昨今、働き方改革が推進されるなか、労働者のワーク・ライフ・バランスを向上させる目的で「在宅勤務」を採用する企業が増えています。
このような状況において、「在宅勤務に対する残業代の未払い」というトラブルが新たに発生しています。勤務先から「在宅勤務は残業代の対象外」と言われてしまい、大幅に収入が減って困惑している方も少なくありません。
このコラムでは、在宅勤務と残業代の関係や、残業代の請求方法も紹介していきます。
従来の勤務体系では、オフィスや職場に出勤して働くのが当然でした。
しかし、インターネットが広く普及した現代社会においては、パソコンなどの端末とインターネット環境さえ整っていれば、オフィス外でも問題なく仕事ができる時代です。
在宅勤務のほか、サテライトオフィス勤務やモバイルワークといった「テレワーク」が浸透したことで、従来的な働き方は大きく姿を変えました。
しかし、このような働き方をしていても、労働者と会社の関係が労働基準法によって規制を受けることに変わりはなく、たとえ在宅勤務であっても、労働時間や残業時間の考え方はオフィス勤務と同じです。
つまり、在宅勤務であることが理由で「残業代の支給対象外になる」とするのは明確な誤りです。在宅勤務が採用されている場合でも、残業をすれば、オフィス勤務と同じように残業代が支給されるのが原則です。
ただし、事業場外労働制や裁量労働制など「みなし労働時間制」で働いている場合には、残業代が出ない場合もあります。
まずはご自身がどのような労働時間制のもとで働いているのか確認しましょう。
会社がみなし労働時間制を導入している場合には、通常は就業規則にその旨明記されています。
また、みなし労働時間制をとっていない場合でも、雇用契約書等に「○○時間の残業代として毎月〇〇円支払う」などと書かれている場合には、その時間分の残業代については別途請求できない可能性があります(このようなあらかじめ定められた残業代のことを「固定残業代」といいます。)。
在宅勤務であるという理由だけで残業代を支給しないことは、労働基準法違反です。
残業代が発生している可能性があれば、次のようなアクションを起こしましょう。
まずは就業規則を確認しましょう。
就業規則には、自分がどのような制度のもとに働いているのか、始業時刻・終業時刻などが明記されています。
なお、みなし労働時間制がとられていた場合には、始業から終業までの「所定労働時間分」の労働があったとみなすのが原則ですが、もし所定労働時間そのものが法定労働時間の8時間を超えている場合は、8時間を超えた部分は残業代の支給対象です。
労働時間は、原則として1日8時間かつ1週40時間を超えてはなりません(労働基準法第32条)。また、休日を、原則として週1回以上与えなければなりません(同法第35条)。
これらの大原則に違反していた場合、残業代が発生している可能性があります。
残業代の請求に当たっては、実際にどれだけの労働をしたのか(これを「実労働時間」といいます。)を明らかにする必要があります。実労働時間の証明は、請求者である労働者がする必要があります。
そこで、実労働時間に関する証拠の収集が重要になります。
具体的には次のようなものが実労働時間に関する証拠となるでしょう。
このほかにも、始業と終業の時刻を示すさまざまなものが証拠となり得ます。
なお、データ形式で保存されるものは消去や上書きの危険があるので、できる限り紙ベースでの保存をおすすめします。
以下では、これら3つの方法について解説していきます。
1つ目の方法は、社内の労務関係を担当する部署や、労働相談を受け付ける窓口に相談することです。労働者の声として会社に訴えることで、未払いとなっている残業代の支払いや違法な残業の解消が実現できる可能性があります。
労働関係の法令について、小規模な事業所では勘違いをしているケースも少なくありません。特に悪意もなく残業代が未払いとなっている場合は、法にのっとった対応を求めるだけでも、解決できる可能性があるでしょう。
残業代の未払いは労働基準法第37条に違反します。
管轄の労働基準監督署に相談することで会社に対して是正が勧告されれば、未払いとなっている残業代が支払われる可能性があるでしょう。
