施主は、住宅の耐震性能に関心があるため、建築途中の建物の基礎にクラックを発見した場合、その対応をめぐって施主とトラブルになることもあるでしょう。
基礎に生じるクラックは、幅や深さによって危険度が異なり、適切な補修をすれば問題ないものもあります。そのことを施主に説明したとしても理解してもらえない場合には、施工会社はどのような対応をすればよいでしょうか。
今回は、建物の基礎にクラックが発生した場合の施工会社の対応方法について、ベリーベスト法律事務所に所属する弁護士が解説します。
建物に瑕疵が存在する場合には、施工会社に法的責任が生じることがあります。ここでいう「瑕疵」とはどのような状態をいうのでしょうか。
「瑕疵」とは、目的物に何らかの不具合や欠陥があり、契約内容で定めた品質や性能を欠く状態のことをいいます。改正前の民法では、請負契約の目的物に瑕疵が存在した場合の「瑕疵担保責任」を定めていましたが、民法改正により「瑕疵」という用語は、「契約不適合」という言葉に置き換えられました。そのため、現在では、「瑕疵担保責任」という用語ではなく、「契約不適合責任」という用語が利用されています。
建物建築における瑕疵は、契約当事者がどのような品質・性能を予定しているかが重要な基準になりますので、契約書、設計図書、見積書、打ち合わせ議事録や建築基準法などの法令を基準に判断していくことになります。
施工会社が建築した建物に瑕疵があった場合には、施工会社は、以下のような法的責任を負う場合があります。
① 契約不適合責任
完成した新築建物に瑕疵が存在する場合には、施工会社は、契約不適合責任を負うことになります。施工会社が負う可能性のある契約不適合責任の内容は、以下のものが挙げられます。
② 不法行為責任
施主と施工会社とは、建物の建築に関して請負契約を締結した当事者同士ですので、建物に瑕疵がある場合には、上記の契約不適合責任を追及するのが一般的です。
しかし、契約不適合責任の場合には、不適合を知ったときから1年または引き渡しから10年で時効になるのに対して、不法行為責任の場合には、損害を知ったときから3年または不法行為時から20年で時効になるため、不法行為責任を追及される可能性もあります。
ただし、契約不適合がある場合に、常に不法行為責任の追及ができるというものではありません。判例では、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、建物を建設した請負人が不法行為責任を負担することが認められています。居住者等の生命、身体、財産に危険を及ぼすようなものであるときが、こうした瑕疵に当たり、不法行為責任が追及できると考えられているのです。
施工会社が負う不法行為責任は、損害賠償のみであり、瑕疵の修補などを請求することはできません。
基礎にクラックが発生したとしても、クラックが生じた原因やクラックによる影響によって施工会社の責任は変わります。
基礎のクラックとは、コンクリートのひび割れのことであり、ひび割れの程度によって、施工会社の取るべき対応も変わってきます。
仮に基礎にクラックが発生したとしても、それが直ちに瑕疵にあたるというわけではありません。クラックの幅、原因などを踏まえて施工会社の責任を判断することが大切です。
国土交通省1653号の告示では、ひび割れの幅以外にも検討すべき要素はありますが、幅0.3mm以上0.5mm未満のひび割れであれば、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存在する、幅0.5mm以上のひび割れであれば、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高いとされています。
幅0.3mmにもならない、基礎の表面に生じる髪の毛のように細かいひび割れ(ヘアークラックと呼ばれるものです)程度であれば、美観上の問題はさておき、建物の構造上の強度や耐久性には影響はないと考えられる場合のほうが多いでしょう。また、このようなクラックが生じるのは、コンクリートの性質上やむを得ない場合もあります。こうした場合には、施工不良でクラックが生じたと考えられるときに、塗装等で対応することが求められる程度でしょう。
他方、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存するような場合には、構造耐力を確保するための補修が必要になってきます。
基礎にクラックが発生した場合には、施工会社としては以下のような対応をとることになるでしょう。
施主から基礎のクラックを指摘された場合には、施工会社は、クラックの原因とクラックの状態を調査して、その結果を踏まえて施主と話し合いを行います。修補が不要なクラックである場合には、その理由を丁寧に説明して、施主の納得を得られるように努めることが大切です。また、修補が必要なものについては適切な修補方法を説明して、同じく施主の納得を得られるよう努めましょう。基礎にクラックが発生すると不安になる施主も多いため、きちんと説明することが大切です。
施主との話し合いがこじれてしまい、過剰な要求をされるようであれば、弁護士を入れて施主との話し合いを進めるのも有効な手段です。
弁護士を入れた話し合いでも、問題の解決ができない場合には、裁判所の調停や建築工事紛争審査会のあっせんを利用することも検討しましょう。
調停や建築工事紛争審査会のあっせんは、専門の委員が当事者双方の主張を聞いて、お互いの譲歩によって解決を図る手続きになります。
どちらの手続きも当事者の合意に基づく紛争解決手段ですので、どちらか一方の納得が得られない場合には、解決することができません。
上記の手段で解決することができない場合には、施主から施工会社に対して損害賠償請求などの訴訟提起がなされることがあります。施主から訴訟提起された場合には、それに対応する必要があります。早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
施主との間でトラブルが生じた場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
施主との間で建築トラブルが発生してしまうと、感情的になった施主から無理な要求を突き付けられることもあります。施工会社として対応が必要なものに関しては適切に対応することになりますが、不当な要求に対しては応じる必要はありません。
弁護士は交渉のプロフェッショナルですので、施主からの不当な要求に対しても冷静に話し合いを進めることが可能です。法的根拠のない主張であることを丁寧に説明することによって施主からの納得を得られる可能性もあります。
基礎のクラックをはじめとして、何からの瑕疵が生じた場合には、それが施工会社が責任を負うべきものであるかを判断する必要があります。瑕疵にあたるかどうかについては、契約内容や法令に基づいて判断しなければならず、そのためには、建築訴訟に関する専門的な知識と経験が不可欠です。
そのためには、専門家である弁護士と建築士のサポートが欠かせません。建築士に建物の状況を調査してもらい、弁護士に法的な相談をすることによって、法的根拠に基づいて施工会社の責任の有無を明確にすることができますので、対応を誤ってトラブルを深刻化させるという心配はなくなります。
基礎にクラックが生じたとしてもその程度や発生原因によっては、瑕疵にあたらないものもあります。基礎にクラックが生じた場合には、施主も不安になっていますので、施工会社としては、具体的な影響や補修の要否について丁寧に説明することが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、建築士とも連携をしながら建築紛争に対応することができますし、施工会社に向けた顧問弁護士サービスも提供しております。施主との間で話し合いがこじれそうな場合には、早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。