不動産や建築トラブルが発生し、施工業者との話し合いで解決できないと、「裁判をするしかないのだろうか」と悩む方もいるかもしれません。しかし、不動産や建築トラブルに関しては、建築ADRを利用することで、裁判をすることなく円満に解決できる可能性があります。
建築ADRとは、弁護士会が主催する「住宅紛争審査会」や国土交通省が主体となる「建設工事紛争審査会」を介して建築トラブルを解決する手段で、裁判所を介すよりも安価でスピーディーなのが特徴です。
個人で利用することも可能なので、ご自身の状況に応じて最適な手段を選択するとよいでしょう。今回は、建築ADRの相談先や手続きの流れ、費用などの基礎知識について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
建築ADRとはどのような制度なのでしょうか。以下では、建築ADRについての基礎知識を説明します。
ADRとは、裁判外紛争解決制度という裁判手続きによらずに紛争を解決する手続きです。
ADRには、解決方法の違いに応じて「調停」、「あっせん」、「仲裁」という3つの種類があります。
それぞれの特徴をまとめると以下の表のようになります。
あっせん | 調停 | 仲裁 | |
---|---|---|---|
解決方法 | 当事者の歩み寄りによる解決を目指す方法 | 裁判所のように判断を下す方法 | |
解決案の提示 | 基本的にはない | 調停案の提示 | 仲裁判断の提示 |
解決案の拒否 | - | 拒否できる | 拒否できない |
解決案の強制 | - | 強制できない | 強制できる |
なお、後述する建築ADR以外にも金融ADRや医療ADRなどジャンルに応じたADRが存在します。
建築ADRとは、建築トラブルや不動産トラブルに特化したADRです。
建築や不動産におけるトラブル解決には、高い専門性や知識が求められますが、一般的には、施主と施工業者との間には、知識や交渉力の面で圧倒的な差があります。そのため、当事者間の話し合いでは、施主が満足いく解決となるのは困難なケースが多いと考えられます。
建築ADRを用いれば、建築や不動産トラブルの解決実績がある建築士や弁護士が話し合いに関与するため、当事者だけの話し合いに比べて合理的な解決ができる可能性が高くなるといえます。
裁判になると解決まで長い時間がかかりますので、まずは、建築ADRを利用してみるのもよいでしょう。
建築ADRには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
また裁判とは異なり、出頭の義務がないため、相手方の出頭を強制することができませんし、建築ADRの仲裁は、裁判のように仲裁人が判断を下す手続きですが、裁判とは異なり仲裁判断に不服があったとしても控訴することはできません。
不動産(建築)トラブルが起きたときは、以下のようなADRを利用することができます。
住宅紛争審査会 | 建設工事紛争審査会 | 国民生活センター紛争解決委員会 | |
---|---|---|---|
主体 | 弁護士会 | 国土交通省および各都道府県 | 国民生活センター |
解決方法 | あっせん 調停 仲裁 |
あっせん 調停 仲裁 |
和解の仲介 仲裁 |
対象 | 評価住宅と保険付き住宅に関する建設工事の請負契約または売買契約に関する紛争 | 建設工事の請負契約に関する紛争 | 消費者問題のうち重要消費者紛争に該当するもの |
住宅紛争審査会とは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)」に基づいて、弁護士会が設置した民間型の裁判外紛争処理機関です。
住宅紛争審査会のADRでは、弁護士や建築士などの専門家が紛争処理委員として、専門的かつ中立・公正な立場で建築トラブルや不動産トラブルの解決にあたります。
住宅紛争審査会でのADRの手続きには、「あっせん」「調停」「仲裁」の3種類があり、ADRの申請人がどの手続きを利用するかを選択することができます。
住宅紛争審査会で扱う紛争は、評価住宅と保険付き住宅に関する建設工事の請負契約または売買契約に関する紛争です。たとえば、雨漏り、基礎の亀裂、床の傾斜などの住宅の不具合などが代表的な事例です。
建設工事紛争審査会とは、建設業法に基づいて、国土交通省および各都道府県に設置された裁判外紛争処理機関です。
国土交通省に設置されたものが「中央建設工事紛争審査会」、各都道府県に設置されたものが「都道府県建設工事紛争審査会」と呼ばれ、それぞれ担当する事件の管轄区分が決められています。
