住宅の建築中に、ハウスメーカーや工務店などの建築会社が倒産してしまったらどうすればよいのでしょうか。
新築の場合は工事がストップする可能性が高く、他の施工業者へ工事を引き継がざるを得ないことが多いでしょう。その場合には、住宅完成保証制度の利用の可否、および契約解除時の注意点を事前によく確認しておくことが重要です。また、支払い済みの前払い金が戻ってこないことも考えられます。
この記事では、新しい家の建築中に建築会社が倒産した場合の対処法や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
帝国データバンクの調査によると、令和5年 1月1日~12月31日に発生した、建設業の倒産件数は、1671件でした。件数は、令和4年と比べて38.8%増加しており、業種別の増加率を比較しても一番増えています。
建設コストの増加や人手不足がその要因と考えられており、こうした世情は、注文住宅を新築する施主にとって不安要素のひとつであるといえるでしょう。
(出典:帝国データバンク 全国企業倒産集計2023年報)
新居の工事を担当するハウスメーカーや工務店などの建築業者が倒産した場合、工事は続行されるのか、すでに支払ったお金はどうなるのかといった点が、施主としては気になるポイントでしょう。
工事の継続可否や、支払い済みの前払い金の取り扱いは、倒産手続きに従って処理されることになります。
破産開始決定がなされた場合には、施工業者・施主双方の債務が完了しておらず、別の業者が工事を完成させることができるものであれば、破産管財人が、破産法53条1項により、請負契約の解除をするか、施工業者の債務を履行(工事を完成させる)して、請負代金の請求をするかいずれかを行うことができることになります。
施主から破産管財人に対して、解除をするのか債務の履行をするのか催告して、その期間内に確答がなかったときには、契約の解除をしたものとみなされます(破産法53条2項)。
民事再生や会社更生という法的手続きが行われたときには、工事が続行される場合もありますが、施工業者・施主双方の債務が完了していないときには、民事再生の場合は再生債務者または管財人、会社更生の場合は管財人の判断により、請負契約が解除されることもあるので注意が必要です(民事再生法第49条第1項、会社更生法第61条第1項)。
民事再生・会社更生のときに、施主から、解除するのか工事を行うのか催告しても確答がなかったときには、解除権を放棄したものとみなされます(民事再生法第49条第2項、会社更生法第61条第2項)。
請負契約が解除された場合、施主が工事を続行するには、新たな建築会社を探さなければなりません。
施主が建築会社と請負契約を締結する場合、契約時・着工時・上棟時などに前払い金を支払うことがあります(住宅ローン利用時には、中間金が省略されることもあります)。
建築会社について破産手続きが行われ、契約の解除が選択された場合、前払い金は破産手続きの中で払い戻しが行われます。施主は、損害の賠償については、財団債権として破産債権に先立って弁済を受けられますが、財団が不足するときには全額支払われないこともあります。
民事再生や会社更生の場合で、契約が解除された場合にも、施主の被った損害賠償については、共益債権として再生債権・更生債権に先立って弁済されます。
一方、請負契約が解除されずに工事が続行される場合は、従前の契約どおり、前払い金は請負工事代金の一部が前払いされたものとして扱われます。
上記のように、建築会社の倒産によって新築住宅の工事がどうなるかは、倒産手続きの種類によって扱いが異なります
施主としては、まず建築会社について開始された倒産手続きの種類を確認し、弁護士に相談のうえで冷静な対応に努めましょう。
建築会社の倒産により、前払い金が戻ってこない場合や、工事の引き継ぎにより追加費用が発生する場合には、「住宅完成保証制度」によって損害を補填(ほてん)してもらえる可能性があります。
「住宅完成保証制度」とは、請負契約を締結した建築会社が万が一倒産した場合に、保証会社が前払い金・増嵩工事費用を保証してくれるサービスです。
(参考:「住宅完成保証制度」(株式会社住宅あんしん保証))
住宅完成保証制度による保証の対象となるのは、原則として、請負金額が3600万円までの、以下のいずれかに該当する住宅です。
ただし、以下の保証限度額があるのでご注意ください。
