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海難事故の基礎知識・事例

Knowledge of Marine Accidents

海の交通ルール

海上交通三法

船舶の衝突に関係するいわゆる公法法規は多岐にわたりますが、中でも主要なものに、海上衝突予防法、海上交通安全法及び港則法があり、これらを海上交通三法と呼んでいます。

海上衝突予防法で定められている主な交通ルール
見張り(第5条)

「船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない」とされています。

安全な速力(第6条)

「船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。この場合において、その速力の決定に当たっては、特に次に掲げる事項(レーダーを使用していない船舶にあっては、第一号から第六号までに掲げる事項)を考慮しなければならない」とされています。
なお、「次に掲げる事項」には、視界の状態、船舶交通のふくそうの状況、自船の停止距離、旋回性能その他の操縦性能などが挙げられています。

行会い船の航法(第14条第1項本文)

「二隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合において衝突するおそれがあるときは、各動力船は、互いに他の動力船の左げん側を通過することができるようにそれぞれ針路を右に転じなければならない」とされています。

横切船の航法(第15条)

「二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない」とされています。

海上交通安全法で定められている主な交通ルール

東京湾・伊勢湾・瀬戸内海の3海域は海上交通がふくそうしているうえ、周辺には大きな港も存在することから、これらの海域内の特別な航路については、安全を確保するため特別の交通ルールが定められています。

航路航行義務(第4条本文)

「長さが国土交通省令で定める長さ(※50メートル)以上である船舶は、航路の附近にある国土交通省令で定める二の地点の間を航行しようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、当該航路又はその区間をこれに沿って航行しなければならない」とされています。

速力の制限(第5条本文)

「国土交通省令で定める航路の区間においては、船舶は、当該航路を横断する場合を除き、当該区間ごとに国土交通省令で定める速力(対水速力をいう。以下同じ。)(※12ノット)を超える速力で航行してはならない」とされています。

追越しの禁止(第6条の2本文)

「国土交通省令で定める航路の区間をこれに沿って航行している船舶は、当該区間をこれに沿って航行している他の船舶(漁ろう船等その他著しく遅い速力で航行している船舶として国土交通省令で定める船舶を除く。)を追い越してはならない」とされています。

港則法で定められている主な交通ルール
航法(第14条)

「航路外から航路に入り、又は航路から航路外に出ようとする船舶は、航路を航行する他の船舶の進路を避けなければならない」、「船舶は、航路内においては、並列して航行してはならない」、「船舶は、航路内において、他の船舶と行き会うときは、右側を航行しなければならない」、「船舶は、航路内においては、他の船舶を追い越してはならない」などとされています。

船舶衝突事故の損害賠償の基礎

商法上のルール

船舶の衝突は、多くの場合、船員の過失によって生じます。
これによって第三者に損害が生じると損害賠償責任が問題となります。
不法行為については、「民法」に一般規程が置かれています(民法第709条以下)が、商法では、船員の過失による船舶衝突から生じた損害の分担に関する第788条、船舶の衝突によって生じた債権の消滅時効に関する第789条及び準衝突に関する第790条が設けられていて、これらの規定が民法に優先して適用されます。
なお、船舶衝突が船長その他の船員の過失によって生じ、これにより第三者に損害を与えたときは、船舶所有者は商法第690条により第三者に生じた損害の賠償責任を負うとされています。

衝突船舶の船主間における損害の分担

船舶の衝突について、2隻の船舶の双方に過失がある場合に、その損害の分担はどうなるのでしょうか。

船舶所有者間の損害の分担

この点、商法第788条は、「船舶と他の船舶との衝突に係る事故が生じた場合において、衝突したいずれの船舶についてもその船舶所有者又は船員に過失があったときは、裁判所は、これらの過失の軽重を考慮して、各船舶所有者について、その衝突による損害賠償の責任及びその額を定める。この場合において、過失の軽重を定めることができないときは、損害賠償の責任及びその額は、各船舶所有者が等しい割合で負担する。」と定めています。

