WEB業界というと、徹夜や会社への泊まり込みは当たり前というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。WEB業界では長時間労働が恒常化しているといわれており、その業務の特質からさまざまな働き方が採用されています。
長時間働いているわりには給与が少ないと感じつつも、契約内容からして仕方がないとお悩みの方もいるでしょう。しかし、実は残業代を請求できるかもしれません。
裁量労働制やフレックス制、年俸制でも残業代は請求できるのか、できるとしたらどんなケースかなど、正しく残業代を受け取るために必要な知識をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
このような業界特有の事情が重なり、「残業は当然」「激務をこなして一人前」という風潮が出来上がってしまっているのかもしれません。
どのような場合に残業代がいくら発生するのか、まずは、一般的な月給制で残業代を計算するときの基本の考え方を解説します。
残業代は残業時間に応じて支払われる賃金ですが、その計算のためには、残業時間の種類を理解しておかなくてはなりません。
① 残業時間には2種類ある
残業時間には、「法定時間内残業」「法定時間外残業」の2種類があります。
それぞれ、内容は以下のとおりです。
なお、1時間当たりの賃金は、その月の給与から家族手当や通勤手当などの一部手当を差し引き、月の所定労働時間で割ることで計算できます。
② 事例
たとえば、以下のような労働者がいたとします。
その場合、30分は法定時間内残業、15分は法定時間外残業として、以下のように計算します。
また、法定時間外残業のほかにも割増賃金の対象となるケースがあるので、確認しておきましょう。
ここまで見てみると、「所定労働時間が1日8時間で、月30時間残業していたら、法定時間外残業として30時間分の割増賃金が必ずもらえるのか」と思われるかもしれません。
しかし、月給制の場合、「固定残業制度(みなし残業)」を導入している企業がほとんどです。
固定残業制度とは、毎月一定時間残業するものとして、あらかじめ給与にその時間分の残業代を含んで支給する制度をいいます。
固定残業時間が40時間とされている場合、30時間残業してもあらかじめ払われている固定残業時間分を超えませんので、残業代は支給されません。
ただし、40時間を超過した場合は、その超過分の残業代を支払ってもらうことができます。
以上が一般的な月給制における残業代の算出方法ですが、勤務形態によっては必ずしもこのルールが適用されるわけではないため、注意が必要です。
WEB業界で採用されることが多く、かつ残業代の計算についてわかりづらい各勤務形態について、その概要と残業代が発生する条件についてそれぞれ解説します。
① フレックスタイム制とは
フレックスタイム制は、一定期間内で総労働時間を設定し、労働者自らが業務の始業・終業時刻および労働時間を決めることができる制度です。
総労働時間は、最大3か月までの範囲で期間を区切り、設定します。
この区切った期間を清算期間といい、原則として、残業時間はこの清算期間ごとに計算します。
② 事例
たとえば、清算期間を1か月とし、その月の総労働時間を170時間と設定したとしましょう。ある日、1日に10時間働いたとしても、その月内で労働時間を調整すれば事足りるため、残業代が直ちに発生するわけではありません。
一方、1か月の清算期間で185時間労働していた場合、総労働時間を15時間超過したことになるため、このときには残業代を支払ってもらうことが可能です。
残業代の計算では、前述と同様、「法定時間内残業」「法定時間外残業」のどちらにそれぞれ何時間当てはまるのか確認したうえで、計算することになります。
① 裁量労働制とは
裁量労働制とは、業務の遂行の手段、時間配分に関し、労働者の裁量に委ねる制度で、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。
裁量労働制では、労使協定等で定めた労働時間数分、労働したものとみなされます。
たとえば「1日8時間労働したとみなす」という内容であれば、10時間労働した日も、逆に1時間しか労働しなかった日も8時間労働したとみなされることになります。
② WEBプログラマー・SEは、裁量労働制の対象?
なお、専門業務型の裁量労働制は、マスコミ記者や研究者など適用できる職種が限られ、事務職などの一般的な会社員等は対象となっていません。
たとえばWEB業界の職種では、「情報処理システムの分析または設計の業務」が裁量労働制の対象となっていますが(労基法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号)、通達上、これは、
とされ、「プログラムの設計または作成をおこなうプログラマー」は裁量労働制の対象外とされています(平1・6・14基発1号、平12・1・1基発1号)。
また、システムエンジニアであっても、上流工程の一部しか担当せず、実際にはプログラミング作業も多く担当するなど、与えられている裁量の幅が小さい場合には、「情報処理システムの分析または設計の業務」に当たりません(大阪高判平24・7・27労判1062号63頁(エーディーディー事件))。
③ 裁量労働制であっても、深夜業や休日労働の割増賃金はある
ここで注意が必要なのは、裁量労働制は労働時間を「みなす」だけで、残業代や休日に関する労働基準法の規制を免れるわけではないという点です。
たとえば、みなし労働時間が10時間である場合には、法定労働時間の8時間を上回る2時間については時間外労働であり、割増賃金の対象となります。
また、裁量労働制であっても、深夜業や休日労働の規制が適用されないわけではありません。深夜に労働した場合や、法定休日に労働した場合は、実際に労働した時間に基づいて、法に従ってそれぞれの割増賃金が支払われる必要があります。
① 「年俸制だから残業代は支払われない」は誤解
年俸制とは1年ごとに年間の賃金額が定められる給与体系であり、1年間の仕事の成果に従って翌年度の給与額を設定することが一般的です。
フレックスタイム制度や裁量労働制のように勤務形態を定めるものではありませんが、WEB業界でも導入されている賃金体系であり、残業代の支払いに誤解が生じやすいため、確認しておきましょう。
年俸制の場合、支給方法は、「毎月1回以上払いの原則」(労働基準法24条2項)に従い、年俸額を12分割して支払われるのが一般的です。毎月決められた額の給与を受け取るため、残業代は支払われないものと思っている方も多いかもしれません。
しかし、年俸制自体に残業代の支払いを免れさせる効果はありません。
所定労働時間を超えて労働すれば時間外労働にあたり、年俸とは別に残業代が支払われる必要があります。
② 年俸制の中に、固定残業代が含まれているケースもある
また、「年俸には1か月◯時間、△円分の残業代を含める」というように、固定残業制によってあらかじめ残業代が年俸に含まれている場合があります。
この場合も、定められた残業時間を超えて働いていれば、追加で残業代を支払ってもらうことになります
これまで、残業代について、働き方や給与体系を軸に確認してきました。
なかには、「今まで残業代は支払われない働き方だと思い込んでいたが、実は残業代を支払ってもらうことができる働き方だった」と判明した方もいるでしょう。
このように、残業代が未払いになっている場合は、会社に対して未払い残業代を請求することができます。
請求に対して会社が素直に応じてくれれば問題はありませんが、応じない場合は、残業時間を裏付ける証拠などを労働者の側で集めなければなりません。
証拠としては次のようなものがあります。
これらの証拠を集めた上で、会社と交渉を行うことになります。
というような場合は、労働問題の解決実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
ただちに残業代の有無や金額を調べ、必要な証拠集めや交渉をはじめとするその後の紛争処理についても、弁護士に一貫して任せることが可能です。
WEB業界で採用されやすいフレックスタイム制や裁量労働制などの勤務形態や年俸制などの給与体系について、「残業代は出ない」と思い込んでいた方も多いのではないでしょうか。
これらの制度でも残業代を請求できるケースがあるため、まずは自分の雇用契約書や給与明細を確認してみることが大切です。
自分のケースでは未払い残業代が発生するのか調べたいとお考えの方は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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