厚生労働省のサイト「トラック運転者の仕事を知ってみよう」によると、トラック輸送は物流の要ですが、運送業界は人材不足に悩まされています。有効求人倍率は令和4年9月に2.12で、全職業平均の1.2を上回っています。
また、運送業に従事する人はほかの産業と比較して労働者の年齢層が高く、若手・女性といった層の労働者の割合が低い傾向があります。
このような問題の原因として、運送業がほかの職種に比べて労働時間が長く、労働環境が過酷であるということがあげられます。
令和6年4月、この運送業の長時間労働問題を改善するため、時間外労働の上限規制が厳しくなりました。
このコラムでは、残業代の基本を解説しつつ、この規制についても弁護士が解説します。
(出典:厚生労働省サイト「トラック運転者の仕事を知ってみよう」https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work)
運送業は、ほかの職種と比較すると特に残業代の未払い問題が生じやすい職種と言えるでしょう。では、なぜ残業代の未払いが発生してしまうのでしょうか。
そこには「労働時間や給与に関する制度に誤解がある」という問題が垣間見えます。
運送業は「働けば働いた分だけ稼ぐことができる」というイメージが強い職種です。
労働契約に「歩合制」を採用している運送業者も多いですが、雇用契約を結んでいる場合は、完全歩合制、いわゆる「フルコミッション」は労働基準法に違反します。
労働基準法第27条は、労働者に対して労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならないという「出来高払い制の保障給」を定めています。
つまり、たとえ成果がでていなかったとしても、一定額の固定給は支払う必要があるのです。
運送業者のなかには「固定残業代」を採用している会社も少なくありません。
固定残業代とは、残業の有無に関わらず、一定時間の残業代を固定で支払う制度ですが、いくらでも残業させて良いと誤解している会社が目立ちます。
固定残業代を支払っていても、固定残業代が想定する残業時間を超えて働いた場合には、超えた時間分の残業代が支払われなければなりません。
運送業界には「労働時間」の考え方に対して、特殊な視点や慣例が存在しています。
たとえば、中長距離のトラックドライバーが取引先の倉庫で荷物を積み下ろししている時間や、取引先が荷物を用意している時間などの待機時間について、労働時間と評価しない傾向があります。そのため、未払いが発生しているのです。
以下で詳しく解説します。
「所定時間外労働」とは、会社が定めた労働時間(所定労働時間)を超えた労働のことです。会社が就業規則において「午前◯時に始業し、午後◯時に終業する」と独自に定めた時間が所定労働時間になります。
始業時間よりも早く業務を開始した、終業時間を越えて労働に従事したといったケースでは、超過した時間分が「残業」です。
「法定時間外労働」とは、労働基準法が定めている労働時間の上限を超える労働時間です。
労働基準法第32条は、休憩時間を除き1日につき8時間、1週間につき40時間を越えて労働させてはならない旨を定めています。これを「法定労働時間」と言います。
所定労働時間が法定労働時間を上回っている場合は、たとえ所定労働時間にしたがって労働した場合でも法定時間外労働が発生することになります。
なお、法定労働時間を越えて会社が労働をさせるためには、労使間において協定を結んだうえで労働基準監督署に届け出をしなくてはなりません。
労働基準法第36条の規定に従った手続きであるため、これを「36(サブロク)協定」と呼びます。
36協定を結べば法定時間外労働が可能になりますが「無制限で法定時間外労働をさせても良い」というわけではありません。
労働基準法の改正によって、法定時間外労働は原則として月45時間、年360時間の上限規制が設けられています(労働基準法第36条3項、4項)。
また、臨時的な特別の事情があり、労使が合意した場合でも、年720時間、休日労働との合計が複数月平均80時間以内、月100時間未満、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月まで、といった条件を守らなければいけません(労働基準法第36条5項、6項2号、3号)。
「自動車運転の業務」については、上限規制の適用が猶予されていましたが、令和6年4月1日以降は適用されるようになりました。
特別条項付き36協定を結んでいる場合でも、時間外労働時間の上限は年960時間になります。