建設工事紛争審査会でのADRの手続きには、「あっせん」「調停」「仲裁」の3種類があり、住宅紛争審査会のADRと同様に申請人がどの手続きによるかを選択することができます。また、ADRを担当する委員には、弁護士などの法律委員、建築・土木などの技術委員、行政経験者などの一般委員が指名されます。
建設工事紛争審査会のADRで扱う紛争は、建設工事の請負契約をめぐるトラブルなどの紛争です。
国民生活センター紛争解決委員会とは、独立行政法人国民生活センター法に基づいて、国民生活センターに設置された裁判外紛争処理機関です。
国民生活センター紛争解決委員会でのADRの手続きには、「和解の仲介」「仲裁」の2種類があり、申請人がどの手続きによるかを選択することができます。他のADRとは異なり、国民生活センター紛争解決委員会のADRは、申請手数料が無料であるのが特徴です。
国民生活センター紛争解決委員会のADRで扱う紛争は、消費者問題のうち重要消費者紛争に該当するトラブルです。建築トラブルや不動産トラブルについては、この重要消費者紛争に該当しますので、国民生活センター紛争解決委員会のADRを利用することができます。
建築ADRが利用される不動産トラブルの例としては、以下のものがあります。
新築住宅やリフォーム工事では、契約した内容と実際の工事内容との間に齟齬が生じることがあります。このような齟齬が生じた場合には、施主は、施工業者に対して、以下のような契約不適合責任を追及することができます。
施主と施工業者との話し合いで解決できればよいですが、施工業者が契約不適合を認めないなどのケースでは、建築ADRの利用が考えられます。
建築工事の途中で、設備の追加や仕様の変更などが発生した場合には、施主と施工業者との間で、口頭でのやり取りのみで進めてしまうことがあります。
本来は作成されるべきである追加変更工事の請負契約書がない場合、追加変更工事の内容や費用に関してトラブルが生じることがあります。
このようなトラブルでも建築ADRの利用が考えられます。
施主と施工業者との間で請負契約を締結したとしても、その後の事情によっては、請負契約の解除に至るケースもあります。そのようなケースでは、施工業者から解約金を請求されたり、施主から返金を求められたりしてトラブルに発展することがあり、こうしたトラブルにおいても当事者だけでは解決できないときは、建築ADRの利用が可能です。
以下では、建築ADRを利用する際の流れ費用について説明します。
建築ADRには、出頭義務がないため、相手がADRの手続きに応じるかどうかによって、手続きが継続できるか否かが決まります。
① 相手がADRに応じる場合
相手がADRに応じる場合には、以下のような流れで進んでいきます。
② 相手がADRに応じない場合
相手がADRに応じない場合には、ADRでの解決の見込みはありませんので、ADRは不成立となります。この場合は、民事訴訟など裁判手続きによるトラブル解決を検討します。
建築ADRの費用は、どの種類の建築ADRを利用するかによって、以下のように異なってきます。
ADR | 費用 |
---|---|
住宅紛争審査会 | 申請手数料1万円 |
建設工事紛争審査会 | 解決の手続きと請求額により変動(例:調停で2000万円を請求する場合の申請手数料は7万3500円) |
国民生活センター紛争解決委員会 | 無料 |
建築ADRは、本人申立てにより手続きを進めることもできますが、弁護士に依頼することも可能です。その場合には、上記の申請手数料に加えて、弁護士費用の支払いも必要になります。弁護士費用の負担は生じますが、弁護士に初期から依頼すれば、相手がADRに応じない場合でも速やかに訴訟移行できるなどのメリットもありますので、検討してみるとよいでしょう。
なお、ベリーベスト法律事務所では建築訴訟専門チームを設けており、初回60分の無料相談を実施しています。費用負担なく弁護士に相談したいという方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
建築トラブルや不動産トラブルについては、いきなり裁判をするのではなく、建築ADRという手続きによりトラブルを解決できる可能性があります。建築ADRには、裁判とは異なるメリットも複数ありますので、紛争解決方法のひとつとして検討してみるのもよいでしょう。
ADRでは難しいケースや訴訟に発展するような事案は、弁護士のサポートが必要になります。ADRとどちらの利用が適しているか迷った際も、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。