第三者に対する責任
  1. ① 船舶衝突統一条約の適用がある場合
    船舶衝突統一条約は、船舶、積荷、又は船舶内にある者の手荷物その他の財産に生じた損害について、船舶所有者は連帯することなく過失割合に応じた分割責任を負うものとしています。他方で、ケガの治療費といった人的損害については、船舶所有者は連帯して損害賠償責任を負います(条約第4条3項)。
  2. ② 船舶衝突統一条約の適用がない場合
    商法には、第三者の被った損害の分担について規定がありません。そのため、これについては、民法の共同不法行為(第719条)により、双方の船舶所有者は第三者に対して連帯して損害賠償の責任を負います。
船舶の損害

衝突によって船舶が滅失した場合、その損害賠償の額は、具体的にどのようになるのでしょうか。
これについては、衝突当時の当該船舶及び属具の市場価格によるとされています。その価格の決定に際して、衝突地の価格を標準とすべきか、本拠港の価格を標準とすべきかについては争いがありますが、本拠港の価格を標準とすべきであるとする考えが有力です。
市場価格が形成されていない特殊船舶や中古船の場合には、賠償額の決定が難しいのですが、不当な利得を得ようとする意図がない限り、同種の中古船の取得価格が損害額になるとした判例があります(最高裁昭和56年7月17日)。
なお、その他休航損害等も損害賠償の範囲に含まれると考えられています。
ただし、加害船の船主等は、船主責任制限法の定めるところにより、その損害賠償債務について責任を制限することができることにも注意が必要です(船主責任制限法第3条1項1号)

実際の海難事故に見る過失割合

事例

漁業従事中の漁船と貨物船(フェリー)が衝突した事例

裁判所

宮崎地裁平成22年3月12日判決

裁判所の判断

フェリーの航海士は、航行中の海域には雨が降り、視界が制限されていたほか、海面にも多数の白波が立ち、周囲を航行中の船舶を認識しにくい状況であった上、同海域が漁船等の操業海域であることを認識していたというのであるから、レーダーのレンジやFTC、STCの調整を行い、周囲を航行中の船舶が存在するか否か、針路の安全を確認しながら運航すべき業務上の注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、自船の針路には他船は存在しないものと軽信し、速度や針路を変更することなく漫然とフェリーを航行させたため、漁船の存在に気付かず、同船にフェリーを衝突させ、そのころ、漁船を沈没させた過失があったものといわざるを得ない。
他方で、漂泊中の漁船にも、船員の常務として、常時適切な見張りを行うべき業務上の注意義務があったところ、目視や双眼鏡による見張りを継続したり、レーダーレンジやFTC及びSTCを適切に調整したりすべき注意義務があったにもかかわらず、他船は存在しないものと軽信し、これを怠ったものというべきであり、漁船側にも本件事故の発生に関して過失があったものといわなければならない。

以上のように、本件事故は、双方の過失により発生したものであるが、漁船が総㌧数9.1㌧の、まぐろ延縄を海中に投下して漂泊中の漁船であるのに対し、フェリーは最大速度で航行中の総㌧数3,891㌧の大型フェリーであり、その位置関係及び航行状況を前提とすると、基本的には、フェリーに避航義務がある局面であったと考えられることに加え、フェリーの船舶としての規模及び機関馬力は、漁船を遙かに上回るものであり、それだけに、他船との衝突を回避するためにはより安全かつ慎重な航行が一般に求められることや、フェリーにおいては、漁船とは異なり、常時複数の乗組員を見張りに充てることのできる人的態勢が整っていたことに照らせば、本件事故当時、他船との衝突を回避するという観点から両船に要求されていた注意義務の程度には自ずから差異が存在したものといわざるを得ないところ、フェリーの過失は漁船の過失と比べてより重大であるといわざるを得ず、その過失割合は、80対20とするのが相当である。

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