多くの会社では労働時間がタイムカードなどによって管理されています。
しかし、中にはタイムカードが存在しない会社や、タイムカードを打刻させた後で仕事をさせる会社もあります。このような場合、残業代を請求することはできるのでしょうか。
ここでは、残業の定義やタイムカードの役割、未払い残業代を請求する方法、確保しておくべき証拠などについて解説を行います。
会社が、労働者に対して、残業代が発生する労働を行ったのに残業代を支払わない、いわゆる「サービス残業」は違法です。
サービス残業の規制は、労働基準法第37条にあります。同条では、時間外労働、休日労働や深夜労働に対しては割増賃金を支払わねばならないと定められています。
時間外労働とは法定労働時間を超えてなされた労働です。法定労働時間は1日あたり8時間、週に40時間と定められています。これを超えてなされた労働は、時間外労働として扱われ残業代の支給対象となるのが原則です。
なお、会社や労働者ごとの労働契約によって定められる所定労働時間とは異なるため注意が必要です。
労働者には残業代を会社に請求する権利があります。残業代は1分単位で請求できるのが法律上の原則です(労働基準法第37条)。
労働者が残業したにもかかわらず、会社が残業代を支払わないことは違法であり、懲役6ヶ月以下または30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第119条1号)。
タイムカードがある会社では、労働時間はタイムカードの打刻によって示されます。
仮に会社との間で裁判となった場合、タイムカードの打刻時間が実際に働いた時間(実働時間)として判断される可能性は高いです
労働関係の重要書類は、会社に3年間の保管義務が課せられています。
タイムカードなど、労働時間の記録も該当します。保管義務に違反した場合、労働基準法第120条によって、会社には30万円以下の罰金が科されます。
つまり、勤務先にタイムカードがある場合、少なくとも3年前までの労働時間記録は証拠として確保できる可能性が高いです。
労働者が未払い残業代を会社へ請求する場合には、タイムカードの記録が残業した事実を示す根拠となります。よって、タイムカードさえ正確に打刻されていれば、いつ、何時間の残業をしていて、いくら請求するのかが明確となります。タイムカードの記録は、残業代の請求に際して非常に重要な証拠となります。
問題は、タイムカードが存在しないケースや、タイムカードの記録と実働時間が食い違っているケースです。
あらゆる会社にタイムカードが存在しているとは限りません。
当然ながら、タイムカード以外の方法で、労働者の労働時間を管理している会社は存在します。
このようなケースでも、労働者がタイムカード以外の証拠を保有し、実働時間を示すことができれば、残業代を会社に請求することは可能です。
タイムカード以外で証拠となり得るものにはどのようなものがあるのか、第5章で詳しく解説していきます。
タイムカードに記録された時間と実働時間が食い違うケースはなぜ発生するのでしょうか。その理由のひとつとして、会社が意図的に違法な運用をしていることが考えられます。
まず、上司の指示によって定時になったら部下にタイムカードの打刻を指示するようなケースがあります。これによって、会社が労働者に対し、残業代が発生する労働を行ったのに残業代を支払わない場合には、当然違法となります(労働基準法第37条)
また、持ち帰り残業を指示しているようなケースがあります。まだ業務が残っているにもかかわらず定時になったら労働者を帰宅させ、家で業務を指示しているようなケースです。家に持ち帰った仕事も残業に変わりはないため、労働時間として扱われるべきです。
ほかにも、終礼やオフィスの清掃、制服から私服への着替えなどをタイムカード打刻後に行わせているケースがあります。それらのことも本来はタイムカード打刻前にさせるべきでしょう。
未払い残業代の請求において実働時間を示すためには、客観的な証拠が必要となります。
労働者本人の記憶による主張ではなく、裁判官などの第三者にも示せる記録が重要です。
客観的な証拠としては、以上で述べた通り、タイムカードがあれば有力な証拠となるのですが、タイムカードがない場合、またはタイムカードが実働時間と一致しない場合でも、たとえば業務に関する電子メールの送受信履歴やFAXの送受信履歴、会社の業務用PCのログイン・ログアウト時間、取引先との通話や応対の履歴などのように、「少なくともその時間までは仕事をしていたこと」が示せる履歴・記録が挙げられます。
また、デジタルデータやアナログの記録だけではなく、「○○さんはいつも20時過ぎまで会社に残っています」などといった同僚の証言も証拠となり得ます。
さらに、自分の手元や勤め先にある記録だけではなく、取引先に記録がある場合、それも証拠とすることが可能です。裁判では、そうした証拠を積み重ねることで、実態に合わせた労働時間の主張と賃金の請求をしていくことになります。
加えて、プライベートでの家族に帰宅を告げるメールや、アナログのスケジュール帳・メモ帳への書き込みといったものも証拠となり得ます。
ただし、本人が書いたメモ等に関しては、後からでも記載できるという点で、客観的な証拠としての価値は低くなる、という点には注意が必要です。
タイムカードがない場合、または、タイムカードに実労働時間が記録されていない場合の未払い残業代の請求にあたっては弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することのメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
会社に未払い残業代を請求していく場合、証拠を用意する必要があります。
しかし、何が客観的な証拠となるのかの判断は難しく、証拠によっては収集方法もわからない場合があります。
弁護士は何をどのように集めればよいのかをアドバイスできるため、時間や労力を無駄にすることなく、的確に証拠集めをしていくことができます。
残業の記録が散逸していたり、紛失していたりするような場合、みなし残業などの契約形態で残業時間の計算方法がわかりにくい場合など、未払い残業代を労働者個人で計算するのも大変です。また、労働者個人が会社と交渉しようとしても、まともに相手をしてもらえない場合があります。
弁護士であれば、未払い残業代の計算はもとより、たとえ会社が大企業であったとしても的確に対応できるため、着実に交渉を進めていくことができます。
残業代の請求は交渉の末、和解に至ることも少なくありませんが、たとえ裁判まで発展したとしても、弁護士は代理人として、残業代の請求に関し、必要な証拠を適示したうえで、法的主張をすることができます。
今回は、タイムカードと実働時間が異なる場合における残業代請求の方法について解説してきました。
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