2022年に、神戸市にある医療機関に勤務する医師が、長時間労働によりうつ病を発症し、自殺をしたとして、遺族が大阪地方裁判所に提訴する事件がありました。遺族側の主張によれば、医師の1か月の残業は200時間を超え、100日連続で休みなく勤務していたとのことでした。
医師と一般的な労働者では、残業時間の上限規定が異なりますが、月200時間を超えるような残業は、原則、違法な長時間労働といえます。このような長時間労働は、過労死のリスクなどが高まり非常に危険です。
今回は、残業月200時間のリスクと長時間労働・残業代未払いを解決する方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
残業が月に200時間という数字は異常な数値であるといえますが、そもそも1日何時間働けば残業が200時間になるのでしょうか。
労働基準法では、1日8時間・1週40時間という労働時間の上限が設けられています。
これを「法定労働時間」といいます。
36協定を締結している場合
使用者が法定労働時間を超えて労働者を働かせるためには、36協定の締結・届出が必要になりますが、その場合でも無制限に残業をさせられるわけではありません。
残業時間には、原則、月45時間・年360時間という上限が設けられています。
臨時的な特別の事情がある場合
臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付きの36協定を締結・届出することにより、さらに残業をさせることができますが、その場合でも、以下の制限があります。
このような残業の上限規制からもわかるように、月200時間という残業は、異常な数値といえるでしょう。
残業時間の上限規制には罰則が設けられていますので、違法な長時間労働をさせた企業は刑事罰が科される可能性が高いといえます。
残業が月200時間といってもどれだけ過酷なのか、なかなか想像できないかもしれません。そこで、以下では、1日あたり何時間働くと残業が200時間になるのかみていきましょう。
① 月の休日が5日程度しか確保できていないケース
月の休日が5日程度しか確保されていない場合で考えてみましょう。
たとえば、所定労働時間が午前8時から午後5時まで(休憩1時間)の会社であれば、午後5時の退勤時刻を過ぎて、さらに8時間も働き、翌午前1時に退社となります。
仮に通勤時間が1時間、自宅での食事や入浴で2時間かかるとすると、睡眠時間はわずか3時間程度しかない計算になります。
それがほぼ毎日続くと考えると、非常に過酷な状況であるといえるでしょう。
② そもそも休日がなく出勤を強いられているケース
休日なく出勤を強いられている場合は、以下のケースが想定されます。
上記のケースに比べると1日あたりの残業時間は短くなりますが、それでも仕事を終えて自宅に帰るのは日付が変わってからになります。
まったく休日がない状態ですので、疲労を回復する余裕がなく、どんどん疲労が蓄積し、過労死などのリスクが非常に高くなるでしょう。
残業200時間というのは異常な状況ですが、このような状況が続くと以下のようなリスクが生じる可能性があります。
厚生労働省では、残業時間と過労死との関連性に関する認定基準(過労死ライン)を設けています。それによると残業時間が以下の基準を超えると業務と過労死との関連性が強いと評価されることになります。
月200時間の残業は、上記の過労死ラインを大幅に超えるものとなりますので、過労死のリスクが非常に高い状態となります。
このまま残業が月200時間の状況が続くと過労死を招く危険がありますので十分に注意する必要があります。
過労死等防止対策推進法において、「過労死等」とは、以下のことをいいます。
過労死に至らなかったとしても、月200時間の残業が続けば、仕事によるストレスや疲労が原因となり、脳疾患や心臓疾患を発症する可能性が高くなります。
少しでも身体に異常や不調を感じた場合には、脳疾患や心臓疾患を疑い、すぐに病院で検査してもらうようにしましょう。
長時間残業は、身体に対するストレスはもちろんのこと、精神に対するストレスもかかりますので、残業が月200時間にも及ぶとメンタルヘルスにも影響が生じ、うつ病などの精神疾患を発症するリスクが高くなります。
厚生労働省では、精神疾患の労災認定において、長時間労働の心理的負荷の強度についての認定基準を設けており、それによると、発病直前の1か月間に、おおむね160時間超の時間外労働があった場合は、「特別な出来事」にあたり、心理的負荷の総合評価を「強」と判断することとされています。
そのため、月200時間にも及ぶ残業により精神疾患を発症した場合には、労災と認定される可能性が高いでしょう。
月200時間もの残業が続くと、休日がほとんどなく、十分な睡眠もとれない状態で働いていることになります。
このような状況で仕事をすると、過労や睡眠不足が原因で通勤中の交通事故や仕事中のミスを起こしやすくなるなど、重大な事故を招くリスクが高くなります。
仕事の効率も大幅に低下するため、遅れを取り戻すためにさらに残業をするなどの悪循環に陥ってしまうでしょう。
月200時間の残業が続いている場合には、今すぐ以下のことを検討・確認することが重要です。
月200時間の残業というのは、極めて異常な事態といえます。
