サービス残業という言葉が一般的に使われるようになりましたが、労働の対価が支払われないということは本来あってはいけません。働いた分は、しっかりと請求するべきでしょう。
ここで、「退職した後でもサービス残業代を請求できるのか」との疑問が生じます。退職予定であれば、在職中のうちに請求したほうが良いのでしょうか。また、すでに退職してしまった場合、いつまで請求は可能なのでしょうか。
この記事では、残業代請求のタイミングについて解説するとともに、請求に必要な証拠の内容や確保の方法にも触れていきます。
退職後も、サービス残業代の請求は可能です。
むしろ、会社へ気遣いをする必要がなくなる退職後に請求するケースが多いでしょう。
労働基準法第115条は、次のように定めています。
退職金を除く賃金を請求する場合、時効は給与支払日を起算日として「2年」です。
つまり過去2年分をさかのぼって請求することが可能です。
労働基準法でいう賃金とは、名称を問わず労働の対価として支払われるものを指すため、残業代も賃金にあたります。
サービス残業という名目にすることで、あたかもサービス(無償)で労働を提供したようにとらえられますが、会社は労働者を無償で働かせることはできないのです。
改正民法が2020年4月に施行されるのにともない、残業代の時効にも変化が生じる可能性があります。
これまでの民法では債権の消滅時効について、原則1年に加え、債権ごとに短期消滅時効(賃金は1年)が設けられていましたが、改正後は原則「5年」に統一されます。
すると、労働基準法の2年を上回ってしまうという現象が起きるため、労働基準法の時効も延長するべきだとの議論が活発化しています。
これは、民法の特別法である労働基準法は、労働者保護のために民法よりも手厚い立場をとっているにもかかわらず、民法の時効のほうが長くなってしまうためです。
もっとも、時効がある点に変わりはないため、会社にサービス残業代を請求したい場合は一日も早く動き出すべきでしょう。
退職後にサービス残業代を請求するべきか、それとも在籍中にするべきか迷っている方に向けて、退職後に請求するメリットとデメリットを解説します。
メリットは主にふたつあります。
退職後に請求するデメリットもふたつあります。
まず、民法第147条は、裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新について定めています。裁判上の請求等を行った場合、これらが終了するまでの間は、時効は完成しません(完成猶予)。
また、これらの手続によって権利が確定した場合は、これらの手続が終了したときから新たに時効の進行が始まります(更新)。労働審判の申立てや訴訟の提起などが裁判上の請求にあたりますが、いずれも準備に相応の時間がかかることがあります。
そこで、民法第150条の「催告」を行います。
残業代請求の場合は、会社に対して残業代を請求する旨を記載した内容証明郵便を送ります。催告により、催告の時から6か月間、時効の完成が猶予されます。
ただし、催告による完成猶予の期間中に再度催告を行っても、さらなる完成猶予の効力は生じませんので(同条2項)、催告によって時効の完成が猶予されている間に、裁判上の請求(労働審判の申立てや訴訟の提起)等を行う必要があります。
前述したように、サービス残業代を請求するには残業をした証拠が必要です。
有効な証拠は、どのようなものがあるのでしょうか。
労働者からの残業代の請求に対し、たとえ残業の事実があったと主張しても、証拠がなければ会社側は認めないでしょう。会社側を納得させるのはもちろんのこと、労働審判や訴訟に至った場合には、第三者にもわかるような客観的な証拠が必要になります。
たとえば、次のようなものが証拠となり得ます。
在籍中のほうが集めやすいものが大半ですので、退職前の場合は今後の請求に備えて証拠を集めておくことが大切です。
上記の証拠はあくまでも一例です。勤務先によって勤怠管理の方法や使用設備は異なるため、ご自身の場合はどうなのかを確認しておくことが重要です。
必死に集めた情報が、証拠として使用できない可能性もあります。そういったことを避けるためにも、残業代請求を決めたら早い段階で、弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士であれば、どのような証拠が有効なのか、証拠の集め方で何に注意するべきかといった、状況にあわせたアドバイスをすることが可能です。
また、証拠を集めた後、実際に残業代請求をする際もサポートしてもらえるので心強いでしょう。
証拠の有無は残業代の請求結果に大きな影響を与えますが、すでに退職したなどの事情で手元に証拠がない場合にはどうしたら良いのでしょうか。
会社は、労働関係に関する重要な書類を3年間保存する義務があります(労働基準法第109条)。紙のタイムカードや、勤怠管理ソフトの電子データなども含まれますので、これらの開示を会社に求めます。
タイムカードがないような会社の場合でも、パソコンのログ情報やメールの履歴、入館証のデータなどについて開示請求をすべきです。
会社が開示請求に応じない場合、裁判所に対して証拠保全の申立てを行うことが有効です。証拠保全とは、証拠が使用できなくなる可能性がある場合に、裁判所が直接証拠を確保したうえで証拠調べを行う手続きです。
具体的には、裁判官や執行官らが会社を訪れ、証拠の提出を求めます。民事訴訟法第234条に定められている正当な手続きですので、会社は応じる必要があります。
残業代の計算からはじまり、証拠集めや会社への開示請求、裁判所への申立てといった一連の手続きは弁護士に依頼するのが良いでしょう。
弁護士が代理人となった時点で会社が交渉に応じ、労働審判や訴訟になる前にサービス残業代が支払われるケースも少なくありません。また、証拠が手元にないといった場合でも、弁護士から開示請求すると会社側が応じる可能性が高まります。
裁判所への申し立てについても、弁護士が証拠保全の必要がある旨を適切に主張するため、認められやすくなるでしょう。
サービス残業代の請求は、退職前、退職後のいずれの場合でも可能です。在籍中であれば証拠収集の点で有利ですので、在職中に証拠を集めておくことをおすすめします。
しかし、何が有効な証拠になるのかは状況によっても異なるため、弁護士へ相談すると安心でしょう。すでに退職していて証拠がない場合でも、弁護士を通じて開示請求や申立てをすれば証拠を集められる可能性はありますので、諦めずに対処するべきです。
サービス残業代の請求はベリーベスト法律事務所へご相談ください。
労働問題に関して経験豊富な弁護士が、最善の結果になるよう力を尽くします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
1人で悩むより、弁護士に相談を
1人で悩むより、弁護士に相談を