インターネット通販などのEC事業の発展、ネットオークションやフリマアプリの普及といった状況に後押しされて、個人から個人に向けた荷物の取り扱い個数は増加の一途をたどっています。
さらに配達時間の指定、不在配達の対応など、宅配ドライバーの負担は増すばかりです。このような現状があるにもかかわらず、宅配ドライバー業界は深刻な人手不足に陥り、長時間労働が常態化・深刻化しているようです。
現在、宅配ドライバーとして勤務している方々のなかには、過酷な長時間労働を強いられているにもかかわらず、十分な残業代も支払ってもらえていないという不満を抱えている方もいらっしゃるでしょう。
このコラムでは、宅配ドライバー業と残業時間の関係や、未払いとなった残業代を請求する方法について、弁護士が解説します。
宅配ドライバーは長時間の残業を強いられやすい職業ですが、その実情に見合った十分な残業代を支払っていない使用者がいます。会社から当該業務は「残業代の支給対象外」と言い渡され、反論もできずあきらめてしまっている方も少なくないでしょう。
まずは、宅配ドライバー業(配送業)で残業代が発生する条件や個別のケースについてみていきましょう。
宅配ドライバー業でも、労働時間の規定は他の職業と同様です。
労働基準法第32条の規定により、原則として「1日8時間・1週40時間」の法定労働時間を超えて労働に従事することは認められていません。
これを超えた場合は時間外労働、つまり「残業」扱いとなり、割増賃金の適用を受けた残業代の支払い対象となります。
ただし、残業代さえ支払っていれば何時間でも残業が認められるわけではありません。
法定労働時間を超えた労働が認められるためには、労使間で労働基準法36条に基づく「36協定」を締結し、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、宅配ドライバー業は「貨物自動車運送事業」に含まれるため、時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、厚生労働大臣告示の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、いわゆる「改善基準告示」が令和6年4月から適用されました。
改善基準告示によると、ドライバーの拘束時間は1日13時間までであり、これを延長する場合でも最長16時間までです。さらに、15時間を超える回数は1週間につき2回が上限となっています。
宅配ドライバー業では、配達・集荷の個数によって報酬を決定する「歩合給」が採用されているケースも少なくありません。
そして、歩合給に対して「労働時間にかかわらず成果のみを評価する」と勘違いしている使用者・労働者も多いです。
残業代は「時間外労働に対する報酬」であり、歩合給だからといって時間外労働に対する報酬が発生しないわけではありません。
つまり、歩合給でも残業をすれば雇用主から残業代が支払われなければならないのです。
あらかじめ一定時間分の残業代を含めて給与が支払われる「みなし残業時間制」が採用されているケースでも、みなし残業時間を超えた場合は残業代が発生します。
次のようなケースでは、みなし残業時間制が無効となる可能性があります。
宅配ドライバーのなかには、会社と請負契約を結び、下請けの運送会社や個人の運送業者として勤務している方も多いはずです。
いわゆる「傭車(ようしゃ)」と呼ばれる形態でも、次のような事情があり労働基準法上の労働者と認められる場合には、残業代が発生する可能性があります。
宅配ドライバーの業務における特有の問題についてもみていきましょう。
宅配ドライバーには、荷主の会社や指定された場所で積み込みを待つ、いわゆる「荷待ち時間」の発生がつきものです。
荷待ち時間は配送業務に従事していないので、会社から「運転日報には『休憩』と記載するように」と指示を受けているドライバーも少なくないでしょう。
実際に業務にあたっていない場合は休憩時間とみなすことに問題はありませんが、荷待ち時間でもすぐに積み込みができるように待機の指示を受けているケースでは、使用者の指揮命令下にあるとみなされるので労働時間にあたります。
業務にあたっているにもかかわらず休憩時間として扱うのは違法行為です。
配送業務に従事するにあたって道路を利用する以上、渋滞は避けられません。
長い渋滞に巻き込まれてしまうと、その時間は仕事をしていないように評価されてしまうこともあるでしょう。
渋滞に巻き込まれている時間も、荷待ち時間と同じで使用者の指揮命令下にあります。
配送業務の途中なので、渋滞時間も労働時間に含まれるのは当然です。
宅配ドライバー業で未払い残業代を請求するために必要なものと請求手続きの流れについてみていきましょう。
未払い残業代の請求には、残業時間が存在している事実を証明する証拠と、正確な残業代を算出するための証拠が必要です。
宅配ドライバー業では、次のようなものが証拠となるでしょう。
① 正確な残業代の計算
未払い残業代を請求するには、まず「正確な残業代の計算」が必要です。
基本給から1時間あたりの給与を割り出し、基本的には残業時間と割増率1.25を乗じることで残業代が算出できますが、1時間あたりの給与の算出方法や割増率にも詳細なルールがあります。
② 会社への請求
正確な残業代が算出できたら、次は「会社への請求」です。
社内の相談窓口に相談のうえで直接交渉する、または支払いを求める旨の通知書を内容証明で送付しましょう。
内容証明を使えば、請求があった・なかったというトラブルを回避できます。
また、時効が迫っている場合は時効を止めるための証拠としても活用できるでしょう。
会社との話し合いでは、決定事項を必ず書面に書き残して証拠を保全すべきです。
会社が支払いを拒んだとしても、必ず拒む理由が記載された文書の発行を求めましょう。
③ 交渉で解決しない場合には、法的手続きの検討を
交渉によっても支払いが得られなかった場合は、裁判所に労働審判・裁判を申し立てることになります。
会社が未払い残業代の支払いに応じてくれない場合は、専門家である弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
宅配ドライバー業の未払い残業代を請求するには、その前提として、法律上の「残業が存在すること」と「正確な残業代の算出ができること」が必須です。
弁護士に依頼すれば、残業が存在するのかを法的な立場から判断し、必要な証拠集めをサポートしてくれます。
また、正確な残業代を算出するには、労働基準法の定めも熟知しておく必要があるので、弁護士に依頼することでより正確な残業代を算出することが可能です。
会社に支払いを求める旨の通知書や決定事項の覚書、裁判所への提出書類の作成など、書類作成のサポートも依頼できます。必要であれば、代理人として会社との直接交渉を弁護士に依頼することも可能なので、非常に心強い存在となるでしょう。
未払い残業代には時効があり、時効期間を過ぎてしまうと請求しても支払ってもらえなくなるおそれがあります。
時効は3年です。時効が迫っている未払い残業代があれば早急にアクションを起こす必要があります。
スムーズな準備と請求がかなうので、時間的な余裕がない場合は弁護士への依頼がおすすめです。
宅配ドライバー業は、顧客の要望を第一に業務を進めるあまりに長時間労働が常態化しています。しかも、荷待ちや渋滞などを理由に「働いているのに労働時間に算入してもらえない」といった行為も横行しており、正規の給与や残業代が支払われていないケースも珍しくありません。
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