長時間労働しているはずなのに、相応の対価が得られていない……。
こんな悩みを抱えている方は少なくないでしょう。未払いの残業代があるのではないかと疑う気持ちがあっても、会社へ直接確認することができず、泣き寝入りの状態に陥っているかもしれません。
会社へ未払いの残業代を請求するためには、労働時間の定義や残業代の計算方法といった知識を備えておくと役に立ちます。どこからが残業にあたるのか、残業代はどのように計算するのかなど、残業代に関する正しい知識について弁護士が解説します。
なにをもって「長時間労働」と呼ぶのかについて明確な定義はありません。
しかし、労働基準法や労働安全衛生法などの法律・過労死ラインなどが一定の目安となります。
労働時間の原則は、「1日8時間、週40時間」です(労働基準法第32条)。
この時間は法定労働時間といい、法定労働時間を超えて残業をさせる場合には、労働基準法第36条に基づき労使協定(いわゆる36協定)を労働基準監督署長へ届け出なければなりません。
36協定の届出がされた場合には、例外的に時間外・休日労働が可能になりますが、上限が定められており、「1か月45時間」「2か月81時間」「3か月120時間」「1年360時間」となっています。
臨時的で特別な事情がある場合には特別条項をつけた36協定を締結し、時間外労働の上限を延長することは可能ですが、それでも「複数月平均80時間以内」「月100時間以内」「年720時間以内」という制限があります。
また、労働基準法から派生し、労働災害の危険防止基準や責任体制などを定めた労働安全衛生法においては、医師による面接指導の対象となる残業時間を「月80時間超」としています。
過労死とは、業務上の過重な負荷によって病気や死亡、自殺に追い込まれることをいいます。そして過労死リスクが高まる目安となる労働時間がいわゆる「過労死ライン」です。
過労死ラインを超えるほどの長時間労働をすると、健康障害と長時間労働との因果関係が相当にあるとして労災と認定されやすくなります。
厚生労働省が脳・心臓疾患を労災認定するための要件や基本的な考え方を示した「脳・心臓疾患の認定基準」によれば、
ような場合は、業務と発症との関連性が強いと評価されます。
ここまでの内容から、長時間労働の定義として「月80時間の残業」がひとつの目安といえるでしょう。
ただし、80時間以上の残業がなければ長時間と認められない、というわけではありません。労働基準法が残業の上限を月45時間と定めていることを考えても、残業が月45時間を超えるのは決して好ましくないといえるはずです。
「脳・心臓疾患の認定基準」でも、月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性が強まると指摘されています。
そもそもどこから「残業」と呼べるのかを解説します。
まず、「法定労働時間」「所定労働時間」の違いを押さえておく必要があります。
所定労働時間を超えて働くと残業と呼ぶこともありますが、本コラムでは、法定時間外労働を残業と定義します。
残業をするには、労働者と使用者との間で、対象となる業務の種類や時間外労働の上限などを決める必要があります。労働基準法第36条に定められていることから36協定と呼び、所轄の労働基準監督署に届出を行います。
上記の内容を踏まえ、具体的なケースで確認してみましょう。
例:午前9:00~午後5:00までの勤務で、休憩が1時間の契約の場合
この場合、所定労働時間は7時間です。
この場合、午後6:00まで働いても実労働は8時間となり法定労働時間を超えないため、割増賃金の対象となりません。
一方、同じ契約で午後7:00まで働くと、実際に働いた時間は9時間となり、法定労働時間をオーバーしています。法定労働時間内である午後5:00~6:00までは通常の賃金が、法定労働時間を超える午後6:00~7:00までは割増賃金を受け取ることができます。
36協定はあくまでも残業を可能にするための協定であり、会社は割増賃金の支払い義務を免れるものではありません。誤った運用で残業代が支給されず、あるいは減額されているのなら、サービス残業という名の法違反にほかなりません。
1日8時間、週40時間を超えた労働(時間外労働)に対する割増率は2割5分です。
ただし、時間外労働が1か月に60時間を超える分は5割以上の率で計算します。
中小企業は猶予措置がありますが、令和5年4月1日より適用されます。
使用者は労働者に対し、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません。
