家が傾いていると、窓が閉まりづらくなる、扉が勝手に開いてしまう、家の中にいると目まいや頭痛が起こるなどの弊害が生じてしまいます。
家の傾きについては、売り主やハウスメーカー・工務店などに告知義務があります。適切な告知がなかった場合、買い主・施主は売り主などの契約不適合責任を追及可能です。弁護士にご相談のうえで、売り主などに対して適正な補償・賠償を請求しましょう。
本記事では、家の傾きの告知義務や許容範囲、気づいたらやるべきことなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
家は人間が作るものであるため、多少の傾きが生じることはやむを得ません。しかし、家の傾きが著しい場合は、住人の生活に支障を来してしまいます。
家を購入する際、買い主は家が傾いていない(厳密には、傾きが一定の限度に収まっている)と期待するのが通常です。
したがって、購入した家が著しく傾いていた場合、その家は契約に適合していないことになります。この場合、買い主は売り主の契約不適合責任(民法第562条以下)を追及可能です。
契約不適合に当たる家の傾きについては、売買契約を締結する前の段階で、売り主が買い主に告知しなければなりません。これは新築物件でも中古物件でも同様です。
売り主が告知義務に違反した場合、買い主は売り主に対して損害賠償を請求できます。
品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)第74条に基づき、国土交通大臣は、住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準を定めています。
参考:「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」(国土交通省)
同基準によれば、家の傾き(傾斜)については、構造耐力上主要な部分に瑕疵がある可能性が以下のとおり整理されています。
傾斜の程度 | 構造耐力上主要な部分に瑕疵がある可能性 |
---|---|
3/1000未満の勾配の傾斜 | 低い |
3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜 | 一定程度存する |
6/1000以上の勾配の傾斜 | 高い |
※勾配:凹凸の少ない仕上げによる壁または柱の表面と、その面と垂直な鉛直面との交差する線(2m程度以上の長さのものに限る)の鉛直線に対する角度
② 床(排水などの目的で勾配が付されているものを除く)傾斜の程度 | 構造耐力上主要な部分に瑕疵がある可能性 |
---|---|
3/1000未満の勾配の傾斜 | 低い |
3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜 | 一定程度存する |
6/1000以上の勾配の傾斜 | 高い |
※勾配:凹凸の少ない仕上げによる床の表面における2点(3m程度以上離れているものに限る)の間を結ぶ直線の水平面に対する角度
壁・柱と床のどちらについても、3/1000未満の勾配の傾斜であれば基本的に問題ないとされる一方で、6/1000以上の勾配の傾斜については、構造耐力上主要な部分に瑕疵がある可能性が高いとされています。
上記の基準は、新築住宅と中古住宅の両方に妥当します。
中古住宅では、建物の経年劣化によって傾斜の勾配が徐々に増すことがありますが、それでも最低限、傾斜の勾配を6/1000未満に抑えるべきです。
購入した家の傾きに気づいたら、適正な賠償・補償などを受けるため、速やかに以下の対応を行いましょう。
家の傾きの程度を調べるためには、建築士や住宅診断士に調査を依頼するのが一般的です(=ホームインスペクション)。
ホームインスペクションでは、家の傾きを含めて、建物に不備が存在するかどうかを調査します。調査結果は専門家の意見とともに報告書にまとめられ、報告書は契約不適合責任の追及などを行う際に証拠として利用可能です。
まずは家がどの程度傾いているのか、ホームインスペクションを通じて正しく把握するとよいでしょう。
家の傾きが著しい場合には、売り主や施工業者の契約不適合責任の追及を検討しましょう。
契約不適合責任の範囲は、売買契約または、請負契約の規定および法律に基づいて決まります。契約不適合責任の追及に当たっては、売り主・施工業者の責任範囲を確認しなければなりません。
適用される契約不適合責任のルールを正しく把握するためには、弁護士に契約書のチェックを依頼することをおすすめします。
ハウスメーカーなどから家を購入した場合は、家の傾きに関する修補費用や損害賠償などが、保証サービスによってカバーされていることがあります。
保証サービスを通じて修補費用や損害賠償などを支払ってもらえるならば、ハウスメーカーなどの契約不適合責任を追及するよりも手間がかかりません。家の保証サービスが付帯されている場合には、その適用範囲を確認しましょう。
建設業者または宅地建物取引業者は、品確法に基づく新築住宅の瑕疵担保責任をリスクヘッジするため、住宅瑕疵担保責任保険に加入していることがあります。
住宅瑕疵担保責任保険は、新築住宅の構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分の瑕疵を保険金によってカバーします。家の傾きについても、住宅瑕疵担保責任保険により、修補費用や損害賠償などが保障される可能性があります。
家の売買契約や請負契約の内容を確認して、売り主や施工業者が住宅瑕疵担保責任保険に加入しているかどうかを確認しましょう。
家の傾きについて、売り主(不動産会社など)や施工業者の契約不適合責任を追及する場合は、その責任期間に注意が必要です。
契約不適合責任の期間は原則として民法に従いますが、宅地建物取引業法および品確法によって特則が定められています。
契約不適合責任は原則として、買い主がその不適合に気づいたときから1年以内に売り主へ通知しなければ追及できません。ただし、売り主が引き渡しのときにその不適合があることを知っていたり、または重大な過失によって発見できなかったりしたときには、1年経過後でも契約不適合責任を追及可能です(民法第566条)。
なお、上記の責任期間は任意規定であり、契約において別段の定め(特約)があればそれに従います。ただし、契約不適合責任の期間に関する特約については、後述のとおり、宅地建物取引業法や品確法で特則が定められています。
宅地建物取引業者が自ら売り主となる宅地および建物の売買契約では、契約不適合責任の期間について、目的物の引き渡しの日から2年以上となる特約をするものを除いて、民法の原則よりも買い主に不利な特約をしてはならないとされます(宅地建物取引業法第40条1項)。この規定に反する特約は無効となります(同条2項)。
ただし、買い主も宅地建物取引業者である場合には、上記の規定は適用されません(同法第78条第2項)。
新築住宅の請負契約および売買契約については、以下の部分について、品確法に基づく瑕疵担保責任の規定が適用されます(品確法第94条、第95条、品確法施行令第5条)。
品確法に基づく瑕疵担保責任の追及方法は、民法の契約不適合責任と同じですが、責任期間が長く設定されています。
品確法に基づく瑕疵担保責任の期間は引き渡しから10年間で、それよりも施主・買い主に不利な特約は無効です。
すなわち、新築住宅で、その傾きが構造耐力上主要な部分の瑕疵によって生じている場合には、引き渡しから10年間は品確法に基づく瑕疵担保責任を追及できる可能性があります。
家の傾きについて契約不適合責任を追及するためには、原因の調査や法的な検討を行う必要があります。その際には、建築士や建築紛争に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士にご相談いただければ、信頼できる建築士と連携して、適正額の賠償・補償を得られるように尽力いたします。家の傾きにお悩みの方は、お早めに弁護士までご相談ください。
家の傾きに気づいたときは、その原因を突き止めたうえで、売り主や施工業者の契約不適合責任を追及しましょう。適正な賠償・補償を受けるためには、建築紛争に精通した弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、建築トラブルに関するご相談を随時受け付けております。家の傾きについて、売り主や施工業者の責任を追及したい方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。