令和元年10月、有名なアニメ映画などを手掛けてきたアニメ制作会社の社員が「裁量労働制が違法に適用され、残業代が支払われなかった」として会社を提訴しました。
確かに効率的で自由な働き方が求められる現代において、裁量労働制は時代の流れを反映した制度として注目されています。
しかし、会社側が制度を悪用するケースもあり、残業代を支払わないことの根拠としている事例も目立つようになりました。多くの労働者が「裁量労働制だから」と本来もらえるはずの残業代が支払われず、未払い賃金が発生する事態も確認されています。
本コラムでは「裁量労働制」をテーマに、制度の詳しい内容をチェックしながら、裁量労働制が悪用されて未払い賃金が発生している場合の対処法について弁護士が解説します。
裁量労働制とは、それぞれの労働者が能力を発揮して効率的にはたらき、その成果を正しく評価することを目的とした制度です。
特に賃金が「実際に業務に従事した時間」ではなく、「あらかじめ決められたみなし時間」に応じて決定される点が特徴です。
たとえば、みなし時間が1日8時間であれば、実際には5時間しか働いていなくても、また12時間の労働になってしまったとしても、処理上の労働時間は8時間とみなされます。
労働時間の管理が労働者に委ねられるため「◯時から◯時まで働く」といった勤務時間帯や「◯時までに出社しなければならない」といった出退勤時間を会社から指示されることもありません。
「裁量労働制を採用したい」と会社側が望んだ場合、会社は過半数組合または労働者の過半数代表者と労使協定を結び所轄の労働基準監督署長に届け出ること等の労働基準法上要求される手続を経ることで導入できます。
適用には条件が設けられており、従事する業務内容によって「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つに分けられます。
① 専門業務型裁量労働制
業務の性質から、業務遂行の手段や方法、時間配分などを労働者の裁量に委ねるのが適切な職業に限って適用されます。19の業務が対象で、
などがあります。
② 企画業務型裁量労働制
本社など事業の運営において重要な決定がおこなわれる場所で、企画・立案・調査・分析といった業務を担う労働者に限定して適用されます。
労使委員会の設置、所管庁への決議内容の届出など、専門業務型裁量労働制よりも厳格な要件が設けられています。
裁量労働制では、通常の勤務制度と比べて休日出勤・休憩時間の扱いに注意が必要です。
裁量労働制では、業務遂行の方法や時間配分を労働者に委ねているため、業務の取り組みや時間配分、休日のとり方の決定権は原則的に労働者側にあります。
ただし、休日のとり方については勤務日や休日は会社の就業規則に準じるか、別途規定する必要があります。
また、あくまでも労働基準法に準じる制度のため、休日労働や深夜労働に対する割増賃金の規定が適用される点も要注意です。
それらについては、実労働時間で個別に計算しなければなりません。
休憩時間についても労働基準法に準じるため、一定の労働時間を超過した場合は休憩時間が必要です。一般の労働とは違い、みなし労働時間が6~8時間以内の場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなくてはなりません。
そのため、みなし労働時間が8時間の労働者の実働時間が6時間であっても1時間の休憩をとることができます。
また、ほかの業務に従事する労働者と同じ時間帯に一斉休憩をとるのが難しい場合は、従業員との間で協議して協定を結び、休憩時間を定めるのが一般的です。
次に裁量労働制で働いている労働者に生じやすい問題点や対応方法を確認していきます。
裁量労働制は「無制限で働かせ放題」の制度ではありません。
ところが、制度の趣旨を理解していない、またはこれを悪用する事業者も少なくないのが実情です。
みなし時間を大幅に超えて働いている、あるいは長時間労働が常態化しているといったケースは、裁量労働制を採用している多くの現場でみられる問題のひとつです。
対処法
裁量による労働が認められているため、自らが時間管理を徹底するのは当然です。
まずは労働時間の管理方法を見直してみましょう。
その上で、時間内で遂行できる業務量ではなく、ほかの労働者にも長時間勤務が蔓延していると思った場合などは、労働基準監督署に報告して事業所に指導・勧告してもらう方法も有効です。
「裁量労働制で休日出勤するのは労働者の裁量によるものだから賃金は発生しない」というのは悪質な会社の考え方です。
休日出勤の規定を設けている会社もありますが、少なくとも休日出勤に対しては別途の賃金が支給される必要があります。
対処法
休日出勤を控えることができれば望ましいことではありますが、無賃金での休日出勤があれば、休日出勤手当ての支払いを請求しましょう。
専門業務型裁量労働制では、19の限られた業種にのみ適用が可能です。
ところが、対象外の業種に裁量労働制を適用している、または同じ事業所内で対象内・対象外が混在しているのに一律に適用しているケースも散見されます。
対処法
対象外での適用は認められないので、労働基準監督署に報告し、会社に指導・勧告をしてもらう対処が適切です。
これまでに不当な適用があったと認められた場合は、違法残業にあたる部分について未払い賃金の請求も可能です。
裁量労働制に関して、専門業務型裁量労働制の対象となる19業務以外の業務で適用されている場合、また、企画業務型裁量労働制で必要な労使委員会で議決した内容を労働基準監督署に届け出るなど、所定の手続が取られていない場合は、当該制度を導入できません。
労使協定がない場合も同様です。
こうしたケースで残業が発生した場合は違法残業にあたり、通常の就労規則に従えば発生していたであろう残業代を請求できます。
ここでは残業代の計算方法と弁護士に相談するメリットについて解説します。
ここまで説明してきた通り、「裁量労働制では残業分の賃金がもらえない」というのは誤解です。まずは自分自身にどれだけの未払い残業代が生じているのかを確認しておきましょう。
① 残業代が発生しているかチェックしよう
裁量労働制で未払い残業代が発生しているのかをチェックする際は
未払い残業代が発生している場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
裁量労働制が有効かどうかを確認できるほか、未払い残業代を正確に算出できるうえに、会社側の弁護士や担当者との交渉や未払い分の請求をスムーズにおこなえる可能性が高くなります。
さらに労働者が本来の業務に集中できる、会社との交渉が有利に運び、高い確率で未払い分の賃金を支払ってもらえるといったメリットがあります。
裁量労働制は、原則的に労働者自身が労働時間を管理するため、残業や休憩、休日や深夜帯の労働について常態化している場合などは、深く考えず業務を遂行しているかもしれません。
また、制度の趣旨を曲解し、適用する悪質な会社も存在するため、労使間でトラブルに発展するケースも少なくはありません。
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