事務所案内 Office Information

誤情報・偽情報の検証を行う「ファクトチェック」活動への支援

ベリーベスト法律事務所は、フェイクニュースやデマに惑わされない社会を目指す「ファクトチェック」の普及・推進活動を支援しています。

ファクトチェックの社会的意義

SNSが日常にはなくてはならないものとなった今、悪意や特定の意図、思い込みなどから発せられるフェイクニュースやデマが次々と発信され、瞬く間に拡散されています。たとえ動画や画像であっても、近年では容易に編集ができることから真実とは限りません。さらには著名人による発言であっても、鵜呑みせず真実かどうかを見極める必要があることは、疑いようのない事実です。

広く拡散され影響力が強い発言が「事実に基づいているかどうか」という観点で真偽を確かめ、正確な情報を共有すべく記事化して発信する営みが「ファクトチェック」です。近年ではフェイクニュースについての報道を通じて、ファクトチェックに対する興味関心が広まりつつあります。しかし、いまだその意義を誤解している方は少なくありません。

「ファクトチェック」を日本語でいえば「真偽検証」となります。誰もが誤情報に惑わされる可能性がある現代社会に警笛を鳴らし、個人のメディアリテラシーを磨く取り組みのひとつです。特定の主義・主張、集団や団体を擁護、もしくは批判する目的で行われるものではありません。この「非党派性・公正性」は、国際標準のファクトチェック原則であるIFCNファクトチェック綱領においても非常に重視されている考え方です。

International Fact-Checking Network(略称「IFCN」)が掲げる
“The commitments of the code of principles”
ファクトチェックにおける国際的に確立した原則

  1. A commitment to Nonpartisanship and Fairness(非党派性と公正性)
  2. A commitment to Transparency of Sources(情報源の透明性)
  3. A commitment to Transparency of Funding & Organization(財源・組織の透明性)
  4. A commitment to Transparency of Methodology(方法論の透明性)
  5. A commitment to an Open & Honest Corrections Policy(明確で誠実な訂正)

ファクトチェックに取り組む団体や媒体は、世界各国で188媒体へ増加し、国際的な取り組みへと成長しています。

ベリーベスト法律事務所が支援するファクトチェック活動

特定非営利活動法人 ファクトチェック・イニシアティブ

日本におけるファクトチェックの普及活動を行う目的で、2017年6月、ジャーナリストや弁護士など専門家10人の呼びかけで発足した非営利団体です。
すでに世界各国では、さまざまな組織がそれぞれの方法を用いたファクトチェック活動を展開していますが、日本は大きく出遅れています。その事実を踏まえたうえで、FIJは「テクノロジーによる支援」「国内外の動向の発信」「メディアと市民の協働」を軸に、ガイドラインやレーディングを策定するなど、ファクトチェック活動そのものの普及を推進するための仕組みづくりに取り組んでいます。

FIJのファクトチェック支援システム構想

レーティング基準

FIJによるファクトチェック・ガイドライン(2019年4月2日)から

レーティングの表記と定義
ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

楊井人文先生に、活動についてお話を伺いました

楊井人文 弁護士
楊井 人文
Yanai Hitofumi
特定非営利活動法人 ファクトチェック・イニシアティブ 理事 兼 事務局長
ベリーベスト法律事務所 弁護士

きっかけは、東日本大震災だった

日本におけるファクトチェックサイトの先駆けとなったマスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo(ゴフー)」を立ち上げようと決意したきっかけは、東日本大震災でした。当時、事態は時々刻々と変わっているはずなのに、肝心の報道機関のニュースは政府の発表を繰り返すばかりでした。他方、当時すでに普及し始めていたSNSでは、津波のことはもちろん、避難者、原発事故、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)に関する情報があれこれ飛び交っている状態です。その情報にはネガティブなことも、ポジティブなこともあります。海外のメディアは日本国内のメディアとは異なる報道をしているというケースも散見し、何を信じたらよいのかわからないという状態が続いたことを忘れられません。

だからこそ、人々は不安にあおられたのでしょう。地味な真実よりも、キャッチーなデマのほうが拡散しやすいという一面もあり、どこまでが本当で、どこまでがウソなのか、疑心暗鬼になっていた方も多かったのではないかと思います。当時はまだ、「フェイクニュース」という言葉すらほとんど聞くことがなかったのです。

東日本大震災を契機に、メディアの信頼度は大きく低下していることは周知のとおりでしょう。私は元新聞記者です。だからこそ、記者たちがどのように記事を作成しているのかはよくわかっていました。信頼度低下の裏側には、メディアの根本的な課題が凝縮されていると感じていたのです。

