飲食業では適切な労務管理が行われず、サービス残業が慢性化しているケースが多く見受けられます。営業時間外の業務やみなし残業制などを理由に、労働時間に応じた正しい残業代を受け取っていない方もいらっしゃるかもしれません。
長時間労働の割に給与の額が少ないと感じている場合に、雇用側の誤った解釈・運用により、本来受け取れるはずの残業代が支払われていない可能性もあり得ます。そのような状況を当たり前だと思わず、未払いの残業代はしっかり請求して受け取るべきです。そのために残業代の正しい支給ルールを知っておきましょう。
本記事では、飲食業界で働く人が知っておくべき残業代の法律の知識や残業代の計算方法、請求方法などについて解説します。
飲食店では、料理の仕込みや店内の清掃といった営業時間外の業務量が多いことや、客の入りによって業務量が大幅に変わることなどから、残業代の出ない「サービス残業」が多くなりがちです。
しかし、どのような理由があっても、労働に対する賃金を支払わないことは違法です。
まずは、飲食業における正しい残業代の支給ルールを解説します。
① 店長や責任者から指示を受けて業務を行った場合は労働時間
一部の飲食店では、開店前の準備や片付けの時間を労働時間とカウントしないケースがあるようです。
また、ランチとディナーの間の時間に片付けや清掃、仕込みをしているのに、これらの時間を休憩時間と称しているケース、まとまった休憩時間が与えられず、「適宜〇時間休憩するように」という指示しかないケースも散見されます。
しかし、これらのケースも「労働時間」とみなされる場合があります。
法的な意味の「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています。つまり、店長や責任者から指示を受けて業務を行った場合には、店の営業時間外であっても労働時間と認められます。
② 労働時間にカウントされる具体的なケース
具体的には、
なども、営業中と同じく「労働時間」とカウントされます。
また、休憩時間と称されていても、来客がないときに適宜休憩してよいとされているに過ぎないなど、
は、労働時間として扱われます(大阪地判昭56・3・24労経速1091号3頁(すし処「杉」事件))。これらの労働に対して残業代が支払われなければ違法となる可能性があります。
みなし残業制とは、一定の残業時間分の残業代をあらかじめ基本給に含めて支払う仕組みのことで、飲食店では極めて多く採用されています。「固定残業代制」とも呼ばれています。
飲食業では、みなし残業制を理由に「一切残業代は出ない」と説明されることがあります。しかし、実際の残業に対する残業代が固定残業代の金額を超えた場合には、その分を別途支給しなければなりません。
何時間残業しても固定残業代しか支払われていない場合は、未払い分の残業代を請求できる可能性があります。
飲食店の店長は、管理監督者であることを理由に残業代が支払われないケースがあります。
ここでは管理監督者に関する正しい知識を解説します。
労働基準法における「管理監督者」とは、労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的立場にある者をいいます。
管理監督者は、労働基準法41条により、労働時間や休憩、休日に関する規定は適用されません。そのため、管理監督者には残業代や休日手当を支払う必要はないのです。
しかし、肩書上の管理職となっているからといって、労基法における管理監督者にあたるというわけではありません。
管理監督者にあたるか否かは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場といえるかによって判断され、その判断には、次のような事情が考慮されています(平成20・9・9基発第0909001号)。
飲食チェーンの店長などは、残業代が支払われないにもかかわらず、業務内容や業務時間の裁量はほとんどなく、長時間労働を強いられているケースが多く見られます。
賃金を時給換算すると、結果的に他の従業員より低くなってしまうこともあります。そのようなケースでは、管理監督者とは認められないといってよいでしょう。
飲食店で管理監督者性が否定された実際の事例には、次のようなものがあります。
実際の事例からも明らかなとおり、「店長」等の肩書があっても、そのほとんどが、管理監督者にはあたらないと判断されています。
管理職であることを理由に残業代が支払われていないのであれば、弁護士に相談することをおすすめします。
残業代の計算方法について解説します。残業代は、次の式によって計算されます。
基礎時給とは、1時間あたりの賃金のことです。時給制で働いている人はその時給をあてはめます。月給制で働いている人は「月給÷1か月の平均所定労働時間」で基礎時給を算出します。ここでいう月給に家族手当や通勤手当などは含まれません。
また1か月の平均所定労働時間は
で計算できます。
「1日8時間、週40時間※」を超えて働いた部分が時間外労働となり、基礎時給を1.25倍した残業代が支払われます。
※従業員数10名未満の小規模な飲食店は、44時間
深夜(22時〜翌朝5時)の時間帯に働いた場合は深夜労働となります。基礎時給の0.25倍の賃金が支払われます。
深夜労働が時間外におよんだ場合の賃金は、基礎時給の1.5倍です。
労働基準法35条では、週1日以上または4週4日以上を法定休日とすると定められています。法定休日に働いた場合、基礎時給の1.35倍の賃金が支払われます。
なお、休日労働が8時間を超えても、割増率は35%のままです。そもそも法定休日には時間外労働という考え方が存在しないからです。
ただし、休日労働が深夜におよんだ場合は休日労働の35%と深夜労働の25%を足した60%の割増率で計算されます。
会社に対する未払い残業代の請求方法と弁護士へ相談するべき理由を解説します。
未払い残業代があることの証明は、請求する側がしなければなりません。
タイムカードや業務日報など、残業時間を証明する証拠を集めましょう。
すでに退職しているなどの理由により、証拠の収集が困難な場合でも、弁護士に相談することで証拠を取り寄せできることがほとんどです。
集めた証拠をもとに未払いの残業代を計算しましょう。
残業代の計算は複雑なので、弁護士に相談して正確な残業代を把握することをおすすめします。
未払い残業代を計算できたら、いよいよ店(会社)との交渉に入ります。
まずは請求書を内容証明郵便で送付し、支払いがなければ店と任意で交渉します。それでも誠実な対応がない場合は、労働審判や裁判へ移行するという流れです。
弁護士に依頼すれば、請求書の作成から会社との交渉まで全て任せられるので、あなたの負担が大きく軽減されます。労働審判や裁判に発展した場合も安心して任せられるでしょう。
① 在職中でも退職後でも、残業代は請求できる
未払い残業代の請求は、在職中でも請求できますが、もちろん退職後に行うことも可能です。在職中は上司や会社に言いづらいなど心情的に請求をためらう人も少なくありませんが、退職後であればこのような気遣いは不要です。
② 遅延損害金の年利は、在職中か退職後かで違う
また残業代については、支払日からの遅延損害金を請求することも可能です。
遅延損害金の年利は、在職中は3%※であるのに対し、退職後は賃金の支払いの確保等に関する法律によって14.6%と定められています。
※令和2年4月1日から令和5年3月31日までに支払日が到来した残業代の利率であり、令和2年3月以前に支払日が到来している残業代は、6%(非営利法人などでは、5%)となります。(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成29年法律第45号)4条3項、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則17条3項)
③ 残業代の請求には時効があることに注意
ただし、注意しなければならないのは、残業代の請求権には3年の消滅時効があるという点です(令和2年3月以前に支払日が到来する残業代の時効は2年(労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則2条2項))。
できるだけ早めに行動を起こすのがよいでしょう。
勤務先から「残業代は出ない」と説明されていても、法的には労働時間に応じた残業代が発生している場合があります。金銭的な損失を避けるためにも、まずは残業代の支給ルールをしっかりと把握しましょう。
未払い残業代の請求をしたい方はもちろん、自分に未払い残業代があるかどうかを調べたい方も、ベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
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