総務省発表の労働力調査によると、令和2年における正規の職員・従業員は3529万人、非正規の職員・従業員は2090万人でした。
多くの方が正社員として勤務しているわけですが、正社員の残業代支給における正しいルールを知らない方も多いのではないでしょうか。
今回は、残業代の計算方法や勤務形態別の支給条件、業種別平均額など、正社員として働いているなら知っておきたい、残業代に関する基本情報を解説します。
まずは、正社員の残業代に関する基本的なルールについて解説します。
ちなみに、法律上の定義があるわけではありませんが、正社員とは、一般的には、労働契約に期間の定めがなく、フルタイム・直接雇用の労働者のことを指します。
正社員は正規労働者とも言われ、パートタイム労働者や嘱託社員などの非正規労働者と区別されます。
① 原則、労働時間の上限は「週40時間、1日8時間」まで
労働基準法第32条では「週40時間、1日8時間」を労働時間の上限としています。これを「法定労働時間」といいます。
法定労働時間を超えて労働した分(時間外労働)に対しては、1時間当たり賃金の25%以上の割増率で計算した賃金が支払われます(労働基準法第37条1項)。
これが残業代の基本ルールです。
会社が法定労働時間を超えて労働させることは原則として違法であり、適法とするためには労働基準法第36条に基づく労使協定が必要です(通称サブロク協定)。
② 労使協定を結んでいても、無制限に残業をさせられるわけではない
また、協定さえ結べば残業が無制限に許されるわけではなく、労働基準法によって限度時間が設定されています。限度時間は原則として「月45時間、年360時間」までです(労働基準法第36条3項、4項)。
また、労使協定に特別の定めが設けられていれば、「通常予見することができない理由」により大幅に業務量が増加し、上記限度時間を超えて労働時間を延長する必要がある場合に限り、限度時間を超えて労働させることができます(労働基準法第36条5項)。
しかし、その場合でも無制限に労働時間を延長できるわけではありません。
など、様々な制限が設けられています。
「所定労働時間」とは、会社・労働者間の契約で定められた労働時間のことです。
法定労働時間の範囲内で自由に設定することができます。
時短勤務など所定労働時間が短い労働者であれば、その労働時間が法定労働時間の範囲内であっても、残業(法定内残業)が発生する可能性があります。
所定労働時間を超えるものの法定労働時間を超えない範囲で労働した場合には、法律上、賃金の割り増しはなく、割増のない残業代が発生します。
ただし、会社が独自に割増賃金を設定している場合には、割増賃金が支払われます。
基本的な残業代の計算方法と、あわせて知っておきたい基礎知識について解説します。
残業代は次の計算式で算出します。
時間当たりの基礎賃金とは、いわば時給のようなものです。
時間当たりの基礎賃金額は、月給制の場合、以下の計算式から割り出します。
なお、「諸手当」は役職手当や資格手当などのように労働の対価としての性質をもつものに限られます。住宅手当、子女教育手当など労働者個人の事情に配慮して支給される手当は原則として含まれません。
このように、ある手当が基礎賃金に含まれるかどうかは、その名称ではなく、実質的に判断されます。
割増率は以下のとおりです。
① 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて残業した場合
25%以上割り増しして計算します。
② 深夜時間(22時~5時)に残業した場合
25%以上割り増しして計算します。
③ 法定休日労働の場合
使用者(会社)は、労働者に対し、原則として週1回の休日を与えなければならないとされていますが(労働基準法第35条1項)、これを法定休日と呼びます。
そして、法定休日における労働については、35%以上割り増しして計算します。
なお、法定休日以外の休日に残業した場合は、通常の勤務日における労働と同じ扱いとなり、35%以上の割り増しの対象にはなりません。
④ 割り増しの対象となる時間が重なる場合
たとえば、時間外労働が深夜の22時以降にまでおよんだ場合には、
です。
法定休日労働でかつ22時以降の労働であれば
となります。
なお、法定休日に1日8時間を超えて働いた場合は、法定休日には時間外労働に関する規制は及ばないため、8時間を超える部分についても、35%以上となります。
① 残業代請求は時効がある
計算式に従い残業代を計算し、いざ請求しようとしても、請求権が時効により消滅しているかもしれません。
令和2年4月より前の残業代の請求権については2年で時効が完成します。
なお、労働基準法の改正により、令和2年4月1日以降に支払われる残業代の時効期間は5年(ただし、経過措置として、当分の間は3年となります。)に変更されています(労働基準法第115条及び第143条3項)。
