会社に対して未払い残業代を請求するためには、労働者の側で残業があったことを立証しなければなりません。
しかし、すでに会社を退職してしまった後だと、タイムカードなどの証拠は会社にある場合が多く、これらの証拠は会社が任意に開示してくれなければ、入手することが困難です。このような場合には、文書提出命令という制度を利用することで、会社から残業代請求に必要となる証拠を提出してもらえる可能性があります。
本コラムでは、文書提出命令の概要・手続きの流れや残業代請求の準備などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
文書提出命令とはどのような制度なのでしょうか。
以下では、文書提出命令に関する基本事項を説明します。
文書提出命令とは、裁判所が一定の要件を満たす文書を所持する当事者または第三者に対して、文書の提出を命じることができる制度です。
民事訴訟法では、文書の所持者に対して、文書を提出する義務を課していますので、一定の例外事由に該当しない限りは、文書の提出を拒否することはできません(民事訴訟法220条4号)。
また、例外事由に該当しないにもかかわらず、文書の提出を拒否すると、当事者であれば、文書提出命令の申立人が主張する事実を真実と認めることができ、第三者であれば過料の制裁があります。
裁判所に文書提出命令を申し立てれば、どのような文書でも提出してもらえるわけではありません。一定の例外事由に該当する文書については、文書提出命令の対象から除外されていますので注意が必要です。
たとえば、未払い残業代請求にあたっては、以下のような証拠が必要になります。
これらの文書については、文書提出命令の対象となる「利益文書」または「関係文書」に該当すると解されます。
そのため、文書提出命令が発令されれば、会社から提出を受けられる可能性があります。
民事訴訟法220条4号では、文書提出義務が一般義務化されていますので、文書提出命令が濫用されると文書の所持者に不当な不利益が生じるおそれがあります。
そこで、上記の文書については、文書提出命令の対象から除外されています。
裁判所から文書提出命令の発令を受けるには、以下のような手続きが必要になります。
文書提出命令は、係属中の訴訟手続きで利用できる制度ですので、文書提出命令を利用するためには、その前提として訴訟提起が必要になります。
まずは、未払い残業代請求訴訟を提起しましょう。
文書提出命令の申し立ては、必ず書面により行う必要があります。そこで、以下の事項を記載した文書提出命令申立書を作成します。
ただし、申立人が文書の表示または文書の趣旨を明らかにするのが著しく困難な事情があるときは、文書の所持者が対象となる文書を識別できる事項を明らかにすれば足ります。
文書提出命令申立書の作成ができたら、裁判所に提出します。
文書提出命令の申し立てがあると、民事雑事件簿に搭載され、雑事件番号が付されます。
文書提出命令の申し立てがあった場合、裁判所は、相手方に対し、文書提出命令の申し立てに関する意見を記載した書面の提出を求めます。対象となる文書を第三者が所持している場合には、審尋という手続きが行われます。
また、裁判所は、申し立てのあった文書が文書提出命令の例外事由に該当するかを判断するために、インカメラ手続きをとることもあります。これは、文書の所持者に対して、文書の提示を求めるもので、裁判所は、提示された文書を見て例外事由に該当するかを判断します。
裁判所の審理の結果、文書提出命令の申し立てが相当であると認めるときは、文書提出命令が発令されます。
他方、申し立てに理由がないという場合には、却下決定がなされます。
裁判所から文書提出命令が発令されたにもかかわらず、相手がそれに応じない場合は、どのように対処したらよいのでしょうか。
文書の提出を命じられたのが訴訟の当事者である場合で、その当事者が文書提出命令に応じないときは、当該文書に記載された申立人の主張を真実であると認めることができます。
文書の提出を命じられたのが、訴訟の当事者以外の第三者である場合で、その第三者が文書提出命令に応じないときは、20万円以下の過料に処せられます。
裁判所の文書提出命令に不服がある当事者または第三者は、「即時抗告」という不服申し立てをすることができます。
即時抗告が申し立てられると、当事者には反論の文書を提出する機会が与えられますので、相手方からの即時抗告の内容を踏まえて、反論をしていく必要があります。
会社に対して、未払いの残業代を請求するには、事前に以下のような準備を行う必要があります。
会社に対して、未払いの残業代を請求するためには、残業があったことを裏付ける証拠が必要になります。
文書提出命令も証拠を入手する手段の一つになりますが、文書提出命令は、裁判所に訴訟が係属していることが条件となります。
そのため、訴訟提起前には利用できない手段ですので、まずはそれ以外の方法で証拠を集めていかなければなりません。
そして、会社を退職してしまうと、証拠収集が困難になりますので、未払い残業代の請求を考えている場合には、会社に在籍中から必要な証拠を集めていくことが大切です。
残業代に関する証拠が集まったら、それに基づいて未払い残業代の金額を計算します。
ただし、残業代の計算は、非常に複雑な計算方法であり、雇用契約の内容によって計算方法も異なりますので、一般の方では正確に残業代を計算するのは難しいかもしれません。
会社に対して残業代請求をお考えの方は、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士であれば、どのような証拠があれば残業代を立証できるかを熟知していますので、状況に応じた適切な証拠収集をアドバイスしてもらうことができます。
また、一般の方では難しい残業代計算も弁護士であれば迅速かつ正確に計算することができます。
一人で対応するのが難しいと感じたときは、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に依頼するメリットはこちらで詳しく解説しています。
未払い残業代の請求には、3年間の期間制限が設けられています。
残業代請求権の時効は、給料日の翌日からカウントします。
そのため、毎月残業代が発生しているような方だと、時間の経過とともに残業代が減ってしまいますので、早めに行動することが大切です。
残業代請求権の時効が迫っているときには、時効の完成猶予または更新の措置を講じることで、時効期間の進行をストップまたはリセットできる可能性もあります。
そのため、弁護士に相談する場合には、早めに相談するようにしましょう。
文書提出命令は、証拠として利用したい文書を手に入れるための法的な手段のひとつです。ただし、文書提出命令の制度では、一定の要件を満たすものについては、対象となる文書から除外されていますので、すべての文書が対象になるわけではありません。
残業代請求にあたっては証拠が重要になりますので、会社への残業代請求をお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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