残業には労働基準法により、さまざまなルールが設けられています。
労働者として正当な権利を守るためには、法定労働時間や36協定、割増賃金のルール、残業時間の上限など、基本的な知識を身につけておくことが大切ですが、なかなかイメージがつかみにくいという方もいるかもしれません。
今回は、ベリーベスト法律事務所の弁護士が、残業の基本的なルールについて図解を用いて解説します。
労働基準法では、残業についてどのような定めがあるのでしょうか。
まずは労働基準法における残業の基本事項をみていきましょう。
残業(時間外労働)とは「法定労働時間」を超えて働くことをいいます。
法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間の上限です。
これを超えた労働時間が残業にあたります(労働基準法32条)。
たとえば、1日9時間勤務する場合、そのうち1時間は法定労働時間を超えているため「残業」に該当し、割増賃金(残業代)の対象となります。
なお、法定労働時間を超えて働かせる場合は「36協定(サブロク協定)」の締結が必要です。36協定については2章で詳しく解説します。
労働時間には、「法定労働時間」と「所定労働時間」という2種類があります。
図のように、所定労働時間が7時間(9時~17時勤務)と定められている企業では、実働が7時間となります。この場合、たとえ残業をして18時まで働いたとしても法定労働時間の8時間の範囲内におさまるため、違法にはなりません。
しかし、18時を超えて働いた場合は「法定時間外労働」となり、労働基準法で定められた「割増賃金」が発生します。割増賃金については3章で詳しく解説します。
労働基準法は、正社員だけでなく、非正規雇用の労働者にも適用されます。
| 労働基準法が原則として適用される労働者 | 正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員、嘱託社員、日雇い労働者(雇用契約が成立している場合) |
|---|---|
| 労働基準法が原則として適用されない労働者 | 業務委託契約者、取締役・役員 |
労働基準法が適用される労働者は、原則として、残業をすれば残業代を請求することができます。

残業(時間外労働)をするには労使間で「36協定」の締結・届出が必要であり、残業時間には法律上、上限が設けられています。
以下では、残業をするために必要な36協定と残業時間の上限規制について説明します。
36協定とは、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定届」といい、労働基準法36条で定められた労使協定であることから36(サブロク)協定と呼ばれています。
企業が労働者に法定労働時間を超えた労働を命じる場合、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
36協定の締結・届出をしなければ、たとえ労働者本人が同意していても、会社は時間外労働をさせることができません。協定未締結のまま残業をさせると労働基準法違反となります。
この場合、事業主は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
違法な残業命令は拒否することができますので、労働者としても自分の職場に36協定があるかどうかを確認することが大切です。
36協定の締結・届出があっても無制限に残業をさせられるわけではありません。
残業時間には、以下のように上限が設けられています。
図解の通り、36協定の締結・届出をした場合の原則的な残業時間の上限は、月45時間・年360時間以内です。
しかし臨時的な特別の事情がある場合には、「特別条項付き36協定」を締結することで、以下の範囲内まで残業時間の上限が延長されます。
繁忙期や緊急対応が必要なときであっても、上限を超えた労働は違法となります。

