毎日のように続く長時間残業で、疲労が蓄積し、精神的にも限界がきていないでしょうか。残業を断っても上司に受け入れてもらえず、深夜におよぶ残業が続いている場合、もはや泣き寝入りするしか選択肢がないのではと思われていらっしゃるかもしれません。
多かれ少なかれ、多くの企業で残業は行われていますが、労働者は会社の残業命令に必ず従わなければならないのでしょうか。残業の強要は許されるのでしょうか。
本コラムでは、企業が残業を命じることができるのはどのような場合なのか、労働者は残業命令を拒否することができるのか、といったテーマについて解説していきます。
なお、本稿においては、労働者が企業の残業命令に応じる義務がないのに企業が残業を強いることを、残業の「強要」と言います。
大原則として、企業は労働者に残業をさせることはできません。
この原則の例外として、次の要件を満たした場合などに、企業は労働者に残業をさせることができます。
労使協定とは、企業が「労働者の過半数で組織された労働組合」か、これがない場合には「労働者の過半数代表者」との間で結ぶ、書面による協定のことです。
労働基準法36条には、労使協定を締結し行政官庁へ届け出た場合に限り、労働時間の延長と休日労働ができると書いてあります。36条にもとづく労使協定であることから、36(サブロク)協定と呼ばれています。
36協定があったとしても、それだけで個別の労働者に対して残業を命令することはできません。労働契約上残業を行う義務が設定されていることが必要です。
例えば、就業規則に、36協定の範囲内で時間外労働を命じることができる旨が規定されており、その就業規則が周知されている場合には、残業を命令することができます。
ここでいう周知とは、労働者がいつでも自由に就業規則を閲覧できる状態にあることを指します。
ただし後述しますが、上記要件を満たしている場合でも、労働者に正当な理由がある場合には残業命令をすることはできません。
正当な手続を踏んだのであれば残業命令は可能だけれども、いつでも制限なく残業をさせることができるとの解釈は間違い、ということです。
企業も労働者も「残業は当たり前」と感じてしまうことがありますが、残業はあくまでも例外的な取り扱いであるため、要件が厳格に定められているのです。
「法定労働時間」とは、休憩時間を除いた「1日8時間、1週40時間」の労働時間です。労働基準法32条で定められています。
混同されがちな「所定労働時間」は、企業が自由に設定できる労働時間のことです。企業によっては労働時間が1日7時間や7.5時間といったケースがありますが、これが所定労働時間というものです。
所定労働時間は、法定労働時間の8時間を超えて設定することはできません。
36協定によって無制限な残業時間が設定されないように、国は「限度基準告示」によって行政指導を行ってきました。
しかし、あくまでも基準であり、罰則による強制力がありませんでした。
また、臨時的かつ特別な事情がある場合には、36協定に特別条項を設ける(通称:エスケープ条項)ことで、実際には青天井式に残業命令をすることが可能でした。
こうした問題を受けて法改正が行われ、平成31年4月から(中小企業は令和2年4月から)、1ヶ月45時間、1年360時間の上限が罰則つきで規定されました。
特別条項つき36協定についても、従前の要件に加えて上限時間が設けられています。
適切な手続にもとづく残業命令であっても、体調不良の場合や、特に理由なく残業を命令された場合には、断ることができます。
次のように法律で定めがある場合にも同様に拒否できます。
正当な理由によって残業を拒否しているにもかかわらず受け入れられない場合は大きな問題です。
まずは、36協定、就業規則、労働契約書を確認しましょう。
36協定と就業規則は、労働基準法106条による周知義務がありますので、職場に備え付けるなどの方法がとられているはずです。この範囲外については拒否することができます。また労働契約書は通常、手元にあるはずです。
上記の根拠が何もなければ、企業は残業を命じることはできません。
それでも残業を強いられれば、それは残業の強要であり、態様次第では刑法223条の強要罪に該当する可能性があります。
強要罪とは、脅迫や暴行を用いて人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨げる罪です。3年以下の懲役刑が用意された、決して軽くはない罪です。
次に、ご自身について前述した「正当な理由」があり、残業を拒否できる状況にあるのかを確認します。
適法な残業命令であり、かつご自身に拒む正当な理由がなければ、残念ながら残業を強要されたとは認められません。むやみに拒むことで、社内規定による処分の対象になることもあり得ます。
一方で、正当な理由があり拒否しているのに残業を強いられている場合、その方法によっては、やはり強要罪が成立する可能性があります。
残業を強要されている場合、上層部や人事部に申告し、改善を求めることはひとつの方法です。コンプライアンスの意識が多少なりともある企業であれば改善されるかもしれません。
しかし、企業が法律を熟知しているとは限らず、また知ったうえで隠ぺいする可能性もあります。たとえ正しい主張であっても通らないおそれはあると思っておきましょう。
では、残業を強要された場合、労働者には我慢するか退職するかの選択肢しかないのでしょうか。決してそのようなことはありません。
まずは、労働基準監督署へ申告する方法があります。
労働基準法違反の企業に対して指導や勧告を行ってくれる場所ですし、実際、労働者からの申告がきっかけとなり違法行為が発覚することがあります。
しかし、残業を強要された証拠を集めるのはあくまでご自身ですので、相談にあたり準備も必要となります。早期に問題を解決したいと思っていても、なかなかご自身が思った通りに動いてもらうことができず、長時間労働が続いてしまうこともあるでしょう。
そこで、違法な残業命令に困っている場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば証拠の有無にかかわらず、すぐにでも相談に乗ってもらうことができ、状況に応じた解決案をアドバイスしてくれます。
残業が強要されている状況の改善を求めたい、未払い残業代の請求をしたいなど、企業に対して具体的な要求をする際にもあなたの代理人となって活動することができます。
残業を拒否したことで不当解雇された場合や、裁判で未払い残業代を請求する場合にも、弁護士は代理人となり法的な主張をすることで、ご自身にとって有利な結果となるよう導いてくれるでしょう。
残業を強要され断れない、強要罪になり得るような状況下であるといった場合、もはやご自身の力で対処することは困難です。
一刻も早く弁護士へ相談することをおすすめします。
今回は、職場で残業を強要されてお困りの方へ向けて、残業命令ができる場合とそれを拒否できる場合について、法律上の取り扱いを中心に解説しました。違法な残業命令が行われている場合や正当な理由がある場合には残業を拒むことができます。
しかし、実際には労働者個人の力で企業に太刀打ちすることは難しい面があるでしょう。我慢しても心身の負担が増大するばかりですので、早期に弁護士へ相談してください。
ベリーベスト法律事務所では、現状の改善や違法な残業に対する残業代請求など、労働問題全般の解決に尽力しております。
労働問題で悩みを抱えている方は、お気軽に当事務所の弁護士までご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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