「毎月残業をしているけれども、きちんと残業代が支払われているのだろうか」など残業代の支払いに関して疑問を抱いている労働者の方も少なくないでしょう。
労働基準法では、残業代の支払いに関して詳細なルールを定めていますので、会社はそのルールに従って残業代を計算し、支払う義務があります。労働基準法のルールを誤解している会社では、適正な残業代が支払われていない可能性もありますので、労働者の側でチェックしていくことも大切です。
今回は、労働基準法における残業代の定義や残業代の未払いが生じているケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働基準法では、労働時間についてどのような規定がなされているのでしょうか。
以下では、労働基準法における残業代の規定や割増率について説明します。
労働基準法上の労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
労働基準法上の労働時間に該当するかどうかは、労働者が使用者の指揮命令下にいるかどうかを客観的に見ることで決まります。
労働契約や就業規則などで労働時間の定めがあったとしても、その労働時間は労働基準法で定められた労働時間とは異なるものですので、注意が必要です。
たとえば、就業規則で朝礼や掃除などは労働時間の範囲外とされていたとしても、それが使用者によって義務付けられているものであれば、使用者の指揮命令下に置かれていると評価され、労働基準法上の労働時間にあたる可能性があります
労働基準法上の労働時間にあたる場合には、その時間に対して、賃金の支払い義務が生じるのです。
労働者が、契約や就業規則で就業時間として定められている時間を超えて働いた場合には、会社はその超えた時間分について、残業代を支払わなければなりません。
労働基準法では、一定の場合には、通常の賃金に加えて、一定の割増率によって増額をした割増賃金の支払いが必要な場合がある、と定められています。
割増賃金の支払いが必要になる時間としては、以下の時間が挙げられます。
割増率については、契約や就業規則で労働基準法を超える別段の定めがない限り、労働基準法の割増率が適用されます。
時間外労働に対する割増率は、25%です。
労働基準法で定められている休日労働に対する割増率は、35%です。
労働基準法における深夜労働に対する割増率は、25%です。
契約上の労働時間を超えて労働をした場合には、原則として残業代の支払いが必要になりますが、例外的に残業代の支払いが不要となる場合があります。
代表的な残業代の支払いが不要なケースをご紹介します。
管理監督者とは、労働条件の決定やその他の法務管理について、経営者と一体的な立場にある人のことをいいます。
労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規制を受けることはありませんので、残業をしたとしても残業代の支払いは不要とされています。ただし、深夜手当は支払う必要があります。
管理監督者に該当するかどうかは、労働者に与えられた肩書や役職名ではなく、
などの実態に基づいて判断されます。
店長や部長、課長など役職が付いていたとしても、実態として自身の労働時間を自由に決めることができない立場である場合などには、管理監督者に該当しないと判断されます。
該当する範囲は非常に狭いものです。会社から管理監督者に該当すると説明された場合も、ご自身で判断せず、弁護士にご相談ください。
農業、畜産業、漁業、水産養殖業などの職業は、季節や天候といった自然の条件によって影響を受けることになります。
そのため、労働基準法による画一的な規制にはなじまないことから、労働時間や休日に関する制限は適用外とされています。
したがって、農業などに従事している方が残業をしたとしても、残業代を請求することはできません。
ただし、農業従事者であっても深夜手当の請求は可能ですし、所定労働時間を超えた場合の残業代の請求を認めた事例もあります。
請求できるかどうかは、具体的な事情によって異なりますので、弁護士にご相談ください。
労働基準法上の機密事務取扱者は、経営者が管理監督者と行動をともにするという業務の性質上、労働基準法による労働時間の規制が適切ではないと考えられています。
そのため、機密事務取扱者については、労働時間や休日に関する制限は適用外とされています。この場合も、深夜手当の支払いは必要です。
機密事務取扱者の例としては、社長秘書や役員秘書などが挙げられますが、具体的な職務内容により該当するかどうかは変わります。
ご自身で判断されず、弁護士にご相談ください。
裁量労働制が適用されている労働者については、実際の労働時間にかかわらず、一定の時間を労働したものとみなされますので、法定労働時間を超えて労働をしたとしても、残業代を請求することはできません。
裁量労働制を採用することができる業務について、
裁量労働制を適用することができます。
また、裁量労働制を適用するには、労働基準法により求められている細かい手続きを行う必要があります。
裁量労働制と説明されていても、実際はそうではないということも非常に多いため、会社からそのように説明されても、そのまま鵜呑みにせず、検証するようにしましょう。
上記では、代表的な例をいくつかご紹介しました。
他にも、雇用契約の内容や勤務状況・勤務実態によっては、残業代の支払いが不要と判断されるケースもあります。
しかしながら、残業代の支払いが不要となるのは例外的な場合のみであり、原則として会社は残業代を支払う義務があります。
時間外労働をしているのに会社から残業代をもらえていない場合には、まずは弁護士に相談しましょう。
以下では、「時間外労働」、「休日労働」、「深夜労働」の3つのケースについて、具体的な割増賃金の計算方法を説明していきましょう。
所定労働時間が、午前9時から午後5時(休憩1時間)とされている会社で、午前9時から午後8時まで労働をした場合には、時間外労働に対する割増賃金の計算は、以下のようになります。