ただし、労働基準監督署は労働関係の法令違反について指導・監督する機関です。
会社への指導・勧告をしてくれることはありますが、労働者に代わって請求してくれるわけでも、裁判所のように支払いを命じてくれるわけではないと心得ておく必要があります。
在宅勤務を理由に残業代が未払いになっている場合には、弁護士への相談が最もおすすめです。
弁護士に相談すれば、次のようなサポートが得られます。
在宅勤務を理由とした残業代の未払いトラブルは、会社側がみなし労働時間制の解釈を誤っているケースや、制度を悪用しているケースが多く、労働者個人での解決は簡単ではないでしょう。
労働問題の解決実績が高い弁護士のサポートを得られれば、法令の解釈などを見誤ることもなく、正確な判断に基づいた残業代の請求が可能です。
労働者個人が会社に訴えても、相手にしてもらえないケースも少なくありません。
しかし、弁護士が相手となると、会社側も真剣に対応をせざるを得ません。
弁護士のサポートがあれば、よりスムーズで確実な解決が期待できます。
弁護士による交渉や労働基準監督署の是正勧告などに会社側が応じない場合には、「労働審判」や「訴訟」などの裁判手続を利用することになります。
まずは、「労働審判」の申立ての方法があります。
労働審判は、裁判官1名と労働関係の専門知識をもつ審判員2名(会社側と労働者側それぞれ1名ずつ)による労働審判委員会が主催します。
原則3回以内の審理で解決を図ります。労働審判は、訴訟と比較すると迅速な解決が期待できます。
しかし、労働審判で結論が出た場合であっても、一方の当事者から異議申立てがされれば、自動的に「訴訟」に移行します。
労働審判は、あくまで労働審判委員会が関与のもと、迅速に解決する手続ですので、会社側にもある程度譲歩する可能性があれば、迅速な残業代の支払いの観点から効果的です。
一方で、詳細な事実認定を要する争点があったり、双方に譲歩の余地が少なく、訴訟に移行する可能性が高いと考えられるような場合には、最初から訴訟の手続を利用することも考えられるでしょう。
残業代が発生していた場合でも、一定の期間を経過すると、残業代を請求する権利が失われます。これを消滅時効といいます。
残業代請求に期限があることは、絶対に覚えておく必要があります。
従来、未払残業代の請求権の時効は、残業代が支払われるべき日から2年でしたが、2020年4月に改正労働基準法が施行され、時効は5年(当面の間は経過処置として3年)に改正されました。
もっとも、時効を一時的に止める方法もあります。
たとえば、裁判外で会社に対し残業代を請求した場合は、請求をした時から6か月の間は、時効にはなりません(民法第150条第1項)。
この方法の場合、会社に残業代を請求した証拠を残すために、内容証明郵便を利用することが一般的です。
また、会社が、未払いの残業代の存在を認めた場合は、その時点から新たに時効の期間を起算します(民法第152条第2項)。
さらに、労働審判の申立てや訴訟を提起した場合、その手続の間は、時効にはなりません(民法第147条第1項第1号)。
弁護士に依頼すれば、ご自身の残業代について時効になっているのかどうか確認することができます。また、どの方法を採ることが残業代を請求する上でベストであるのか判断することが可能です。
未払いの残業代があるかもしれないと思った場合には、時効になる前に、すぐに行動を起こしましょう。
在宅勤務で働いている場合であっても、オフィス勤務と比べて冷遇されることを受け入れる必要はありません。在宅勤務もオフィス勤務も等しく労働基準法の適用を受けるので、時間外労働に対しては、残業代が発生します。
「会社からの命令で在宅勤務をしているのに、残業代が支給されない」「未払い残業代が生じているはずだが、請求の方法がわからない」などのお悩みがあれば、労働トラブルの解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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