派遣社員として働いている場合、派遣先の会社からの残業の指示に応じなければならないのでしょうか。
派遣先の正社員と比べて支給されている給与が少ないのに、契約時間を超えて働かなければならないのは「理不尽」と感じる派遣社員の方もいるかもしれません。
派遣社員の場合、残業を断れるケースと断れないケースがあります。本コラムでは、どんな場合に残業を断れるのか、断れなかった場合に残業代はどのように支払われるのかについて解説します。
あわせて、そもそも派遣社員とはどんな雇用形態を指すのか、労働基準法における残業代支給のルールはどうなっているかなど、基本的な知識も確認しましょう。
派遣社員とは、派遣会社と契約を結び、ほかの会社に派遣されて就労する労働者のことで、「派遣労働者」ともいいます。
派遣社員の場合、派遣先でなにかあれば「まず派遣元に相談する」のが基本的な対応になります。
派遣社員の法律上の雇い主は派遣元である派遣会社なので、給与の支払いをはじめ労働条件の確保などに関する責任は原則として派遣元が負っています。
したがって、派遣先の業務に関連してトラブルや事故が起きたようなケースでも、派遣元が責任を持って対処しなければなりません。
一方で、実際に派遣社員を指揮命令して業務を行わせるのは派遣先の会社です。
そのため、派遣先の会社にも、派遣元と連携して派遣社員の労働時間を適正に把握し、危険・健康障害の防止措置を適切に講じることなどが求められています。
派遣社員の場合、残業の指示はどのように行われるのでしょうか。
派遣社員の残業指示のルールについて解説します。
労働基準法32条では、労働時間を1日8時間、週40時間を超えてはならないと定めています。この時間を法定労働時間といいます。
① 労使協定が締結されている
もし、法定労働時間を超えた時間外労働(残業)や休日出勤などの労働をさせる場合は、労働者と雇用主は労使協定を結ばなければなりません(同法36条・通称サブロク協定)。労使協定とは、労働者の代表者と会社との間で締結する労働条件などの協定です。
この労使協定は雇用者と、事業所の労働者の過半数を代表する者または事業所の労働者の過半数で組織する労働組合との間で書面によって締結されなければならないとされており(同法36条1項)、労働者のひとりひとりと締結しなければならないものではないという点は注意が必要です。
つまり、派遣先で派遣社員が残業するには、まず派遣元と派遣会社における労働者の代表者との間で、時間外・休日労働に関する協定を締結しなければなりません。
この派遣会社における労働者の代表者とは、派遣中の労働者とそれ以外の労働者の全ての労働者の過半数を代表する労働者のことを指します。
② 就業条件明示書に、残業に関する規定が明記されている
つぎに、就業条件明示書に「1日1時間以内の時間外労働あり」などと残業に関する規定が明記されていなければなりません。
就業条件明示書とは、派遣元が派遣社員を派遣する前に、派遣社員に対し、派遣契約の内容について通知する書類です。
業務内容や派遣期間、時間外労働の定めなどが記載されています。
したがって、前述した通り、
場合は、残業を断ることができます。
また36協定と就業条件明示書の両方がそろっていても、36協定で定められた時間外労働を超えた残業命令は断ることが可能です。
一方で、残業を断れないケースもあります。
前述した条件が全て満たされている場合で求められます。
この場合は、残業命令に応じなければなりません。
労働基準法36条4~6項は残業時間の上限を定めており、この上限規制は派遣社員にも適用されます。
残業の限度時間は、原則「1か月45時間、1年360時間」までで、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。
また、臨時的な特別の事情がある場合でも
としなければなりません。
これらに違反して働かせた場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法119条1号)。
派遣社員でも、残業をすれば残業代を請求することができます。
もし、残業代が支払われているとしても、残業時間に見合った残業代が支給されていなければ違法の可能性があります。
なお、派遣社員は、派遣会社と契約関係にあるため、残業代の請求先は派遣先ではなく、派遣会社となります。
残業代支給の基本的な考え方について解説します。
前述の通り、労働基準法32条が定める1日8時間、週40時間の労働時間の上限を法定労働時間といいます。労働基準法37条では、法定労働時間を超えて労働させた場合、残業代として割増賃金を支払うよう会社に義務付けています。
したがって、1日8時間、週40時間を超えて労働したときには、派遣社員でも残業代を請求できるということです。
