あなたの残業代は正確に支払われているでしょうか? 「毎月の残業は30時間程度だが、給与明細を見ても少ないように感じる……」と疑問を感じながらも、どうしたらよいか分からず、うやむやにしていませんか?
残業については、労働基準法で規定されています。平成31年4月から働き方改革関連法が施行され、長時間残業が厳しく規制されるようになりました。月30時間の残業は、後述する36協定を適切に締結している限り、労働基準法には抵触しませんが、未払いの場合はもちろん違法です。
この記事では、残業に関する法律の基礎知識から残業代の計算方法、残業代の請求方法について解説します。
労働基準法は、労働時間の上限を設け、時間外労働を厳しく規制しています。
まずは、労働基準法における時間外労働の定義から確認します。
① そもそも「残業」とは?
労働基準法は、労働時間の上限を、原則として「1日8時間、週40時間」と定めています。これを「法定労働時間」といいます。
この法定労働時間を超える労働のうち、休日労働以外の労働を「時間外労働」といいます。
これに対して、いわゆる「残業」とは、雇用契約で決められた労働時間(「所定労働時間」といいます。)を超えた労働全般を意味することが多く、「時間外労働」を含んだものです。
② 時間外労働に対しては、割増賃金を支払わなければならない
使用者(会社のことです)が労働者に時間外労働をさせるためには、労使間で協定(通称「36協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出をする必要があります。
また、時間外労働に対しては、通常の1.25倍の割増賃金を支払わなければなりません(時間外労働時間が月60時間を超えない場合)。
③ 法定労働時間を超えていない労働について
なお、所定労働時間を超えた労働のうち、法定労働時間を超えていない労働については、法律上の用語ではありませんが、「法内残業」あるいは「所定時間外労働」などと呼ぶことがあります。
このような法内残業については、使用者は、雇用契約上、所定労働時間を超えて働いた時間について、割増のない通常の対価を支払う義務はありますが、労働基準法上の割増賃金の支払い義務はありません(本コラムでは、法内残業、時間外労働、休日労働、深夜早朝労働への対価をあわせて「残業代」と表記します)。
36協定を締結して時間外労働をさせる場合でも、時間外労働の上限は、原則として「月45時間、年360時間」までと定められています。予想ができないほどの特別の事情がなければ、これを超えることはできません。
月30時間程度の残業であれば、この労働基準法の上限には抵触しない、ということになります。
月30時間の時間外労働であっても違法となるケースについて解説します。
労働基準法の上限(原則「月45時間、年360時間」)に抵触せず時間外労働自体は違法でなくても、残業代が全額支払われていなければ、もちろん違法です。
残業代がきちんと支払われているか、まずは残業代を正確に計算し、給与明細と照らし合わせてみましょう。
① 36協定が締結されていなければ、時間外労働自体が違法
法定労働時間(1日8時間、月40時間)を超えて労働させるためには、労使間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出をしなければなりません。
この手続きが行われていなければ、時間外労働自体が違法となります。
② 36協定を締結していても、時間外労働が無制限に許されるわけではない
36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などが定められます。
36協定さえ締結すれば時間外労働が無制限に許されるというわけではなく、時間外労働には、原則として「月45時間、年360時間」という上限が決められています。
予想ができないほどの特別の事情があって労使間で合意する場合には、この上限をさらに延長することもできますが、以下の通りの規制がありますので、これに違反した場合は違法となります。
これに違反して時間外労働をさせた使用者には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第119条)。
一見、残業代は発生していないかのように見えても、残業代を請求できる場合があります。そのようなケースについて解説します。
労働者に時間外労働をさせるには、36協定の締結と労働基準監督署への届け出が必要です。この手続きが行われていなければ、時間外労働をさせること自体が違法となります。