引き続き会社に残り働き続けるのであれば、労働環境を改善してもらわなければ、過労死などのリスクが高くなってしまいます。
そのため、まずは上長や人事・労務担当者等に相談をして、業務量を減らしてもらったり、人員を増やしてもらったりするなどの対応をお願いしてみましょう。
月200時間の残業という異常な事態が起きていることを知れば、状況の改善に向けてすぐに動き出してくれるはずです。
ただし、そのような状況を知りながらあえて長時間残業させているような会社だと、上長や人事・労務担当者に相談したとしても、改善は期待できないといえます。
その場合、すぐにでも休職・退職・転職をすることをおすすめします。
月200時間の残業という状況がすぐに改善されないときは、休職・退職・転職を検討することも必要です。
現時点で心身に不調が生じていなかったとしても、今後も長時間の残業を続けていれば、どこかのタイミングで不調が生じることが予想されます。
脳疾患、心臓疾患、精神疾患などを発症してからでは、転職活動もままならないため、健康なうちから行動していくことが大切です。
月200時間もの残業は、異常な事態といえますので、退職や転職も積極的に検討していくべきでしょう。
会社に転職をしようとしていることが知られると、引き留められる可能性もありますので、会社に知られないように転職活動を進めていくことが大切です。
長時間の残業で転職活動をする時間がとれないという場合には、退職を先行させることも検討してみましょう。
本当は退職したいのに退職させてもらえない(在職強要)といった場合は、弁護士が退職をサポートすることもできます。
詳しくは、退職サポートの費用をご覧ください。
残業に関しては、労働問題の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。
月200時間もの残業をしている場合、残業代も高額になりますが、違法な長時間残業をさせている会社では、長期間にわたり適切な残業代が支払われていない可能性があります。
未払いの残業代を請求する場合も時効があるため、少しでも早く請求しなければ、本来もらえたはずの残業代が受け取れなくなってしまうのです。
残業代を請求するのは労働者として当然の権利です。
未払い残業代の有無を確認するためにもまずは弁護士に相談するとよいでしょう。
長時間労働や残業代未払いを解決する方法としては、以下の方法が考えられます。
引き続き会社に在籍して働き続けるという場合には、現状の労働環境を改善してもらう必要があります。
まずは、上長や人事・労務担当者に相談して改善を求めていくことになりますが、労働環境の改善に応じてくれないときは職場外の相談窓口を利用することも有効な手段となります。
労働基準監督署とは、企業に対して労働関係法令の順守を求め、労働者の健康や職場の安全を守るために企業を監督する権限を与えられた行政機関です。
月200時間の残業は、残業時間の上限規制に違反する違法な状態といえますし、未払い残業代が発生している可能性もあります。
このような場合には、労働者が労働基準監督署に申告をすれば、労働基準監督署は、法令違反の有無を調査し、その結果、法令違反が明らかになったときは是正勧告などにより違法状態の改善を求めてくれます。
会社が労働基準監督署の指導・是正勧告にしたがってくれれば、違法な長時間労働の状況は改善が期待できるでしょう。
労働組合とは、労働者が自主的に組織する団体であり、会社に対して労働条件や職場環境の改善などを求める活動を行っています。
労働者個人での交渉では会社が誠実に取り合ってくれない場合でも、労働組合による団体交渉であれば対等な立場で交渉することができますので、労働条件や職場環境が改善される可能性が高くなります。
長時間労働や残業代未払いの問題を個人で対応するのは負担が大きいといえますので、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士であれば労働者の代わりに会社と交渉をすることができます。
弁護士に交渉を任せ、あなた自身は、新たな就業に向けしっかり休養をとることができます。
また、個人の交渉が難しいケースでも弁護士が代理人となって交渉することで、スムーズな問題解決につながる可能性が高くなります。
さらに、交渉が決裂したとしても、弁護士であれば労働審判や訴訟といった法的手段により問題の解決を図ることができます。
このような手続きを労働者個人で対応するのは困難といえますので、弁護士に任せるのが安心といえます。
残業が月200時間にもなることは極めて異常な事態ですので、そのような状況で働いている方は、会社に対して改善を求めることを検討した方がよいでしょう。
会社が応じてくれないときは、ご自身の健康と命を守るためにも退職や転職も検討した方がよいでしょう。
また、月200時間もの残業をしている場合には、高額な未払い残業代が発生している可能性があります。
残業代を請求する場合、時効の点からすれば早期に弁護士に相談することが望ましいですが、退職後でも請求をすることはできますので、退職後は早期に弁護士に相談をするとよいでしょう。
会社に対する残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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