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中国における労務管理(労働契約、労働条件、労働組合、解雇)のポイント 

2023年06月01日
  • 中国法務(進出・展開・撤退)
中国における労務管理(労働契約、労働条件、労働組合、解雇)のポイント

中国における労務管理には、日本とは異なる中国法のルールが適用されます。中国現地で労務管理を行う際には、中国法のルールを踏まえた対応に努めましょう。

今回は、中国法における労働契約・労働条件・労働組合・解雇のポイントを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労働契約の締結・変更に関する中国法のポイント

労働契約(雇用契約)の締結および変更に当たっては、労働契約法上の手続きと契約の種類を意識する必要があります。
(1)労働契約の締結・変更は書面が必須
使用者が新たに労働者を雇用する際には、書面により労働契約を締結することが必須とされています(中華人民共和国労働契約法第10条)。労働契約を変更する際にも、同様に書面によることが必要です(同法第35条)。

使用者が雇用の日から1か月以降1年未満に書面による労働契約を締結しない場合、労働者に対して2倍の賃金を支払わなければなりません(同法第82条第1項)。
(2)3種類の労働契約
中国における労働契約には、以下の3種類があります(中華人民共和国労働契約法第12条)。

  • ① 固定期間のある労働契約(同法第13条)
    使用者と労働者が、契約の終了時期を約定している労働契約です。日本では、契約社員・パート・アルバイトなどと締結する「有期労働契約」に相当します。
  • ② 固定期間のない労働契約(同法第14条)
    使用者と労働者が、契約の終了時期を約定していない労働契約です。日本では、正社員などと締結する「無期労働契約」に相当します。
  • ③ 一定の業務任務の完了を以って期間とする労働契約(同法第15条)
    使用者と労働者が、ある業務の完了を以って期間とする旨を約定した労働契約です。


なお、以下のいずれかに該当し、労働者が契約の更新・締結に関する申込みまたは承諾を行ったときは、労働者が固定期間のある労働契約の締結を申し込む場合を除き、固定期間のない労働契約を締結しなければなりません(いわゆる「無期転換」。同法第14条)。

  • (a)10年以上継続勤務しているとき
  • (b)使用者が労働契約制度を初めて実施するか、または国有企業が制度改革により新たに労働契約を締結する時点で10年以上継続勤務しており、かつ法定退職年齢まで10年未満のとき
  • (c)固定期間のある労働契約を連続して2回締結し、かつ労働契約の解除事由が生じていない場合に、労働契約を更新するとき

2、労働条件に関する中国法のポイント

中国において労働者を雇用する際には、労働条件に関する以下の原則・ルールに注意が必要です。

  • ① 「同一労働同一報酬」の原則
  • ② 時間外労働・残業代のルール
  • ③ 有給休暇に関するルール
  • ④ 試用期間に関するルール
(1)「同一労働同一報酬」の原則
中国で働く労働者には、賃金を労働の量に従って分配する「同一労働同一報酬」の原則が適用されます(中華人民共和国労働法第46条)。同じ労働をしている労働者について、不合理に差別的な取り扱いをすることは認められません。

中国法における「同一労働同一報酬」は、日本における「同一労働同一賃金」と趣旨を同じくするものです。
(2)時間外労働・残業代のルール
中国で働く労働者に時間外労働をさせるには、労働組合および労働者を経る必要があります(中華人民共和国労働法第41条)。
また、時間外労働は原則として、毎日1時間を超えてはなりません。特殊な原因により時間外労働をさせる場合には、労働者の身体健康を保証するとの条件下で、毎日3時間以内かつ毎月36時間以内に抑える必要があります。

ただし、以下のいずれかの状況が存在する場合には、例外的に上記の労働時間規制が適用されません(同法第42条)。

  • ① 自然災害・事故の発生その他の原因により、労働者の生命健康と財産の安全を脅かされ、緊急の処理を必要とするとき
  • ② 生産設備・交通輸送線路・公共施設に故障が生じ、生産と公共の利益に影響し、早急に修理をしなければならないとき
  • ③ 法律・行政法規に規定するその他の状況


時間外労働の割増賃金は150%以上、土日は200%以上、法定休暇日(祝日)は300%以上とされています(同法第44条)。管理監督者に対しても、割増賃金(残業代)の支給が必要です。
(3)有給休暇に関するルール
1年以上継続勤務する労働者に対しては、原則として継続勤務年数に応じて、以下の有給休暇が付与されます(従業員年次有給休暇条例第2条、第3条)。

