通常予見できない特別な事情が発生した場合に限って臨時的に許容されるものです。
その趣旨と照らせば、みなし残業時間が1年を通じて45時間を超えるみなし残業制は無効とされる可能性が高いと考えておくべきでしょう。
みなし残業制が無効となった場合、みなし残業代は、基礎賃金として扱われるため、単に、残業代が支払われていないというだけではなく、基礎時給が上昇することになります。
その結果、未払残業代額は大きく跳ね上がります。
36協定による時間外労働の上限時間は、従来、法律ではなく大臣告示による基準に過ぎず、罰則もありませんでした。また特別条項付き36協定にいたっては上限がなく、会社は実質的に賃金さえ支払えば際限なく労働者に残業させることが可能となっていました。
しかし、平成31年4月から順次施行された働き方改革関連法案により、時間外労働には法律上の上限が設けられています(労働基準法36条6項)。
会社がこれに違反して労働者を働かせた場合は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます(労働基準法第119条1号)。
36協定による上限は、月45時間・年360時間です。
また特別条項付き36協定を締結する場合でも以下を守らなければなりません。
したがって、みなし残業時間が上記の範囲を超えて設定されているケースでは、みなし残業制が無効とされる可能性がより高くなるでしょう。
もちろん、残業の前提となる36協定が締結されていないケースも、みなし残業制が無効となる可能性があります。
上限規制に抵触するケース以外でも、みなし残業制が問題となるケースがあります。
会社がみなし残業制を導入する場合は、それが労働者に分かるよう制度について就業規則に明記するとともに、雇用契約書には基本給とみなし残業代の金額及び時間数を明確に記載するべきです。
たとえば「月給23万円(基本給20万円、みなし残業20時間分3万円)」など、基本給とみなし残業代の金額及び時間数がそれぞれいくらなのか分かるように記載します。
就業規則などに、みなし残業時間が規定されているだけで、みなし残業代の額が規定されていない場合には、みなし残業代の有効性が問題となることがあります。
このような場合、
を計算することで、みなし残業代を算定することも可能ですが、計算方法を知らされていない労働者は、自身の基本給とみなし残業代の額を区別して理解できていないことも多いでしょう。
裁判例には、月30時間を超えない時間外労働に対する部分は基準内賃金に含まれるとの給与規定の定めがあっても、基準内賃金のうち割増賃金に当たる金額がいくらであるのか明確に区分されているとは認められないから、割増賃金の支払であるとはいえないとされたものもあります(東京地裁平成21・1・30労判980号18頁)。
もっとも、裁判例によっても判断が分かれるところですので、みなし残業代の金額が明確に記載されていない場合には、一度弁護士に相談したほうがいいでしょう。
みなし残業代を除く基本給を時給換算したときに、事業所の所在地である都道府県の最低賃金を下回っている場合も、みなし残業制の有効性が問題となります。
最低賃金は毎年10月に改定され、厚生労働省のWEBサイトに金額が掲載されます。
ご自身の時給と比較してみましょう。
みなし残業時間を超えて働いた分の残業代が未払いの場合には未払いの部分を請求できます。勘違いしている会社も多くありますが、みなし残業制は、何時間働かせても追加の残業代の支払いを免れるという制度ではありません。
なお、みなし残業代の金額が、割増率を加算して算定されていなかったときは、みなし残業時間を超えて残業をしていなかったとしても、不足する残業代を請求できることがあります。
みなし残業に関係する労働問題でお悩みのときは、弁護士へ相談しましょう。
労働者が個人で会社との交渉を試みても、会社が交渉に応じない、何かと理由をつけて正当性を主張するなど、思うように交渉が進まないケースが少なくありません。
弁護士に対応を依頼することで、あなた自身が矢面に立ち交渉をしなくてよくなります。
また、会社が重大な法的トラブルだと認識して交渉に応じる可能性が高まり、不利益な扱いを受ける可能性を回避できるでしょう。
ベリーベスト法律事務所は、長時間労働の是正に向けた交渉や残業代の請求などを通じて、労働問題を解決してきた実績が多数あります。
あなたの労働契約が適切かどうかなどのアドバイスも行いますので、まずはご相談ください。
みなし残業制は、一定の残業代を固定給として支払う仕組みです。
本来であればみなし残業代を超えた残業代については、労働者に支払われなければならない制度ですが、会社が制度を悪用し、残業代の支払いを免れようとするケースが少なくありません。
どれだけ働いても同じ額の残業代しか支払われない、もしくは一切残業代が支払われないというときは違法の可能性が高いと考えられます。できるだけ早急に弁護士へ相談したほうがよいでしょう。
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