会社勤めをしていると、業種や職種によっては時間外の業務が発生することも珍しくありませんが、原則として、所定時間外の労働に対しては残業代が支払われる必要があります。
しかし、実際の勤務時間に対して残業代の支給額が少ないと感じる方もいるかもしれません。そのような場合は、適正な計算方法で残業代が算出されていない可能性があります。
残業代には、労働時間や勤務日数などの一定条件を満たすと賃金が割増しされる仕組みがあります。もしもご自身の残業代が適正に支給されていない疑いがある場合は、正しい方法で計算されているか確認しましょう。
今回の記事では、残業代の相場や計算方法について解説します。
実際のところ、一般的な労働者はどの程度残業代をもらっているのでしょうか。
ここでは業種別のデータをご紹介します。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査:月間現金給与額」(平成30年10月結果速報)によると、産業全体での所定外給与の平均は、2万0088円です。その他の産業における結果は下記のとおりです。
あくまでも参考値ですが、他の人がいくら残業代を受け取っているかを示すものです。
上述のデータは、あくまでも一部の労働者の平均を算出した参考値にすぎません。
労働者の中には月に残業を全くしない人もいますし、反対に毎日何時間も残業をしている人もいます。
残業をしているにもかかわらず、会社から残業代が支払われていなかったり、支払われていても一部のみの支払であったり、残業代全額を支払ってもらえていない人もいるのではないでしょうか。
このように残業代が適切に支払われていない場合は、会社に対して未払の残業代を支払うように請求できます。
残業代には、基本的な計算方法があります。
しかし、計算の基礎となる「法内残業」「法外残業」という用語や、さらには、割増賃金の「割増率」が分からないままでは残業代がいくらなのか計算できません。
そこで、まずは、「法内残業」「法外残業」について、その後に「割増率」について説明します。
① 所定労働時間
会社で決められている1日や週の労働時間を「所定労働時間」といいます。
所定労働時間は、労働基準法32条で定められている時間を超過しない範囲で、会社が自由に決定することができます。この「所定労働時間」を超えてする労働が「残業」となります。
② 法内残業
労働基準法32条では、1日8時間、週に40時間を超えて労働をさせてはいけないと規定されています(休憩時間除く)。
そして、「所定労働時間」を超えた残業のうち、1日8時間、週に40時間を超えない部分を「法内残業」といいます。労働基準法の定めた時間内の労働ですので、「法内」の残業であり、会社には通常どおりの時間賃金を支払う義務が生じます。
後述する「法外残業」との違いは、労働基準法のうえでは割増賃金の支払義務が生じないことです。
もちろん、「法内残業」についても割増賃金を支払うということが就業規則・賃金規定等で定められているのであれば、会社は割増賃金の支払をする必要があります。
③ 法外残業
労働基準法32条で定める1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた労働のことを指します。「法外残業」については、労働基準法37条によって、時間外割増賃金支払義務が生じます。
以上のことを踏まえ、たとえば9時から13時を所定労働時間とするパートタイムの人が14時までの1時間残業をしたと仮定すると、1時間分について残業代は支払われますが、法定労働時間は超えていない法内残業といえるので、法内残業に関する割増しの規程がない限り、割増賃金を支払う必要はなく、1時間分の時給が残業代として支払われることになります。
時間外、休日及び深夜の割増賃金については、労働基準法37条に規定されています。
まず、労働基準法で定められている法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を越えて労働した場合、割増率は25%です。
法外残業の時間が1ヶ月について60時間を超えた場合の割増率は50%となります(ただし、中小企業については、2023年まではこの50%の割増しに関する規定の適用が猶予されています)。
そのほか、法定休日労働をした日の割増率は35%です。
また、業務によっては深夜(22時から5時)の労働が発生するケースもありますが、深夜の労働については、25%の割増しがされます。
割増率が重複する場合もあります。たとえば、法定労働時間を超え、かつ深夜労働に及んだ場合などです。
このようなケースでは、法定時間外の25%と、深夜労働の25%が割増しされますので、合計した50%(25%+25%)の割増率で計算されることになります。深夜(25%の割増)に月60時間超の法定時間外労働(50%の割増)をさせると75%の割増率となります。
