近年は、会社員の働き方にも大きな変化が生じました。これまであまり定着していなかったテレワーク・リモートワークを新たに導入する大企業が増えており、令和2年7月には菓子メーカー大手のカルビーによる「原則テレワーク制」という大胆な改革が話題になったところです。
テレワークなどの在宅勤務は、新たな働き方として注目される一方で、会社側の管理が行き届かない可能性があるだけでなく、労働者としても「残業代は支払われるのか?」という新たな疑問が生じています。
本コラムでは、テレワークによって発生した残業代の考え方や請求方法について解説します。
多くの方が「テレワーク=在宅勤務」だと認識しているようですが、オフィスに縛られない働き方はその他にもあります。
多くの方がイメージしている自宅での在宅勤務だけでなく、移動中や顧客先でモバイル端末を利用して働く「モバイルワーク」や、本来の勤務先とは別のリモート勤務用に整備されたオフィスなどで勤務する「サテライトオフィス勤務」もテレワークと呼ばれます。
厚生労働省は「テレワーク総合ポータルサイト」を開設して、普及活動に努めていますが、
労働時間の正確な把握や労働者の能力評価が難しい、セキュリティー面に不安があるなど、さまざまな問題が導入の妨げになっているのも事実です。
もちろん、使用者としては労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法など、各種の労働関係法令も順守する必要もあり、さらに導入を難しくする要因になっています。
「テレワークには残業代が発生しない」という認識をもっている会社も少なくありません。
実際に「残業代は発生しない」と言い渡されている労働者の方もいるようですが、テレワークであっても法律に従って残業代が発生します。
テレワークを導入している会社では、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ定めておいた時間の労働があったものとみなす「みなし労働時間制」が多数採用されています。
事業場外で勤務する外回りの営業職など実際の勤務時間が把握しにくい職種で採用されることが多い制度で、みなし労働時間を含めた労働時間が1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えていれば、その分の労働時間については残業代が発生します。
フレックスタイム制では、出退勤の時間が労働者の裁量に任されているという性質上、残業代の支給対象となる労働時間を1日単位で計算できません。
が清算期間内の所定労働時間となり、これを超えた労働が残業代支給の対象となります。
みなし労働時間制のひとつとして「裁量労働制」があります。
通常のみなし労働時間制では事業場外での勤務時間等がみなし労働時間の対象とされているのに対し、裁量労働制では出退勤や始業・終業時間などのすべてが労働者個人の裁量で決定可能です。
ただし、裁量労働制を採用できるのは研究職やマスコミなど一部の職種に限られています。
裁量労働制では時間外労働の概念がないため原則として残業代は発生しません。
しかし、特例として、深夜割増賃金や休日手当は発生します。
テレワークといえども「一切の残業代が発生しない」というわけではないのです。
テレワークであることを理由に残業代が支払われない場合は、どのように対応すればよいのでしょうか?
まずは社内のコンプライアンス担当部署など、適正・適法な業務執行を担当する部署の窓口に相談しましょう。労働組合に相談して、組合経由で改善を求めるのも有効です。
相談だけでは改善されなければ、未払い残業代の請求書を提出することも検討しましょう。
社内の担当窓口や労働組合を通じての相談でも改善が認められない場合は、労働基準監督署への相談も検討しましょう。相談の際には、詳しい状況を説明できるように残業代が発生していることを証明する証拠の持参が必要です。
ただし、労働基準監督署は会社に対して法律違反の状態を改善するよう指導することができますが、「何円の残業代を支払いなさい」という強制力を持った個別的な命令を下す権限はありません。
会社が労働基準監督署の指導に従わないおそれもあるので、労働基準監督署がすべてを解決できるというわけではないと心得ておくべきです。
会社が労働基準監督署からの指導にも従わない場合は、裁判所への「労働審判」の申立てを検討しましょう。
労働審判とは、裁判所の審判官・審判員を交えて会社と話し合いをおこない、会社と労働者の間で合意が得られれば和解し、合意が得られなければ民事訴訟の判決と同じ効力をもつ審判が下される手続きです。
労働審判の結果に納得できない場合は、2週間以内に異議を申し立てることで通常の民事裁判に移行します。また、労働審判を経ずに最初から民事裁判を提起することもできます。
裁判では裁判官が当事者双方の主張に基づき、証拠を精査したうえで判決を下します。
以上の通り、残業代が支払われない際の対処法を説明してきましたが、未払い残業代の請求には、弁護士のサポートを得るのが賢明です。
弁護士を代理人として会社との交渉を任せれば、証拠をもとに残業代を計算してもらえるので適正な残業代が支払われる可能性が高まりますし、審判や裁判になった場合も、書面作成や申立ての手続きを任せたり、状況に応じて適切なアドバイスを受けたりすることができるので安心です。
テレワーク勤務をしていると、残業代の未払い問題以外にも「これはどういう扱いになるのだろうか?」と疑問が生じることがあるでしょう。
テレワーク勤務で疑問を感じたり、トラブルに発展しそうになったりした場合は、以下のポイントをまずは確認しましょう。
テレワークの大きな問題として、労働時間の管理が難しいという点があります。
始業・終業・休憩のタイミング、実際の労働時間を会社がどのように把握するのか、時間外労働・休日労働をする際の報告方法などについて取り決めがあるのかを確認しておきましょう。
業務上の必要があり残業をしていたのに残業時間として認められない、会社が労働時間管理をせずに労働時間を一律で取り扱うなどの行為があれば、違法となる場合があります。
新たにテレワークを導入した会社では、就業規則などの整備が不十分であるケースも目立ちます。
就業規則にテレワークに関する事項が明記されていない場合は、会社はテレワークを命じる根拠がないことになりかねませんし、テレワークの際の労働条件を会社に出勤する場合と異なるものとすることもできません。
労働場所が明示されているかを含め、就業規則などの規定を確認しましょう。
テレワークは、情報通信技術を活用した新しい働き方です。
つまり、インターネットなどの利用はテレワークの屋台骨ともいえるものですが、在宅勤務の場合は通信費を誰が負担するのかという点も確認しておくべきでしょう。
もし労働者の自己負担となる場合は、就業規則にその旨が明記されている必要があります。
これに違反すると、労働基準法第89条5号違反となり、会社に30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
近年、テレワークを新たに導入した会社のなかには、「テレワークには残業代が支払われない」と労働者に伝えているところも少なくありません。
テレワークでも残業代は発生する場合があるので、未払い残業代が発生していると思われる場合はもちろん、労働時間の管理や通信費の費用負担などについて取り決めがない場合は、弁護士に相談してサポートを求めましょう。
テレワークにおける未払い残業代の請求は、労働トラブルの解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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