待機児童解消に向けて保育士の確保が求められていますが、低賃金で「ブラック」のイメージが強い保育業界は、慢性的な人材不足が続いています。子どもの未来を支える重要な仕事にもかかわらず、あまりにも業務量や残業が多く、辞めてしまう保育士が後を絶ちません。
朝早くから夜遅くまでの業務や家に持ち帰っての仕事が常態化している保育業界ですが、定時後や休憩中、自宅で仕事をした場合も「労働時間」としてカウントされるのでしょうか。
このコラムでは、保育士の残業は法律でどのように考えるのか、実際の労働時間に応じて未払い残業代を請求するにはどうすればよいのかを解説します。
未就学児を預かる保育園は、教員の長時間労働が大きな社会問題になっている公立小中学校などと並び、「ブラック職場」と呼ばれることがあります。
保育士は本来、子どもの成長に携わる魅力的な職業にもかかわらず、なぜ「ブラック」といわれる事態になっているのでしょうか。保育士の仕事の状況について説明します。
国は少子化対策の一環として、全国で保育園の整備を進めており、必要とされる保育士の数も増加しています。
しかし、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(平成26年)によれば、保育士の平均賃金は年額約259万円(きまって支給する現金給与額×12か月分、10人以上規模)と非常に低く、なり手不足が深刻です。
国は、保育士の処遇改善や、有資格者の就業促進にも取り組んでいますが、保育業界の人材不足は続いています。
保育士の仕事には、長時間労働の慢性化という問題もあります。
認可保育園の開園時間は標準保育の11時間+延長時間で、午前7時台から午後7時台ぐらいまでは開園しています。
交代制での勤務が一般的ですが、人手不足に加え、事務や研修など保育業務以外の業務もあります。さらに、保護者対応や行事の準備など、全体的な業務量も多いため、定時で帰宅できないことも珍しくありません。
保育士のように子どもと接する仕事では、どこからどこまでが労働時間になるのか、判別がつきにくいことがあります。
ここでは、どんなケースが労働時間としてカウントされるのかを解説します。
保育園では、子どもの午睡時間を保育士の休憩に充てるのが一般的とされます。
しかし午睡時間中も、多くの保育士が実際には休むことができず、寝付けない子どもの世話や、保護者への連絡帳の作成、行事の打ち合わせや準備などの業務に当たっているのが実情です。
労働基準法34条1項は、労働時間が6時間超、8時間以下の場合は、少なくとも45分、8時間超の場合は少なくとも1時間、休憩時間を与えなければならないと定めています。
そして、その休憩時間は「労働から離れること」が保障されていなければなりません。
保育士が休憩中に業務に当たっている時間は休憩時間とはみなされず、労働時間としてカウントされます。
保育士の仕事は、持ち帰りの仕事の多さでも知られています。
保育園で仕事をしている間は、子どもの世話で終わってしまい、書類や製作物を家に持ち帰り、自宅で業務に当たる保育士が多いようです。
特に行事で使う道具や園児の衣装などは、主に保育士が手作りしていて、その負担の大きさが指摘されています。
家に持ち帰らなければ明らかに終わらない場合、自宅での製作や事務作業も労働時間にカウントされます。
そもそも「労働時間」とは、法律上どのように定められているのでしょうか。
「所定労働時間」と「法定労働時間」の違い、残業が発生する仕組みについて説明します。
労働時間には、「所定労働時間」と「法定労働時間」の2つがあります。
① 所定労働時間
「所定労働時間」は、いわゆる「定時」のことです。
就業規則などで決められている始業時刻から終業時刻までの労働時間を指します。
② 法定労働時間
一方、労働基準法32条は、労働時間の上限を「1日8時間、週40時間」までと定めていて、これを「法定労働時間」といいます。
「所定労働時間」は保育園などが個別に決めている労働時間であるのに対し、「法定労働時間」は法律によって定められた労働時間です。
① 8時間を超えた分の残業代が発生する
