近年、デジタル庁の新設が予定されるなどデジタル化がますます推進される中、需要が高まっている職種がプログラマーです。
プログラマーといえば、毎日残業ばかりで休日出勤も当たり前という劣悪な環境で働いている人、というイメージのある方もいるでしょう。また長時間労働にもかかわらず、裁量労働制などを理由に、残業代を一切支払ってもらえないケースもあるようです。
本記事では、プログラマーの労働において採用されやすい「裁量労働制」とはどのような働き方なのか、プログラマーが裁量労働制で働く場合には本当に残業代を請求できないのか、そもそもの労働時間の考え方と併せて解説します。
プログラマーは裁量労働制を理由に残業代が支給されない場合がありますが、果たして法的に問題はないのでしょうか?
それを知るために、まずは法律における労働時間の基本的な考え方について押さえておく必要があります。詳しく見ていきましょう。
① 法定労働時間
労働基準法では、労働時間の上限を「1日8時間、週40時間」までと定めています(労働基準法32条)。これが法定労働時間です。
会社が法定労働時間を超えて労働者を働かせるには、36協定の締結と所轄労働基準監督署への届け出という手続きを行う必要があります。
② 所定労働時間
これに対し、会社と労働者との契約で定められた労働時間を所定労働時間といいます。
所定労働時間は会社が自由に設定することができますが、法定労働時間の範囲内に収めなければなりません。
労働者が所定労働時間を超えて労働した場合、残業代が発生します。
さらに、法定労働時間を超えて残業した場合には、超えた分について割増賃金(1.25倍)が支払われなければなりません。
たとえば、所定労働時間が7時間の会社で2時間残業した場合は2時間分の残業代が発生しますが、そのうち割増賃金が支払われるのは法定労働時間(1日8時間)を超える1時間分のみで、法定労働時間を超えない1時間は通常賃金が支払われることになります。
過去に遡って残業代を請求する場合、時効があることに注意が必要です。
令和2年4月1日からの改正労働基準法施行により、当面の間、未払い残業代の時効が2年から3年に延長されました。
ただし、3年の時効にかかるのは令和2年4月1日以降に発生した未払い残業代であり、令和2年3月31日までに発生した未払い残業代の時効は2年のままです。この点は注意が必要です。
プログラマーの場合、裁量労働制で働いているケースが多いでしょう。
裁量労働制で働く場合、残業代は一切払われないと誤解されている方も多いのですが、実際はそうではありません。
そもそも裁量労働制とは何か、どのような場合に適用されるのかについて確認します。
裁量労働制とは、労働時間を実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と決めた「一定の時間」とみなす制度です。業務の性質上、業務を実施する方法や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用されます。
本来、労働者が効率的に働くための制度ですが、実労働時間に応じた残業代が発生しないことから、不当な長時間労働につながるおそれもあります。
そのため、裁量労働制を導入できる職種や導入するための手続きについて、法律で厳格な要件が定められているのです。
裁量労働制には、大きく分けて「専門業務型」(労働基準法38条の3)と「企画業務型」(労働基準法38条の4)の2種類があります。
このうち、IT業界のエンジニアに適用される可能性があるのは、「専門業務型」です。
「専門業務型」の対象業務は厚生労働省令および厚生労働大臣告示によって定められた19種類に限られていますが、その一つに「情報処理システムの分析または設計の業務」が挙げられています。
ただし、「情報処理システムの分析または設計の業務」に該当する職種はシステム設計について裁量性があるエンジニアに限られ、基本的にプログラマーは含まれないものとされています(裁判例においても、プログラミングについては、その性質上裁量性の高い業務ではない、として専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと判断されています。(京都地判平23・10・31))。
そのため、プログラムの設計・作成を行う一般的なプログラマーが裁量労働制のもとで働いている場合は、違法の可能性が高いでしょう。
裁量労働制を導入するにあたっては、制度の対象となる業務や労働時間としてみなす時間などをあらかじめ労使協定により定めたうえで、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
よって、労使協定の定めや所轄の労働基準監督署への届け出もなく、裁量労働制を導入している場合は、違法です。
裁量労働制が適用される場合でも、以下の場合は残業代を請求することができます。
① みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合
みなし労働時間にも労働基準法の規定は適用されます。
みなし労働時間が1日8時間、週40時間を超える場合は時間外労働となり、割増賃金が発生します。
② 深夜労働の場合
労働者が深夜(22時~翌朝5時)に勤務した場合には、裁量労働制の適用の有無にかかわらず、深夜労働の割増賃金(時給の1.25倍)が発生します(労働基準法37条4項)。
③ 法定休日に勤務した場合
法定休日に勤務した場合、同じく裁量労働制の適用の有無にかかわらず、労働時間数に応じた割増賃金(時給の1.35倍)が発生します(労働基準法37条1項)。
残業代を請求するにあたっては、証拠の収集が何よりも重要です。
証拠がなければ会社側も残業代の支払いには応じてくれないでしょう。
いずれ裁判となった場合も、裁判所に残業代の支払いを認めてもらうには証拠の提出が求められます。残業代の発生を証明するのは、労働者側に責任があるからです。
では、プログラマーが残業を証明するには、具体的にどのような証拠を準備したらよいのでしょうか。
残業時間を示す証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
などです。
そのほか、プログラマーはパソコンを使う業務なので、
など、これらも残業時間を証明する証拠となるでしょう。
また、プログラマーの労働条件や実際に支払われた給与額を示す証拠としては、以下のものが挙げられます。
これらによって、労働者と会社との契約内容や、残業した場合にいくらの残業代が発生するのかを証明することが可能です。
ただし証拠の中には、退職後に集めるのは困難なものもあります。
残業代の請求を考えている場合は、できる限り在職中にコピーを取るなどして証拠を確保するようにしましょう。
プログラマーとして働く中で未払いの残業代があると感じたら弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談すると以下のサポートを受けられます。
プログラマーの場合、雇用契約ではなく業務委託契約であったり、裁量労働制が採用されていたりするなど、特殊な契約形態が採られるケースが多く見られます。
一見すると残業代が発生しない契約でも、実態を見れば雇用契約と同視できる場合や、実際には裁量労働制を導入する条件を満たしていない場合などは、残業代を請求することが可能です。
弁護士に相談すれば、あなたの契約内容や雇用形態に法的な問題はないか、アドバイスを受けることができます。これまでは残業代の請求を諦めていたかもしれませんが、弁護士に相談してみたら、実は請求できることが分かるかもしれません。
会社が残業代の支払いに応じない場合は、労働審判または裁判を申し立てることができます。しかし裁判所への手続きや審判・裁判での主張には法律の知識が必要となるため、労働者がひとりで立ち向かうのは困難です。
弁護士であれば法律の知識をもとに残業代の金額を正確に計算してくれます。
また、弁護士には、会社との交渉も任せられますので、労働審判や裁判に発展する前に早期に解決できる可能性もあるでしょう。
万が一、労働審判や裁判に発展した場合にも、裁判所への手続きや法廷での活動を依頼できます。
弁護士に相談すれば、残業代を請求するにあたってどのような証拠が有効なのか、アドバイスを受けることができます。
また、すでに退職していて十分な証拠が手元にない場合でも、弁護士が開示請求することにより、会社から証拠を取り寄せられる場合もあります。
プログラマーなどが所属するIT業界は、厳しい納期や人手不足などが原因で長時間労働になりやすい業界といわれています。しかし、IT業界であっても、残業した分の賃金を確実に支払われなければならないことには変わりありません。
もしもあなたが長時間労働をしているにもかかわらず、残業代がきちんと支払われていないのではないかと思った場合には、労働問題の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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