なお、1日の労働時間の集計にあたって、端数が生じることがありますが、端数の切り捨ては認められていません。
そのため、労働時間をカウントする際には、1分単位で計算をする必要があります。
週休2日制で土日休みとされている会社において、土日とも働いた場合には、週1日の法定休日に働いたことになります。
所定労働時間が、午前9時から午後5時(休憩1時間)とされている会社で、午前9時から午後8時まで休日労働をした場合には、休日労働に対する割増賃金の計算は、以下のようになります。
なお、休日労働については、法定労働時間がありませんので、休日労働をしたとしても時間外労働に対する割増賃金は発生しません。
ただし、休日労働についても、その勤務が深夜(22時~5時)に及ぶ場合には、その時間内の労働時間については、1時間当たりの賃金×160%で計算します。
所定労働時間が、午前9時から午後5時(休憩1時間)とされている会社で、午前9時から午後11時まで労働をした場合には、割増賃金の計算は、以下のようになります。
以下のようなケースでは、残業代の未払いが生じている可能性があります。
会社によっては、サービス残業が常態化しており、残業をしても残業代が支払われない状態になっていることも少なくないでしょう。
しかし、残業をした場合には、残業時間に応じた残業代が支払われなければなりません。
サービス残業を理由に残業代を支払わないということは、労働基準法違反となり、使用者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
また、労働者は会社に対して残業代の請求ができます。
請求に備えて、タイムカードは正確に打刻するなど、証拠を確保するよう心がけましょう。
会社によっては、毎月の給料に固定残業代を含めて支払っていることがあります。
固定残業代とは、毎月の残業時間の長短にかかわらず、あらかじめ定めた額の残業代を支払うという制度です。
固定残業代が支払われていたとしても、固定残業代として想定されている残業時間を超えて働いた場合には、超えた分については別途残業代の支払いが必要となります。
そのため、固定残業代が支払われているという理由で、一切残業代の支払いをしないという扱いは許されません。残業代を請求することができます。
労働者には、労働基準法により、少なくとも週1回以上の休日が保障されています。法定休日に働かせることも可能ですが、その場合には、予め振替休日を与えるか、法定の割増率により増額された割増賃金の支払いが必要です。
休日出勤をしたにもかかわらず、休日の振替も行われず、通常の賃金しか支払われていないという場合には、労働基準法違反となりますし、残業代の請求が可能です。
労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、残業代の支払いは不要となります。
労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかは、実態を踏まえて判断することになるのですが、この判断を間違っている会社もあります。
たとえば、労働者に与えられた肩書や役職名だけで形式的に管理監督者にあたるかどうかを判断している場合です。
このような「名ばかり管理職」と呼ばれているケースは、労働基準法上の管理監督者に該当しませんので、残業代の支払いが必要となり、残業代の支払いをしない場合には労働基準法違反となります。
名ばかり管理職の方は、一切残業代が支払われていない場合も多いため、未払残業代の額も大きくなっていることが多いです。会社から管理監督者に該当すると説明されたとしても、うのみにせず、弁護士にご相談ください。
未払いの残業代がある場合、以下のような流れで請求していきます。
残業代を請求する場合には、労働者の側で残業代の発生を証拠によって立証する必要があります。そのため、残業代請求の前提として、残業代に関する証拠収集が重要です。
残業代に関する証拠としては、タイムカードが代表的な証拠となりますが、タイムカード以外にも、業務日報、メールの送受信記録、パソコンのログイン・ログアウト記録なども証拠となります。
手持ちの証拠がない場合にも、弁護士が通知を送って開示を求めることで、会社から資料が出てくることもあります。まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。
残業代に関する証拠収集ができたら、次は、未払いの残業代を計算します。
残業代の計算は、時間外労働、休日労働、深夜労働で分けて計算をしなければならないなど、非常に細かい計算になってきます。
労働基準法などの関係法令の正確な知識と理解がなければ正しい計算をすることができませんので、労働問題に詳しい弁護士のサポートを受けながら残業代計算を進めていくとよいでしょう。
未払いの残業代計算ができたら、会社に対して未払い残業代の請求をしていきます。
まずは、話し合いによって未払いの残業代の支払いを求めていきますが、話し合いによる解決が難しいという場合には労働審判や裁判といった法的手段を講じていく必要があります。このような請求手続きを適切に進めていくためには、弁護士のサポートが不可欠です。
また、残業代請求権は、給料日の翌日から3年で時効となってしまいますので、残業代請求をお考えの方は、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
労働基準法違反となる残業代未払いのケースを紹介しましたが、今回紹介したケース以外にも残業代の未払いが問題となるケースも存在します。
弁護士であれば、残業代請求に必要となる証拠収集のアドバイスから残業代の正しい計算、法的な手続きのサポートまでトータルでサポートすることが可能です。
会社に対する残業代請求をお考えの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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