契約社員として会社に勤務する場合、正社員とは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
「契約社員だから残業代は支給しない」などと言われるケースもあるようですが、こうしたことは法律上、認められているのか、気になるところでしょう。
契約の内容によっては待遇面で、契約社員と正社員との間になんらかの差が設けられているケースが多いものです。
本コラムでは、契約社員における残業代支給に関する基本ルールや、契約社員であることを理由に残業を拒否できるかどうかなどについて、弁護士が解説します。契約社員として働く方はぜひ参考にしてください。
まずは「契約社員」の定義と、正社員との具体的な違いについて説明します。
前提として、契約社員という名称は法律用語ではありません。
呼び方も、「嘱託社員」「準社員」「限定社員」「非常勤」などさまざまで、仕事内容や待遇も、会社によって異なります。
ただ、一般的に、契約社員とは、労働契約にあらかじめ雇用期間が定められている社員のことを意味します。雇用期間の上限は、労働基準法14条で原則3年(高度な専門的知識を有する人や満60歳以上の人の場合は5年)と定められています。
これに対し、いわゆる正社員は労働契約に雇用期間が定められていません。
すなわち、契約社員と正社員の法律上の違いは、有期雇用契約か無期雇用契約かの違いです。
ただし、一般的に正社員には支給されている賞与や退職金が契約社員には支給されないなど、待遇面に差があるケースが多いとされます。
正社員に残業が課されている職場で、契約社員が「契約社員であること」を理由に定時退社したとすると、どうなるのでしょうか。契約社員は残業命令を拒否できるのかどうか解説します。
労働基準法32条は労働時間を「1日8時間、週40時間」以内と定めています。
これを法定労働時間といいます。
法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合、会社は、あらかじめ労働組合などと残業時間に関する協定を締結し、労働基準監督署に届けなければなりません。
この協定は労働基準法36条で定められていることから、「36協定(サブロク協定)」と呼ばれます。
また、会社が残業を命じるためには、雇用契約書や就業規則に「残業命令に応じる義務」を明記する必要があります。
就業規則などに残業ありうる旨の定めがある場合には、契約社員も、正社員と同様、36協定で定められている残業時間の範囲内で、残業に応じなければならないといえるでしょう。
ただし、「36協定」が締結され、就業規則上に「残業を命じることができる」旨記載されていたとしても、契約社員の労働条件は会社との契約によって決まるので、会社との交渉次第では「残業をしない」という契約を結ぶことは可能です。
したがって、「残業しない」という内容が雇用契約書に明記されれば、残業命令を拒否できます。
結局は、契約内容によって異なりますので、就業規則や雇用契約書などで契約内容を確認する必要があります。
「残業命令に応じる」という契約をしていた契約社員が、会社側から下された残業命令を特別な事情もなく残業を拒否すると、雇用契約上の義務を果たしていないとして、正社員と同様、懲戒処分を受けるおそれがあります。
場合によっては、懲戒解雇といわれてしまうケースもあるかもしれません(最判平3・11・28民集45巻8号1270頁日立製作所武蔵工場事件)。
しかし、
などには、原則として、残業を拒否できるため、不利益処分は許されません。
また、上記の他、残業をすることができない正当な理由がある場合にも、不利益処分を科すことができないとされています。
正当な理由の例としては、
などが挙げられます。
ただし、健康上の理由による残業命令の拒否に関して、従業員が単に「風邪をひいた、疲れる」などと訴えるだけで、発熱等の症状を具体的に申告することもなかったという事例において、訓告が有効とされた裁判例(大阪地判平10・3・25労判742号61頁東海旅客鉄道(大阪第三車両所)事件)や、腰痛を理由に残業命令を拒否したものの、腰痛による残業への影響が不明という事例において、解雇が有効とされた裁判例(大阪地判平19・7・26労判953号57頁英光電設ほか事件)があることに注意すべきです。
また、契約社員など一定期間を雇用する社員の解雇について、労働契約法17条では以下のように定めており、期間の定めのない正社員の解雇よりも厳格に解雇制限がなされています。
実際の裁判では、会社側から見た「やむを得ない理由」が認められ、契約期間中の解雇が有効となった判例はほとんどありません。
したがって、残業の拒否を理由とした「解雇」は無効と判断される可能性が高いと考えられます。
とはいえ、期間途中に解雇される可能性は低くても、契約更新時に雇い止めを受けるおそれがあるので注意は必要でしょう。