例外として、4週間に4回の休日を与えることもできます。この週1回の休日を法定休日といい、この日に労働させた場合には休日割増賃金が発生します。
割増率は3割5分です。
深夜労働とは、所定労働時間内であるか否かを問わず、午後10時から午前5時までの時間帯における労働をいいます。割増率は2割5分です。
例えば、時間外労働をしたうえで深夜に至っている場合は、時間外の2割5分と深夜の2割5分を足して5割になります。
勤務形態や支給方法によって「あなたには残業代の支払いは不要」と言ってくる会社は少なくありません。しかし、それは会社の勝手な言い分であり、法的には残業代の支払いが必要であるケースも多くあります。
あなたが以下の勤務形態・支給方法の場合には、注意が必要です。
事務処理を簡略化するため、現実の時間外労働の有無や長短にかかわらず、一定時間分の定額の残業代を支払うというものです。
ただし固定残業代の範囲でいくら残業させてもよいという趣旨ではなく、予定した残業を超えて働いた分は残業代の支払いが必要です。
年間で定めた賃金を月々支払っているにすぎません。 基本的な考え方は月給制などと同じであり、法定労働時間を超えれば残業代の支払いが必要です。個人事業主にあたるプロスポーツ選手の年俸制とは全く別の話です。
始業時刻前でも働けば時間外労働です。
たとえば朝の始業時刻前に職場の掃除や朝礼を強制する場合、それは業務にあたるため本来は賃金が発生します。
労働基準法の管理監督者に該当する場合、労働時間、休憩、休日に関する規定から除外されるため、深夜労働に対する割増賃金の支払いを除き、残業代の支払いは不要です(労働基準法第41条2号)。
ただし、管理監督者か否かは役職名ではなく、職務内容や権限、勤務態様、待遇などの実態から判断されるため、管理監督者にはあたらない「名ばかり管理職」も多いでしょう。
※名ばかり管理職の残業代について、詳しくは「名ばかり管理職のコラム」をご覧ください。
これら以外にも「うちは昔から残業代を払わない風習だから」「手当に含まれているから」など、様々な理由をつけて、残業代の支払いをしない会社は数多くあります。
会社の言い分が法的に正当なのか、気になる方は弁護士に相談することをおすすめします。
月給制の場合、以下の式で算出されます。
ここでいう月給には、家族手当、通勤手当、住宅手当といった手当は基本的には含みません(労働基準法第37条第5項、施行規則第21条)。
これらは労働との関係が薄く、労働者の個人的な事情によって異なるものだからです。
1か月あたりの平均所定労働時間は以下の式で算出します。
なお、所定労働時間は休憩時間を除いた時間を指し、一般にいう勤務時間とは異なります。
労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間があるはずですので、勤務時間から引いて考えましょう。
時間外労働は、
を、合算します。
休日労働は、法定休日に働いた時間をカウントします。
仮に土日休みの会社で、土曜日を所定休日、日曜日を法定休日と定めてあれば、日曜日のみが割増の対象となります。
深夜労働は午後10:00から朝5:00までに働いた時間です。
以下の条件をもとに、1か月の残業代を計算してみましょう。
休日や深夜労働はしていないと仮定します。
最初に、1時間あたりの賃金額を算出します。
次に、残業した時間と割増率をかけて残業代を算出します。
前述のとおり、時間外労働の割増率は2割5分です。
今回は長時間労働の意味や残業代の計算方法を中心に解説しました。
長時間労働が続いているものの、会社の言い分に不本意ながらも納得し、残業代を受け取れていない方は少なくないでしょう。
しかし、労働基準法では残業に対する割増賃金の支給義務が明記されており、会社の主張が間違っているケースは散見されます。労働時間の定義や残業の計算方法を理解すれば、残業代の請求に向けた行動につながるはずです。
残業代について不明な点やお困りの点があれば、まずはベリーベスト法律事務所へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
残業代請求、不当解雇・退職勧奨、同一労働同一賃金、退職サポート、労働災害、労働条件・ハラスメントに関するトラブルなど、幅広く労働者のお悩み解決をサポートします。ぜひお気軽に お問い合わせください。
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