ここで注意したいのが、「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いです。
所定労働時間とは、会社が独自に決めた労働時間のことで、派遣社員の場合は契約時間を指します。
割増賃金が発生するのは、あくまでも法定労働時間を超えたときで、契約時間を超えて働いても割増賃金が発生しないことがあります。
たとえば、「午前11時から午後3時まで」の時短で契約している派遣社員が午後5時まで働いても、労働時間は6時間で法定労働時間を超えないので、割増賃金は発生しません。
契約時間を超え、法定労働時間を超えない分については、割り増しのない通常の賃金が支払われます。
通常の残業の場合、残業代の割増率は25%以上と定められています(労働基準法37条)。
したがって、派遣社員の残業代は
で求められます。
時給は、月給制の場合、
と計算します。
割増賃金は休日労働と深夜労働に対しても支払われます。
休日は、原則として「使用者は労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と規定されており、これを法定休日といいます(労働基準法35条)。
この定めを超えて休日労働をした場合の割増率は35%以上です。
休日の割増率の注意点
ここで注意が必要なのは、休日の割増率が適用されるのは「法定休日」のみだということです。たとえば、週休2日制で土日を休みにしている会社のケースで、日曜日を「法定休日」と指定している場合、土曜日の労働については休日労働の割増賃金が発生しません。
深夜の割増率と、深夜に残業した場合の考え方
なお、深夜の割増率は25%以上で、午後10時から翌午前5時の間の労働に対して適用されます。
残業が深夜時間帯におよんだ場合は、
となります。
最後に、派遣社員として、残業に関するトラブルに見舞われた場合の対処方法について説明します。
派遣社員をめぐっては、労働時間の管理などが適切に行われず、残業代の未払いにつながっていることも少なくありません。
未払いの残業代があったり、契約にはなかった残業を強要されるなどのトラブルが起きたときは、まず派遣元に連絡し、対応を依頼しましょう。
派遣元の担当者には、派遣先の責任者と連携して、問題の解決を図る義務があります。
派遣社員のトラブルに関しては、派遣元と派遣先の責任分担が複雑なため、どちらに相談すべきか、個人での対応が難しいケースもあります。
個人で問題解決が難しいと感じたら、労働問題の経験が豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、会社との交渉を一任したり、交渉方法について法的知見に基づいたアドバイスを受けたりすることが可能です。
また、話し合いで解決できなかった際は、そのまま弁護士に労働審判や訴訟の手続きを依頼することができます。
未払いの残業代があれば、派遣社員にも請求する権利があります。
未払い残業代を請求するためには、残業時間を正確に把握し、残業代を計算し、残業した証拠を集めるなど、相応の労力が必要となります。
弁護士は、複雑な残業代の計算や証拠集めのアドバイスなどを行い、精神的な負担を軽減できるようサポートします。
なお令和2年3月31日以前に支払い期日が到来した残業代については2年で時効となり(改正前労基法115条、労基法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則2条2項)。
令和2年4月1日以降に支払い期日が到来した残業代については3年で時効となります(労基法115条、143条3項)。
そのため、残業代が支払われていないと思った場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
派遣社員が残業するには、派遣元と派遣会社の労働者の代表者が36協定を締結しており、かつ就業条件明示書に時間外労働の定めが明記されている必要があります。この2つの条件がそろっていなければ、残業を拒否することができます。
また、派遣だから残業代は出ない、といった考えは間違いです。
管理者の命令にしたがって残業した場合には、残業代を請求することができます。
ですが派遣という雇用形態の場合、派遣元と派遣先で責任の所在が異なるため、トラブルの解決が難しいケースがあります。
トラブルが起きた際には、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へぜひご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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