② 時効の進行を止める手段
時効の進行を止めるためには、裁判や労働審判などで残業代の支払いを請求するか、会社から債務履行の承認を得る必要があります。
また、会社に対して、残業代の支払いを求める(催告)ことでも、6か月間は時効の進行を止めることができます。
「正社員」と一言で言っても、さまざまな形態が存在します。
勤務形態によって残業代を請求できるかどうかが異なるため、自身の勤務形態に照らして判断する必要があります。
勤務形態別に残業代が発生する条件について見ていきましょう。
フレックスタイム制とは、あらかじめ3か月以内の期間(清算期間)と期間中の総労働時間を設定し、業務の始業・終業時刻は労働者自らが決める制度です(労働基準法第32条の3第1項)。
フレックスタイム制では1日や1週間の法定労働時間を超えても、ただちに残業代が発生するわけではありません。
実労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠(※)を超えて労働した場合に時間外労働となり、残業代の請求ができます。
(※1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦日数/7)
実労働時間のうち、総労働時間を超えるが法定労働時間の総枠を超えない部分については、割り増しのない通常賃金の請求が可能です。
また、フレックスタイム制でも、深夜労働や、法定休日に労働した場合は、深夜手当や休日割増賃金を請求できます。
清算期間が1か月を超える場合
また清算期間が1か月を超える場合は、清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えないことに加え、1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超えることもできません(労働基準法第32条の3第2項)。
いずれかを超えた場合は時間外労働となり、残業代請求の対象になります。
繁忙期にのみ極端に長く働かせることなどはできないように設けられている規定です。
裁量労働制とは、業務の性質に照らして実労働時間を算定することが不適当な一定の業務について、業務の進め方や時間配分などの決定に関し、労働者の裁量に任せるという制度です(労働基準法第38条の3及び第38条の4))。
運用にあたっては、労使協定などによって「みなし労働時間」を定めます。
たとえば設定されたみなし労働時間が8時間の場合、1日11時間働いても5時間働いても、8時間働いたとみなすというものです。
ただし、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、時間外労働として残業代が発生します。また深夜労働や休日出勤をした場合についても、それぞれ割増賃金の対象です。
みなし残業制とは、あらかじめ決められた残業時間分の残業代を、あらかじめ基本給などの固定賃金に含めて支給する制度です。固定残業代制とも呼ばれています。
みなし残業制においては、実際の残業時間があらかじめ定めた時間を超えた場合には、その超過時間分の残業代を別途請求することができます。
また、実際の残業時間が、固定残業代分の残業時間を下回った場合でも、会社は、固定残業代を減額することはできません。
変形労働時間制とは、一定期間の平均労働時間が週40時間という法定労働時間の枠内に収まっていれば、特定の日または週に法定労働時間を超えても時間外労働とは扱わない制度です(労働基準法第32条の2及び第32条の4)。
変形労働時間制を導入するには、あらかじめ対象期間や労働日ごとの労働時間(所定労働時間)などを設定する必要があり、所定労働時間を超えて働いた分には残業代が発生します。
ただし所定労働時間が法定労働時間内の場合、深夜労働などに該当しなければ、法律上の割増賃金は発生しません。
今回は正社員の残業代の基本ルールについて解説しました。
正社員と言っても、業種や勤務形態によって受け取る残業代が大きく異なります。また残業代の仕組みや計算方法は複雑なので、正確な残業代を知るのは難しい場合があります。
もし残業が常態化しているにもかかわらず、残業代が一切支給されていなかったり、未払い残業代があるのではと疑いが強かったりするようでしたら、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
弁護士が親身になってお話をうかがい、適法なのかどうか判断するとともに、違法な場合には解決に向けてサポートいたします。
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