残業代がいくらなのか計算するには、割増しされる対象となる時給の計算が必要となります。時給及び残業代がいくらかは、次の計算式で求めることができます。
会社に対して未払いの残業代を請求する際は、遅延損害金の存在も忘れてはいけません。
時間外の労働をしたのに残業代が支払われなかった場合は、遅延損害金を受け取れる可能性があります。
なぜ会社は遅延損害金を支払う必要があるのでしょうか。会社は、労働者に対して適時(賃金支給日)に残業代を支払うという「債務」を負っています。適時に残業代を支払わないことは、債務を履行していない状態であり、「債務不履行」に該当します。
そのため、債務不履行が発生した場合は、遅延損害金という形で損害賠償請求できることになります。
遅延損害金の利率は、「在職中」と「退職後」で異なります。
どちらも未払いの残業代に伴い請求できるものですが、根拠となる法律が異なります。
在職中に請求できる遅延損害金の利率は、使用者が会社(商人)の場合には年6%(商法503条・514条、会社法5条)となります。
使用者が、協同組合、公益法人、宗教法人などの営利を目的としない事業者の場合には年5%(民法404条)となります。
一方、退職した日の翌日以降に請求できる遅延損害金の利率は年14.6%となります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項、同法施行令1条)。
これらの利率によって計算した遅延損害金は未払いの残業代と併せて使用者に請求できます。
残業代の未払いについては、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
自分で未払い分を計算し、残業の証拠をそろえて会社と交渉することも可能ですが、残業代の計算は、割増率や遅延損害金も考慮して行う必要があるため、難易度がかなり高いでしょう。
弁護士に依頼することで、より迅速に、そして正確に、手続きを進めることができるのです。
多くの方が、タイムカードや賃金規程、給与明細などを見て、働いた時間と契約上取り決めてある賃金を確認することはできるはずです。
しかし、いったい残業代がいくら発生しているのかを計算するのは簡単ではありません。
また、タイムカードがあればいいですが、実際に何時間働いたかが明確に分かる証拠が見つからないケースもあるでしょう。そのような状態では、正確に計算するのは非常に困難です。弁護士に相談し、サポートを受けるのが得策といえるでしょう。
個人で請求をしても会社から反論されてしまうことや、請求したことによって社内で嫌がらせを受けてしまうなど、自分の力だけで解決することが困難な事態に発展する可能性は否定できません。
また、会社が残業代の支払を拒んだ場合は、労働審判や裁判になるケースもあります。
トラブルが発生した場合でも、弁護士に依頼すれば、代理人として依頼者の代わりに残業代の計算から交渉や法的手続きまでサポートをしてくれるので安心です。
残業をしているのに、思ったよりも残業代をもらえていないと感じる場合は、適正な計算方法で算出されていない可能性があります。また、未払いの残業代には遅延損害金がつきます。
今回の記事を参考に、残業代がきちんと支払われているか一度確認してみましょう。
残業代請求の時効は2年間なので(労働基準法115条)、未払いの残業代があっても、過去2年分まではさかのぼって残業代を受け取ることができます。未払いの残業代があるとお考えの方は弁護士への相談も検討してみましょう。
労働問題はベリーベスト法律事務所へご相談ください。
早期の解決に向けて、弁護士が徹底的にサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
今すぐには弁護士に依頼しないけれど、その時が来たら依頼を考えているという方には、ベンナビ弁護士保険への加入がおすすめです。
何か法律トラブルに巻き込まれた際、弁護士に相談するのが一番良いと知りながら、どうしても費用がネックになり相談が出来ず泣き寝入りしてしまう方が多くいらっしゃいます。そんな方々をいざという時に守るための保険が弁護士費用保険です。
ベンナビ弁護士保険に加入すると月額2,950円の保険料で、ご自身やご家族に万が一があった場合の弁護士費用補償(着手金)が受けられます。残業代請求・不当解雇などの労働問題に限らず、離婚、相続、自転車事故、子供のいじめ問題などの場合でも利用可能です。(補償対象トラブルの範囲はこちらからご確認ください。)
ご自身、そして家族をトラブルから守るため、まずは資料請求からご検討されてはいかがでしょうか。
提供:株式会社アシロ少額短期保険 KL2022・OD・214