残業をした労働者は、会社に対して残業代を請求することができます。
以下では、残業代の基本的なルールと割増賃金の計算方法について説明します。
労働基準法では、残業(時間外労働)や深夜・休日労働に対して、通常の賃金に上乗せした「割増賃金」を支払うことを義務付けています。
以下は、労働の種類に応じた割増賃金率です。
| 労働の種類 | 割増賃金率 |
|---|---|
| 時間外労働(1日8時間・週40時間を超えた部分) | 25%以上 |
| 月60時間超の時間外労働(時間外労働のうち月60時間を超えた部分) | 50%以上 |
| 深夜労働(午後10時から翌午前5時までの労働時間部分) | 25%以上 |
| 休日労働(法定休日の労働部分) | 35%以上 |
| 時間外労働+深夜労働(時間外労働と深夜労働が重複する部分) | 50%以上 |
| 休日労働+深夜労働(休日労働と深夜労働が重複する部分) | 60%以上 |
| 月60時間超の時間外労働+深夜労働(月60時間超の時間外労働と深夜労働が重複する部分) | 75%以上 |
1日8時間・週40時間を超える時間外労働が月60時間を超えた場合、割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられます。
これは長時間労働による健康被害の防止を目的とする規制で、以前は大企業を対象として適用されていましたが、令和5年4月からは中小企業も対象となり、現在ではすべての企業を対象です。
たとえば、月70時間の時間外労働をすると以下の適用になります。
残業代は、以下の計算式により算出します。
このうち「基礎賃金」とは、1時間あたりの基礎賃金になります。
時給制で働く労働者の場合、時給額がそのまま基礎賃金になります。
一方、月給制で働く労働者の場合には、以下のような計算式によって1時間あたりの基礎賃金を計算しなければなりません。
なお、「月給」には以下の手当は含まれません。
上記を加味して、残業代を算出してみましょう。

普段当たり前のようにしている残業ですが、実は違法な残業であるケースも少なくありません。以下では、違法な残業が疑われる典型的なケースを紹介します。
なお、違法残業が労働基準法違反になる場合、事業主には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。
違法な残業にあたるケースの1つ目は、タイムカード打刻後の勤務です。
一般的にタイムカードは、勤務開始と勤務終了時に打刻するものですので、タイムカード打刻後に労働することはありません。
しかし、タイムカード打刻後の勤務がデータ上は労働時間としてカウントされないことを悪用して、残業代の支払いを回避する手段として利用されることがあります。
会社の指示により残業をしているのであれば、タイムカード打刻後であっても労働時間にあたりますので、その時間に対して残業代が支払われなければ違法な残業となります。
違法な残業にあたるケースの2つ目は、暗黙のサービス残業です。
これは会社から明示的な残業の指示が出ていないものの、残業をせざるを得ない状況であるためやむなく残業をすることをいいます。
たとえば、以下のような状況がこれにあたります。
会社からは、「残業の指示を出していない」「勝手に残業をしたのだから残業代は支払えない」などと言われることがありますが、明示的な残業指示がなくても、黙示の残業指示があったと評価できれば残業代の支払い対象となります。
そのため、暗黙のサービス残業に対して残業代が支払われていなければ違法な残業となります。
違法な残業にあたるケースの3つ目は、みなし残業の超過分の未払いです。
みなし残業制度(固定残業代制度)を導入している企業では、一定時間分の残業代をあらかじめ月給に含めることが認められています。
しかし、みなし残業制度は、無制限に残業をさせられる制度ではありませんので、みなし残業時間を超えて働いた分に対しては追加の残業代の支払いが必要です。
たとえば、みなし残業代は月20時間分であるにもかかわらず、30時間働いても同じ給与しか支払われていないような場合は、超過10時間分の割増賃金が未払いですので、違法な残業となります。
違法な残業にあたるケースの4つ目は、労働時間の自己申告制の悪用です。
一部の企業では自己申告制で労働時間を記録していることがあります。
しかし、この制度を悪用し、実際の労働時間を短く申告させるよう圧力をかけるケースがあります。
たとえば、「本当は21時まで働いていたが、自己申告では18時退勤にしてほしい」と上司に言われるといったケースです。
このようなケースも残業代の未払いが発生していますので、違法な残業となります。

