近年までは、時間外労働(残業)の上限は、厚生労働大臣の告示による行政基準が定められているだけでした。しかし、働き方改革の一環として、平成31年4月から法律による上限が設けられました。この規定は、長時間残業が慢性化している建設業界においても適用されるものですが、建設業界では5年間の猶予期間が設けられています。
では、建設業界では、この5年間に、会社が残業代を支給しなくてもよいのでしょうか?その答えは、「NO」です。猶予期間中に時間外労働の上限が適用されないことと、残業代支給の有無は、まったく別の問題であるためです。
本コラムでは労働時間の規定を説明したうえで、建設業界における残業代の考え方や請求方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。施工管理者や現場監督など建設業界で働く方は、ぜひ参考にしてください。
まず、労働基準法における労働時間の規定と、建設業界に特有の規定について、それぞれ解説いたします。
① 残業時間の上限
前提として、労働基準法第32条では、1日につき8時間・1週間につき40時間(法定労働時間)を超えた労働が禁止されています。
ただし会社と、労働者の代表または労働組合が協定を締結し、労働基準監督署へ届け出た場合に限り、これを超えた労働が可能となります。このことを、通称「36協定」と呼びます。
36協定で定めることのできる時間外労働(残業)の上限は、
とされています(同法第36条第4項)。
② 臨時的で特別な事情があっても、残業時間に上限はある
さらに36協定の例外として、臨時的で特別な事情がある場合に限り、時間外労働や休日労働の上限が以下の通り緩和されます(同法第36条第5項)。
ただし、この場合でも、時間外労働+休日の労働時間は、2か月〜6か月の1月平均が80時間以内でないといけません(同法第36条第6項)。
ここまでが労働時間の基本的な規定です。
施工管理者が働く建設業界でも、それ以外の業界でも、原則として同じ内容が適用されます。
建設業界を含む一部の事業については、時間外労働の上限規制が適用除外となっています(同法第139条2項)。したがって建設業界には現在のところ、改正労働基準法による残業時間の上限規制の適用がありません。
ただし、令和6年4月以降は、一般の事業と同様に建設業界にも上限規制がすべて適用されます。
唯一の例外として、災害の復旧や復興の事業に関しては、「時間外労働+休日労働が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内」とする規制は適用されません(同法第139条第1項)。
労働基準法第37条では、法定労働時間を超えて働かせた場合には、会社が割増賃金を支払う義務を定めています。この割増賃金が、いわゆる「残業代」となります。
建設業界であってもこの規定の適用は除外されないので、法定労働時間を超えて働けば残業代を支給しなければなりません。
建設業界の労働者のうち、たとえば施工管理者の場合、次のようなケースで未払いの残業代が発生している可能性があるでしょう。
実際に会社に残業代を請求するには、残業の事実を示す証拠が必要です。
証拠がなければ会社に「残業の事実はない」と言い逃れられるおそれが高いでしょう。
証拠の代表的なものとしては、タイムカードや日報、会社用パソコンのログなどが挙げられます。特に施工管理者の場合は書類作成などのデスクワークも多いので、パソコンのログは有効な証拠のひとつです。
ただし会社によっては、タイムカードや日報がない、現場にいることが多くパソコンを使わない日があるなどの理由で、これらの証拠を用意できないケースがあります。
その場合には、以下のものが証拠となり得ます。
これらの証拠が残っている場合、集めておきましょう。
またこのほかに、就業規則や雇用契約書、給与明細書など残業代計算の根拠・結果が分かる書類も必要です。
証拠収集で重要なのは、できるだけ多く集めておくことです。
ひとつでは証拠として弱いものでも、複数あれば互いが補強しあって立証できる場合があります。可能な限り、多くの証拠を集めておくのがよいでしょう。
施工管理者が働く建設業界では、残業代の支給についての誤解が多く見受けられます。
建設業界における残業時間の上限規制は令和6年3月までは猶予されていますが、残業代を支払わずに残業をさせられるわけではありません。
そもそも残業時間の上限規制の適用があるかどうかと、会社に残業代を支払う義務があるかどうかは別の問題です。