この場合、時間外労働をさせることが違法になるだけですので、時間外労働をしたことには変わりがありませんから、時間外労働をした分については当然、残業代を請求できます。
職場の雰囲気等によって、残業代の申請が困難な状況で勤務されている方も多いかと思われます。
サービス残業とは、そのような状況下で、残業代の申請をすることができないまま行う残業のことです。タイムカードを切らせた後に残業させる、朝礼のために定時より前に出勤させるなどのケースがあります。
このようなサービス残業であっても、残業をしていることに変わりはありませんから、残業代の請求ができます。
固定残業手当とは、労働者があらかじめ残業することを想定して、固定給的に支払われる残業代のことで、「みなし残業代」とも呼ばれます。
想定した残業代を超えた場合には、当然、超過分の残業代を請求できます。
しかし、実際には手当を支払っていることをいいことに、超過分の残業代が支払われないケースが少なくありません。
「管理監督者」に対しては、残業代の支払いは必要ありません(労働基準法41条2号)。そのため、「店長」や「マネジャー」など、管理職になったとたんに残業代が出なくなり、仕事内容は以前と変わらないのに給料が下がることがあります。
しかし、実質的には経営への関与がなかったり、出退勤の自由や、管理職に相応しい待遇がない、いわゆる「名ばかり管理職」にすぎないケースが多いです。
このようなケースでは、残業代を請求できます。
名ばかり管理職の残業代については、詳しくはこちらのコラムで解説しています。
労働者にタイムカードを切らせて自宅作業を強要させるケースなどが見受けられます。
自宅での作業が労働時間と認められれば、残業代を請求できます。
裁量労働制とは、労働者本人の裁量で労働時間や仕事の進め方を決定できる制度ですが、導入するには労使協定の締結や労使委員会の決議などの手続きが必要です。
この手続きを経ていなければ、実労働時間に応じて残業代を請求することができます。
上記のいずれかに当てはまる場合は、残業代を請求できる可能性がありますので、弁護士に相談しましょう。
残業代の計算方法について、簡単に解説します。
残業代は、次の計算式によって計算されます。
基礎時給とは、1時間当たりの賃金のことで、次の計算式で求められます。
例として、以下の労働条件で働いた場合の残業代を計算してみましょう。
① 基礎時給を計算する
まず、1年間の累積の所定労働時間は、
となるため、月平均所定労働時間は、
となります。そのため、基礎時給は、
です。
② 基礎時給をもとに、月間・年間の残業代を計算する
したがって、深夜・休日労働がなかった場合の残業代は、1か月あたり、
と計算できます。
残業代が仮に過去2年間支払われていないということであれば、
となり、残業代の総額は非常に高額になります。
ここでは残業代の計算方法を簡単に説明しましたが、実際の残業代の計算は複雑です。
詳しい金額は弁護士に相談して計算することをおすすめします。
未払い残業代の請求は、弁護士に依頼するのが賢明です。
弁護士に依頼するべき理由を見ていきましょう。
複雑な残業代の計算をはじめ、書面の作成から会社との交渉まですべて任せられるので、労働者の負担を大幅に軽減できるでしょう。
残業代請求を弁護士が進めることで、会社がむげな対応をしないことも期待できます。
残業代請求にはどのような証拠が有効なのか、また、請求する場合の今後の見通しについて弁護士からアドバイスをもらえます。
会社と交渉が成立しない場合には、労働審判や民事裁判を起こすことになります。
裁判となれば専門知識が必要ですし、相手が弁護士を立ててきた場合、労働者が1人で立ち向かうのは容易ではありません。
弁護士に依頼すれば、書面の作成から裁判のサポートまで行ってくれますので、心強いでしょう。
なお、残業代の請求には2年の消滅時効があるので(令和2年4月1日以降に支払期日が到来する残業代は当面3年(労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則2条2項))、できる限り早めに弁護士に相談しましょう。
月30時間の残業は、労災認定が下りるほどの長時間労働とはいえません。
しかし、残業代が正しく支払われていない場合には、労働基準法違反の可能性があります。
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