情報を発信するメディア側には「マスコミが発信する情報には間違いがない」という「過信」がありました。だからこそ、たとえ公開した記事が誤報であったとしても事実を検証したがらないという一面があります。たとえ誤報を認めたとしても、訂正記事は非常に小さく目立たないものであり、まったく周知されません。だからこそ、ますます信頼されなくなるのではないかという懸念は抱いていました。

人間が対応している以上、メディアにも間違いはあります。間違いは起きうるのです。メディアの信頼性を高めるためにも、第三者的が誤報を検証し、その結果を「見える化」しなければならないと考え、GoHooの立ち上げを決意したのです。

当初は作業のスペースもなかったため、ベリーベスト法律事務所の所内スペースを借りてスタートしました。1ヶ月あたり10件近く検証をするという、今でいうファクトチェック業務を続けた結果、メディアも誤報をしてしまったときは、以前と比べてその事実を隠すよりも正々堂々と訂正記事を出すようになりつつあるように感じています。

楊井人文 弁護士

まずは「知ってもらう」「取り組んでもらう」ことを目的にFIJを設立

GoHooでは、主に大手新聞社の記事を中心にファクトチェックを行う取り組みを行っていました。しかし、その取り組みには限界があります。SNSによる拡散力、影響力が年々大きくなり、ビジネスとしてフェイクニュースを流すサイトがより拡散されやすくなるという事態に陥りつつあったためです。

結果、デマや誤認情報は次々と拡散されているものの、ファクトチェックに取り組んでいるサイトはGoHooだけという状況が続いています。欧米をはじめとした海外ではすでにメジャーな取り組みとなったファクトチェック活動ですが、残念ながら日本ではさほど知られていません。そこで、まずはファクトチェックそのものを行うよりも、普及を促す活動に注力することにしたのです。

FIJでは、これまで人力で探していたフェイクニュースや誤認・デマ情報を、人工知能(AI)で発見・収集できるようにシステム化を実現しました。そのうえで、多数のメディアの参加を促し、メディア自身が互いにファクトチェックしやすい環境を整えています。

2019年9月現在、FIJと相互協力をして公正なファクトチェック活動やその普及に努めるメディアパートナーは、国内外合わせて14社となりました。これからは、日本でもますますファクトチェック活動が活発になることを期待しています。そのためにも、さらにメディアパートナーを増やしていき、今度はメディアだけでなく市民や一般、学生にもファクトチェック活動ができる土壌をつくっていきたいと考え、次のフェーズへ走り始めています。

楊井人文 弁護士

弁護士がファクトチェック活動にかかわる意義

ファクトチェックは往々にして、ジャーナリストの仕事だと思われがちですが、必ずしもそうではありません。実際、海外では専門家など、様々なバックグラウンドをもった人がファクトチェックに参加しています。なぜならば、ファクトチェック活動の基本は、立場や意見の内容を精査して言葉を組み立てるものではなく、「その発言が事実かどうか」という一点に集約されるためです。

弁護士の業務は、依頼人に寄り添うという点は異なりますが、基本的には「客観的な証拠に基づいて事実を論証していく」という作業が大きなウエイトを占めていると思います。この、証拠に基づいて真偽を見極める目が求められる作業は、ファクトチェックも弁護士業務においても、変わりがないといえるでしょう。法律家だからこそ、真実を認め、異なる部分を指摘するという感覚に慣れているともいえるかもしれません。

2019年現在、デマやフェイクニュースを規制しようとする動きが世界中のあちこちで始まりつつあります。確かに、フェイクニュースやデマを積極的に拡散できる状況は好ましくありません。しかし、安易に法規制に走ってしまうことは非常に危険なことです。なぜならば、規制する側の思惑ひとつで偽情報かどうか判断されてしまう可能性があり、表現・言論の自由が脅かされるためです。

大事なことは、情報を鵜呑みにせず、事実かどうかを見極めるメディア情報リテラシーを高めることと考えています。多種多様な主体によるファクトチェック活動が広がっていけば、誤情報・偽情報から身を守る盾を人々が手にすることになるでしょう。それが同時に、さまざまな立場の人々が議論し合える自由を守る手段にもなると、私は信じてます。

楊井人文 弁護士 プロフィール

楊井人文 弁護士
  • 特定非営利活動法人 ファクトチェック・イニシアティブ
    理事 兼 事務局長(担当:編集委員会、協働・育成部門)
  • ベリーベスト法律事務所 弁護士

1980年生まれ。慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者。退職後、法科大学院を経て、2008年より弁護士登録(第一東京弁護士会、ベリーベスト法律事務所所属)。2012年、日本報道検証機構を設立し、マスコミ誤報検証サイトGoHooを立ち上げる。著書に『ファクトチェックとは何か』(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2019年4月、インターネットメディア協会(JIMA)監事。早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所招聘研究員。

TOPへ