契約社員として残業した場合、どのようなルールに則って残業代が支払われるのか、基本的な考え方を説明します。
残業代支給の対象となるかどうかに正社員、契約社員などの「雇用形態」は関係なく、「労働基準法が適用されるかどうか」がポイントになります。
「契約社員だから残業代が出ない」といった認識は誤りです。
労働基準法の対象となる労働者について、労働基準法9条では
と定めています。
正社員も契約社員も、パートやアルバイトも、いずれも労働基準法の対象となる労働者に該当するのです。
他方、請負契約や業務委託契約で働いている人は、会社との使用従属関係ありません。
会社と対等な立場で仕事をしているので、労働基準法が適用される労働者にはならないことがほとんどです。
したがって、そもそも会社側が残業命令を下すことはできませんし、時間を超過して仕事をしたとしても、該当の契約内で規定をしていない限り、別途残業代の請求はできないケースがほとんどです。
労働基準法は、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて労働させる場合、会社は労働者に対し「残業代として割増賃金を支払わなければならない」と規定し、政令で割増賃金の割増率についても明記しています(労働基準法32条、37条、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。
この残業ルールは、正社員、契約社員、アルバイト・パートなど労働基準法の対象となる労働者すべてに適用されます。
会社はこれらの労働者に対し、法定労働時間を超えて働かせた時間分の時給に、割増率を乗じた額を残業代として支給する義務があるということです。
残業代を計算する場合、労働時間には「法定労働時間」と「所定労働時間」の2種類があるということを注意しなければなりません。
「所定労働時間」とは、就業規則などで会社が独自に決めた、いわゆる「定時」を意味します。会社に割増賃金の支払い義務が発生するのは、あくまでも「法定労働時間」を超えて働いた場合で、「所定労働時間」ではありません。
たとえば、定時が「午前10時から午後5時、休憩1時間を含む」という契約社員が、午後6時まで働いたとしても、労働時間は計7時間で法定労働時間を超えないことになります。したがって、残業代は支給されますが、割増賃金は発生しません。
なお、割増率は、労働基準法の下限を満たしている限り、会社が自由に設定できますが、正社員と契約社員とで、割増率に差を設けることは許されません(パートタイム・有期雇用労働法8条、同一労働同一賃金ガイドライン参照)。
年俸制や時給制でも、残業代が発生する可能性があります。
一般的に、給与の総額を年単位で決めて支払うという給与体系を年俸制と呼びます。
年俸制の場合、総額の中に一定時間分の残業代を含めて支給されるのが一般的です。実際の労働時間が、当初想定した残業時間以内であれば、残業代などの加算はありません。
しかし、当初想定した残業時間を超えて労働した場合は、超えた分の残業代を請求することができます。
時給制とは、労働した時間ごとに給料が発生する給与体系を指すケースが一般的です。
1日8時間、週40時間を超えて働いた場合、時給に労働基準法で定められた割増率を乗じた割増賃金を請求できます。
契約社員の残業をめぐり、支払われるべき残業代が支払われていない、もしくは、あらかじめ残業をしない契約をしているのに残業を強要されているという方は、弁護士に相談することをおすすめします。
たとえば「残業しなければ契約を打ち切る」などとして、残業を強要された場合、雇用契約書に残業に関する記述がなければ、契約違反の可能性があります。
契約で残業に同意していても、解雇は不当と判断されるケースが多いため、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
また、「契約社員だから残業代は支給しない」などといわれ、いくら残業をしても残業代が支払われていない場合、未払い残業代を請求できる可能性があります。
まずは契約書を見直してみるべきでしょう。
労働問題についての知見が豊富な弁護士ならば、残業代の詳細な計算から会社との交渉まで対応可能です。あなた自身が会社と交渉する必要はなく、すべて弁護士に任せることができます。
まずはどうすべきか、アドバイスを得てみてはいかがでしょうか。
契約社員であっても、契約の内容や労働者の事情次第で残業を拒否することが可能です。
残業をした場合、契約社員でも、正社員と同様に、労働基準法が適用される労働者であれば法律のルールにのっとって残業代を請求することができます。
労働契約に反する残業の強要や未払い残業代など、契約社員の労働条件に関するトラブルでお悩みでしたら、ベリーベスト法律事務所へぜひご相談ください。
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