住宅完成保証制度は、すべての注文住宅に適用されるわけではありません。
請負契約時に保証制度もあわせて締結する必要があり、利用できるハウスメーカー・工務店も限定されています。また、利用する場合には保証料が発生する場合もある点にも注意が必要です。
建築会社の倒産が不安な場合には、請負契約を締結する際に、住宅完成保証制度の利用を検討することをおすすめします。
建築会社の倒産によって工事がストップしてしまう場合、施主としては、なるべく早く別のハウスメーカー・工務店などに工事を引き継いでもらいたいと考えるのは自然でしょう。
しかし、請負契約を解除する際には、法律上の手続きを踏まなければなりません。また、新たな建築会社探しが難航するケースもある点にも要注意です。
施主の側から請負契約を解除する場合には、債務不履行解除(民法第541条、第542条)、や、建物が完成する前であれば損害を賠償して民法641条に基づく解除を行うなどが考えられます。
請負契約の規定に照らして、契約解除の要件を満たすことを確認してから、解除の意思表示を行いましょう。
施主としては、倒産手続きを通じて、建築会社側に請負契約の解除を求めることも考えられます。
施主には、以下の者に対して、請負契約を解除するかどうかを確答すべき旨を催告することが認められています(破産法第53条、民事再生法第49条、会社更生法第61条)。
破産の場合であれば、期間内に確答がなければ解除したものとみなされます。
施主による債務不履行解除の要件を満たすかどうか疑問がある場合には、倒産手続きを通じた解除を求めることもご検討ください。
建築途中の新居の建築を引き継ぐ業者を探すことは、想像以上に難航する可能性があります。注文住宅の工法はハウスメーカーや工務店ごとに異なるため、施工を引き継ぐことは容易ではないからです。
そのため、請負契約を解除する前に、建築を引き継いでくれそうな業者に対してヒアリングを行い、引き継ぎのめどを立てておくことが重要です。
ここまで家の工事中に建築会社が倒産した場合の対応を解説してきました。
それでは、家が完成した後、何か問題があって、建築会社に連絡を取ったら倒産していたという場合はどうなるのでしょうか。
結論から言いますと、家を建てた後10年間は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」と「住宅瑕疵担保履行法」で認められる範囲内で、無料修理などを受けることができます。「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」では、新築住宅の
に問題があった場合、建てた後10年は、修理・賠償・契約の解除を求めることができる、と定められています。
「住宅瑕疵担保履行法」では、上記のようなトラブルが起こったときに、建築会社が倒産しており、施主が自ら補修をしなければならないという事態を避けるために、建築会社に保険加入か供託(金銭や品物を供託所に預けること)をするよう定めています。
建築会社が保険に入っているか、供託しているかは、重要事項説明書に記載されています。もし、実際に建築会社が倒産した場合には、重要事項説明書に記載されている保険会社か供託所に連絡を取りましょう。
新居の建築を依頼している建築会社が倒産した場合、施主には非常に困難な対応が求められます。
法的にも、倒産手続きにおける権利行使や契約解除など、状況に合わせてさまざまなポイントに注意しなければなりません。
倒産した建築会社との関係をきれいに清算し、次の施工業者やハウスメーカーへと円滑に工事を引き継ぐためにも、早期に弁護士へご相談いただくことをおすすめします。
なお、実際の倒産が発生する前でも、建築会社の経営不振を耳にして不安が募っている場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
新居の建築を依頼中の建築会社が倒産した場合、工事の中断や前払い金が回収不能になるリスクがあります。法的な問題点を解決し、次の施工業者へと円滑に工事を引き継ぐためには、信頼できる弁護士に対応を一任することが得策です。
ベリーベスト法律事務所では、建築会社の倒産に関するご不安をお抱えの施主の方に向けて、随時法律相談を受け付けております。建築会社の経営不振などを耳にした施主の方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。