労働基準法37条は、法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合、使用者は通常賃金の25%以上の割増で残業代を支払わなければならないと定めています。
保育士が8時間以上働いた場合、保育園の定時が何時になっていても、8時間を超えた分の残業代が発生するのです。
② 持ち帰り仕事でも残業代は発生する
終業後に家に仕事を持ち帰った場合でも、保育園での労働時間と自宅での労働時間の合計が8時間を超えた場合は、残業代が発生します。
8時間を超えて働いているのに残業代が未払いだとすれば、違法の可能性があります。
③ 法定労働時間を下回る所定労働時間を定めている場合
なお、保育園が、法定労働時間を下回る所定労働時間を定めている場合、所定労働時間を超えて法定労働時間を超えない部分の残業についても、25%以上の割増こそ必須ではありませんが、保育園は保育士に残業代を払う必要があります。
たとえば、保育園が所定労働時間を7時間と定めている場合、7時間を超えて8時間を超えない部分についても、25%以上の割増なしでの残業代が発生します。
未払い残業代は、保育園側に請求することができますが、請求には「時効」があります。
令和2年3月31日以前に支払われた残業代を含む賃金請求権の時効は、2年(令和2年4月以降に支払われた賃金は3年)となります。
基本的には、残業代が発生してから2年以上経過すると、請求ができなくなるので注意が必要です。
未払い残業代を請求するためには、「残業した事実」を証明することが必要になります。
残業した時間を証拠によって特定したうえで、未払い残業代がいくらになるのかを計算して初めて請求することができるのです。
① こんな証拠を集めよう
残業の証拠になるのは、基本給や残業代がどのように計算されているかなどを示す、労働契約書や雇用通知書、実際に仕事をした時間を示すタイムカードなどが挙げられます。
② タイムカードがない場合の証拠の集め方
タイムカードがない場合、保育士本人が書いた出勤簿や業務日誌、個人的な日誌、手帳のメモなどで勤務時間を証明することも可能です。
③ 持ち帰り仕事で残業をした場合の証拠の集め方
家に持ち帰って仕事をした場合などは、園側の指示を示す着信履歴やメール、LINEでのやり取りも残業の証拠になる可能性があります。
未払い残業代がある場合、どのように請求すればよいのでしょうか。
未払い残業代を請求する際に、相談できる人、場所について見ていきましょう。
労働基準監督署は厚生労働省の出先機関で、全国に設置されています。
労働者からの相談や申告に応じて職場に立ち入り、労働基準法をはじめとする労働法規に基づいて、労働条件の確認などを行う機関です。
調査の結果、保育園に法律違反が認められた場合、労働基準監督署は園に是正の指導を行います。ただし、指導は未払いの賃金の支払を強制するものではないため、必ずしも未払い賃金を支払ってもらえるとは限りません。
未払い残業代に悩んでいるならば、労働問題に詳しい弁護士への相談も有力な選択肢のひとつです。弁護士に相談すれば、残業代請求のために必要な証拠集めなどに関しても、アドバイスしてもらえます。
また、残業代の複雑な計算をしたり、勤務中の保育園と個人で交渉するのは容易ではありません。弁護士に相談すれば、残業代の計算をしてもらったり、保育園との交渉の窓口になってもらうことも可能です。
さらに、交渉が成立せず、労働審判や労働裁判に発展した場合も、弁護士に代理人を依頼できます。
多くの保育士が人手不足の中、一日中働き、終業後も家に持ち帰って仕事をしています。
「子どものためだから仕方がない」と無償で対応している人も少なくないようですが、自宅での事務作業や製作も残業に当たり、保育園は残業代を支払う義務があります。
業務量が多く、サービス残業が続いているような場合は、ひとりで悩まず、一度上司の方と相談をしましょう。
そのうえで業務が改善されず、残業代も未払いでお困りの際は、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
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