猶予されているのは残業時間の上限規制の適用であって、それを理由に残業代の支払い義務が消滅するわけではありません。
施工管理者や現場監督に対して、「管理監督者であること」を理由に残業代を一律に支給しない会社がありますが、そのような会社は、どのような人が管理監督者に該当するかについて誤解している可能性があります。
たしかに、労働基準法第41条では管理監督者について、労働時間や休憩や休日の規定を適用しないことと定められています。
しかし、管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいうのであって、「施工管理者」「現場監督」などの呼称ではなく、職務内容や責任・権限、勤務態様、待遇などの実態に即して判断されますので、管理監督者に該当する人はかなり限られます。
たとえば出退勤の自由や現場作業員の採用権限など重要な権限がなく、ほかの労働者と大差ない賃金が支払われているにすぎない場合には、「管理監督者」とはいえないでしょう。管理監督者に該当しない場合は、残業代が発生します。
長時間の残業が原因で退職した方のなかには、残業代の請求を諦めてしまわれる方も多くいます。
しかし、残業代は退職後でも請求できます。
また、給与支払日の翌日から発生する年6%(給与支払日が令和2年4月1日以降の場合は年3%)の遅延損害金は、退職して以降は年14.6%と、労働者にとって有利になります。
ただし、残業代の請求には時効があります。さかのぼって請求できる期間は、令和2年4月1日以降に支払われる分は当面の間「3年」、それ以前のものは「2年」となります。
また、退職後よりも在籍中のほうが、残業の証拠を集めやすいものです。
したがって、残業代の請求は、在職中からできるだけはやく動き出すのが得策といえます。
施工管理者など建設業界で働く方の残業代請求は、弁護士に依頼することをおすすめします。
残業代を請求するためには、証拠集めから残業代の計算、会社への請求まですべて自分で行う必要があります。法的知識が求められるうえに煩雑な作業も必要となるため、忙しく働くなかでの負担は大きいものです。
弁護士に依頼すれば法的知識をもとに会社とのやり取りを代行してくれるため、ご自身の負担が大幅に軽減されます。
労働者が自分で請求すると、まったく取り合ってもらえない場合や、減給などの不利益な取り扱いをされる場合があります。
しかし、弁護士が間に入ることで、会社の側に「深刻な法的な問題」であると認識させて、対応を行わせられる可能性が高くなります。
会社側としても、法的に問題のある不利益な取り扱いをしていることを取り沙汰されたら、トラブルに発展して会社の評判や経営状態にまで影響が生じる可能性があるために、慎重な対応を取らざるを得なくなるからです。
証拠を集めなければならないと言われても、自分の場合は何が証拠となるのか分からないという方もいらっしゃるでしょう。また、退職後である、人目が気になるなどの理由で、思うように証拠が集められないケースもあるでしょう。
弁護士に相談すると、状況に応じた具体的な証拠集めのアドバイスを受けられます。
弁護士が会社に開示請求をして証拠を集めることもできるので、証拠がなかなか集まらなくても、残業代を獲得できる可能性があります。
会社が任意の交渉に応じない場合は労働審判や裁判で残業代を請求することになります。しかし、労働審判・裁判での主張・立証を個人で行うことは困難です。
弁護士に依頼すれば、これらの活動を任せることができます。
弁護士に任せておけば、ご自身の権利を実現するべく法的手続きを進めながらも、ご自身は今の仕事や退職後の就職活動に集中することができるのです。
施工管理者など建設業界で働く方は、人手不足や工事の遅れなどが原因で長時間労働を強いられることが多々あります。残業をしたのに残業代が支払われないことは違法ですので、毅然とした対応をすべきです。
建設業界が特殊な業界といえども、ほかの業界と同様に、会社には残業をした分の残業代を支払う義務があるのです。
もし残業代が支払われていなければ、時効になってしまう前に、未払い分の残業代の請求について弁護士に相談しましょう。
建設業界の残業代請求は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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