なお、この場合の時間外労働と休日労働との合計が複数月平均80時間以内、月100時間未満、時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月まで、とする各規制は令和6年(2024年) 4月1日以降も適用されません。
法定時間外労働に対しては、労働基準法第37条の定めに従って割増賃金を支払わなければなりません。
1日8時間、週40時間を越えた労働には、1時間あたりの賃金に2割5分の割増率を乗じた賃金が支払われなくてはなりません。
さらに、法定時間外労働が月60時間を越えた場合は、超えた時間について、5割以上の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
中小企業においては猶予期間がもたれていましたが、令和5年(2023年)4月1日より適用されます。
運送業、特にトラックドライバーの方は、会社が「労働時間とは評価しない」という時間についても、法的には労働時間と評価される可能性があることに注目しましょう。
労働基準法が定める「労働時間」にあたるのかの判断は、労働者が「使用者の指揮命令下にある状態」に置かれているのかが基準です。
指揮命令下にある状態とは、具体的な作業に従事している時間だけでなく、指示命令の有無、時間的・場所的な拘束があるといった点も考慮されます。
次のような作業に従事していれば労働時間にあたるといえるでしょう
トラックドライバーの業務のなかには「荷待ち時間」が発生します。
取引先の倉庫に向かったところ荷物を用意している最中だったので、できあがりを待っていた、別の路線便が到着し荷降ろし・仕分けするのを待って出発した、といったケースはめずらしくないでしょう。
荷待ち時間でも、使用者の指揮命令下にある状態であれば労働時間になります。
業務から完全に解放され、会社やトラックから離れて何の制限もなく自由に行動できる状態でもない限りは、荷待ち時間も労働時間になる可能性が高いでしょう。
道路を使って荷物を輸送している限り、渋滞に巻き込まれる事態はつきものです。
通常要する時間を超えてしまい到着が遅延した場合でも、超過時間を労働時間とみなさないのは違法です。渋滞に巻き込まれたとしても、運行に要した時間のすべてが労働時間として評価されます。
残業代の未払いが発生している可能性がある場合は、必要な証拠をそろえて請求の準備を進めましょう。
残業代を計算するためには、実際の残業時間を正確に算出する必要があります。
次のようなものが証拠となるでしょう。
ここで挙げた記録のほとんどが、運行終了時に会社へ提出するものです。
特に、運行に関する記録は運行管理者が管理しているため、ドライバー側が入手するのは難しいでしょう。
そのため、会社側に提出する前に最新のものからコピーを取って保管しておくことをおすすめします。
残業代の計算には、1時間あたりの賃金を算出する必要があります。
次のような情報が証拠資料となり得ますので保管しておきましょう。
「残業代が発生しているはずなのに支払われていなかった」という事実に気がついたら、弁護士への相談をおすすめします。
残業代が未払いになっていることをドライバー個人が会社に訴えても、会社側が交渉に応じてくれない可能性が高いでしょう。社内の規則や慣例を盾にして支払いを拒まれるばかりか、不当な扱いを受けてしまうおそれもあります。
弁護士に相談すれば、残業代が発生していることを法律の定めに基づいて主張できます。また、会社との交渉を弁護士に任せることで、大ごとにしたくないと考える会社側が交渉に応じることが期待できるでしょう。
法律の定めに従って未払い分の残業代を請求しても、会社が素直に支払ってくれるとは限りません。会社側が支払いに応じない場合は、労働審判や訴訟といった法的手続きによって請求することになります。
裁判所を利用する際には、書面の作成や証拠の提出が必要になります。
さらに、ドライバーの仕事を続けているのであれば、手続きにかかる手間や裁判所への出頭も大きな負担に感じるでしょう。
また、証拠が集められない場合や会社側が提示を拒んでいるといったケースでは、泣き寝入りするしかないと思うかもしれませんが、裁判所を介して証拠の提示を求める「証拠保全手続き」を申し立てることで、証拠を確保できる可能性があります。
弁護士に依頼すればこれらの手続きをすべて任せることができるので、手間や負担を大幅に軽減しながら残業代請求ができるでしょう。
運送業界は、長時間労働に加えて残業代の未払いトラブルが起きやすい職種です。
給料明細をみて「残業手当が少ないのではないか?」などの疑問を感じたら、自分ひとりで悩むのではなく労働問題の解決実績を豊富にもつ弁護士に相談しましょう。
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