残業の実態は、業種や職種によって大きく異なります。
そのため、ご自身の職業や業界ごとの残業傾向を抑えておくことが大切です。
以下では、代表的な職種ごとの残業傾向と注意点を説明します。
なお、「運送」「建設」「医療」「営業」「サービス業」など、職業・業界別の残業代の詳細は、リンク先の記事をご覧ください。
営業職は外回りや出張が多く、オフィス以外での勤務が中心となるため、労働時間の把握が難しいという問題があります。
また、直行直帰が一般的な職場では、タイムカード等による勤怠管理が行われておらず、移動時間や訪問準備の時間が労働時間としてカウントされていないケースも見受けられます。
移動時間や訪問準備にかかる時間については労働基準法上の労働時間に含まれる場合もありますので、残業代を請求することを検討しましょう(事業場外みなし労働時間制が適用される場合等を除く)。
IT系やエンジニア職では、納期に追われる働き方が常態化しており、深夜残業・休日出勤が発生しやすい傾向にあります。
また、裁量労働制を導入している企業もありますが、裁量労働制は特定の職種や条件を満たす場合に限り適用が認められている制度です。
そのため、業務の裁量がほとんどないITやエンジニア職に裁量労働制を適用するのは、違法となる可能性が高いでしょう
教育・介護職では、授業準備・記録業務・保護者対応などの付随業務が、勤務時間外に行われがちです。
たとえば、保育士が開園前・閉園後に準備作業をしたり、介護職がシフト終了後に記録をまとめたりするなどのサービス残業がこれにあたります。
これらの作業も、業務上の必要があれば当然に労働時間に該当し、残業代の対象になります。日々の勤務記録や日報などを残しておくことで、後から労働時間を証明しやすくなります。
飲食・小売業などの接客業では、閉店後の片づけ作業やレジ締めなどがシフトに含まれず、サービス残業化しているケースが多くみられます。
また、店長やマネージャー職が「名ばかり管理職」として扱われ、残業代が支払われないケースも問題です。実態として経営者と一体的な立場になければ、労働基準法上の管理監督者とは認められませんので、残業代の未払いは違法となります。

違法な残業が疑われる場合には、一人で悩まずに適切な相談先に相談することが重要です。以下では、違法残業が疑われるときの主な相談窓口について紹介します。
労働基準監督署は、厚生労働省の機関であり労働基準法違反の疑いがある場合に会社に対する調査や是正勧告を行います。
残業代未払いなどの労働基準法違反の疑いがある場合には、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に相談することができます。
| 労働基準監督署のメリット・デメリット | |
|---|---|
| メリット |
|
| デメリット |
|
会社に労働組合がある場合は、労働組合への相談も選択肢のひとつとなります。
労働組合には団体交渉権がありますので、労働者個人で会社と交渉するよりも、労働条件の改善を実現できる可能性が高くなります。
また、近年では個人でも加入できる地域ユニオン(合同労組)や、NPO法人などの無料相談窓口も充実していますので、そのような窓口で相談することも有効な手段といえます。
会社に対する未払い残業代をお考えの方は、以下のようなメリットがありますので、労働問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所では、残業代に関するご相談は何度でも無料です。
証拠の集め方や請求の見通しについてもご案内いたしますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

残業をしたのに残業代が支払われていないときは、会社に対して未払い残業代を請求することができます。
以下では、未払い残業代の請求方法と注意すべきポイントを説明します。
会社に対する未払い残業代請求は、以下のような流れで進めていきます。
未払い残業代の請求では、「実際に働いていたこと」と「賃金が支払われていないこと」を裏付ける証拠が不可欠です。
以下のような証拠を可能な限り確保しておきましょう。
なお、残業代請求に必要な証拠は、具体的な事案によって変わってきます。
適切な証拠を集めるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
残業代の請求には3年間の時効があります。
時効期間が経過後は残業代を請求できなくなりますので、未払い残業代があるときは1日でも早く行動することが重要です。
なお、時効期間が迫っているという場合は、内容証明郵便を送ることで一時的に時効期間の進行をストップ(時効の完成猶予)することができます。
ただし、6か月以内に必要に応じて労働審判や訴訟などの法的措置に移ることが重要です。時効が間近に迫っていても、まずは焦らず、弁護士にサポートを依頼するのが得策です。

労働基準法を正しく理解することで違法な残業や未払い残業代の存在に気付けるようになります。残業代の未払いが疑われる場合は、証拠を集めて早めに労働基準監督署または弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、証拠収集から未払い残業代の請求手続きまで、ご依頼者さまに合わせて最適なサポートをいたします。
残業代請求をお考えの方は、解決実績豊富なベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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