継続勤務年数有給休暇の年間日数
1年以上10年未満5日間
10年以上20年未満10日間
20年以上15日間
(4)試用期間に関するルール
試用期間を設定することは可能ですが、労働契約期間に応じて以下の期間制限があります(労働契約法第19条)。

労働契約期間試用期間の上限
3か月未満設定不可
3か月以上1年未満1か月
1年以上3年未満2か月
3年以上または固定期間なし6か月


試用期間中であっても、労働者を解雇できる場合は厳しく制限されています(同法第21条)。

3、労働組合(工会)に関する中国法のポイント

中国で働く労働者には「工会」と呼ばれる労働組合を結成し、工会に入会する権利が認められており、会社はこれらを妨げてはなりません(中華人民共和国工会法第3条)。

工会が組織された場合、使用者は工会の事務と活動展開のために必要とする施設・活動場所などを提供することが義務付けられます(同法第45条)。さらに、労働者全員の賃金総額の2%相当額を、工会活動費として支給しなければなりません(同法第42条、第43条)。

工会は、使用者との間で労働協約を締結できます(同法第20条、中華人民共和国労働契約法第51条)。
労働者側の代表から労働協約の交渉を書面で要求された場合、会社は20日以内に書面で回答しなければならず、正当な理由なく交渉を拒絶することができません(集団契約規定32条)。

4、解雇に関する中国法のポイント

中国で働く労働者を解雇することは、労働契約法によって厳しく制限されています。
(1)解雇が認められる場合はかなり限定的
使用者が労働者を解雇できるのは、以下のいずれかに該当する場合に限られています(中華人民共和国労働契約法第39条~第41条)。

①以下の状況のいずれかがある場合
※即時解雇
  • ・試用期間中に採用条件に合致していないことが証明された場合
  • ・使用者の規則制度に甚だしく違反した場合
  • ・著しい職務怠慢、不正利得行為により使用者に重大な損害を与えた場合
  • ・労働者が同時に他の使用者と労働関係を形成し、使用者の業務任務の完成に甚だしい影響を与えたか、またはそれを使用者が指摘しても是正を拒否した場合
  • ・労働契約が無効とされた場合
  • ・法により刑事責任を追及された場合


②以下の状況のいずれかがある場合
※30日前の解雇予告または1か月分の賃金支給が条件
  • ・罹病または業務によらない負傷により、規定の医療期間満了後も元の業務に従事することができず、使用者が別途手配した業務にも従事することができない場合
  • ・業務を全うできないことが証明され、職業訓練または職場調整を経てもなお業務を全うできない場合


③以下の状況のいずれかがあり、20人以上または従業員総数の10%以上の人員削減が必要な場合
※労働組合・全従業員に対する状況説明と意見聴取、労働行政部門への人員削減案の報告が必要
  • ・企業破産法の規定によって再編を行う場合
  • ・生産、経営が極めて困難になった場合
  • ・企業の製品転換、重大な技術革新又は経営方式に調整があり、労働契約変更後においてなお人員削減が必要である場合
  • ・その他の労働契約の締結時に依拠した客観的な経済状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となった場合


なお、上記のいずれかに該当する場合でも、一定の条件下では解雇が禁止されます(同法第42条)。

(2)解雇する場合は経済補償金の支払い義務あり
使用者が労働者を解雇する場合、労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません(中華人民共和国労働契約法第46条)。

経済補償金は原則として、勤務年数1年ごとに賃金1か月分が支払われます(同法第47条)。
(3)解雇は労働組合への通知義務あり
工会が組織されている状況において、使用者が労働者を解雇する場合は、その事由を事前に工会へ通知しなければなりません(中華人民共和国労働契約法第43条)。

解雇が法律・行政法規・労働契約に違反する場合、工会は使用者に是正を要求することができます。使用者は工会の意見を検討し、その処理結果を工会に通知する義務を負います。

5、まとめ

中国において労働者を雇用する場合は、中国の労働法令を遵守する必要があります。日本法とは異なる部分も多いので、中国労務管理の実務に精通した弁護士のサポートを受けましょう。

ベリーベスト法律事務所は、律師(中国法弁護士)を含む中国法務の専門グループを有しています。さらに、中国最大の法律事務所「北京大成律師事務所」と提携し、日本企業の中国進出を強力にバックアップいたします。

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